番外編【メグ】19
あれから一ヶ月が経つ。
今日はお城の『女神祭』を祝うパーティー。
お嬢様は今日がお誕生日なのだが、前倒しで昨日、学園のダンスホールでパーティーを開いた。
それはそれで色々あったのだが、今あたしはそれどころじゃないんだよね。
「ふむ。いいのではないでしょうか」
「そうよね、いいわよね」
「……あ、あの、あの……お嬢様……さすがになんつーか、これは……」
「メグ! 可愛い! 可愛い!」
「〜〜〜〜〜〜!」
あたしは今、お嬢様のドレスの一着をリメイクしたドレスを着させられているのだ!
化粧を施して、頭の耳を隠す事もなく、髪にはリボンと装飾品を多めに使って飾り付けられている。
いや、お嬢様は美しいし、マーシャは今日も可愛いよ、いつも通り!
でもあたしは!
あたしまで着飾る必要はないと思います!
「というか! やっぱあたしがパーティーに行くのは! どうかと思うんですよ!」
「なぜ? 貴女はわたくしの命の恩人。ヘンリエッタ様も是非と仰っていたのよ。それに、亜人の長の知り合いなのでしょう? 堂々とすればいいわ」
「で、でも!」
「メグ、おねげーだ、一緒に来てけれえええぇ!」
「マ、マーシャ……けど〜……」
ガシッとしがみ付かれる。
その必死な姿に昨日の事を思い出した。
昨日、お嬢様は学園のダンスホールで誕生日パーティーをしたんだよね。
で、そこへなぜか王様とお妃様、王子様が現れた。
ドン引きのお嬢様。
引きつるお兄さん。
お迎えの為に大慌てなリース家の使用人たちと、その手伝いで現れたお城の使用人たち。
いやいや、意味分かんない。
王子様は分かるよ?
お嬢様のお誕生日には毎年いらっしゃってるらしいもん。
でもさ!
王様はなんで⁉︎
お妃様、王様が何か悪さしないか見張りに来たとか言ってるし!
と、思ってたら、なるほど……王様はマーシャにべったり。
そしてデレデレ。
しかも、マーシャにドレスを山ほど贈ってきた。
き も い !
理由が分からず怯えるマーシャ。
あたしは仕事があるから、側にはいられない。
マーシャは、来年アミューリアに通うからパーティーのマナーなどを特訓中。
お嬢様は、身内やお友達しか呼ばないパーティーで、練習させるつもりだったんだ。
まさか王様が来ると思わないので困り果ててる一同。
『陛下はマリアベル様似のあの子を見初めてしまったのかしら?』
お城の使用人がこっそり話すところを聞いてしまい、血の気が引いた。
エディン様でもアレなのに……王様なんて!
……なのでまあ、マーシャのこの怯えようも理解出来るよね……。
「まあ、貴女がわたくしの使用人というのは今後考えなくてはいけないわよね……。亜人の長の方にもちゃんと相談しなければ」
ほあ⁉︎
お嬢様真面目か⁉︎
あ、いや真面目な方なのは知ってるけど!
「あ、あいつにはちゃんとオーケー貰ってるんです! だから……」
「いいじゃないか、メグだって飾ればこんなに可愛くなるんだぞって、あの朴念仁に見せ付けてこいよ」
「ちょっとおにーさん何言ってんの⁉︎ クレイがあたしがめかし込んだところ見たって鼻で笑うに決まってるから!」
「それはそれで見てみたいな」
ぐぬぅ。
いい笑顔で言いやがって〜!
鼻で笑われる方の身にもなってよ!
「今夜も陛下に会うと思うと胃が潰れそうだよぉ〜! お願いメグ、一緒にいて〜!」
「………………」
うっ。
そ、それを言われると……。
「わ、分かったわよぅ」
でもあたしの存在も目に入らない感じで王様に絡まれたら、あたしでもどうしようもないからね。
つーか王様なんて偉そうに座ってりゃいいじゃん。
いや、今日はお城のパーティーだし、今日は大人しく座ってんじゃない?
座ってろ!
「しっかし、陛下はなんであんたの事あんなに気にかけるんだろうね?」
「め、めっちゃ怖いさ……」
「そ、そうだね。……まさかあのおっさん陛下、あんたの事狙って……」
「いやださ〜〜‼︎」
そうだよね、歳の差がねー。
王様がいくつだか知らないけど、マーシャがお嫁に来いって言われたら行くしかないのかな?
お嬢様でも守れない?
だとしたら、あたしがマーシャを連れて逃げるしか……!
「ちなみにお嬢様は今夜、レオハール殿下がお迎えに来られるんですか?」
「そ、そう仰ってくださっていたわ……」
……お嬢様……王子様が迎えに来るのか。
それで今日一日中そわそわしてたんだな。
いや、それはそわそわする。
間違いなくそわそわするわ。
「お嬢様、やはり中で待ってらした方が……」
「来た!」
マーシャ、が門の方を指差す。
あ、本当だ。
あのやたらと豪勢な馬車は王家の馬車だわ。
とりあえずなんかキラキラしてる。
……馬車が近付くと馬車の中の王子様が見えて、それがますますキラキラ……!
目、目が! 目が潰れるううぅ!
馬車があたしたちのいるところの前に停まると、王子様が慌てて出てくる。
「ローナ、なんで外で待ってたの⁉︎ 風邪を引いてしまうよ⁉︎」
「……えええと……その……、……ま、待ちきれませんでした」
「え……」
っ……!!
ま、眩しっ!!
「……に、義兄さん……」
ん?
マーシャがお兄さんを見上げる。
あたしも王子様が眩しすぎるので、ちらっとお兄さんを見てみた。
え、ええ……?
「なんか無我の境地みたいな顔になってる……」
なぜに。
「……そ、そう言ってくれるのは光栄だけど……こんな時期に外で待つなんてダメだよ」
と、王子様がお嬢様にご自分のコートを羽織らせる。
あ、無理、眩しい。
直視出来ないって……目が潰れる。
「というかマーシャたちも⁉︎ も、もう乗りなよ! 寒いよ!」
「え、ええー、で、でも!」
「大丈夫、見た目より広いから。ほら! ……それとも誰か迎えに来るの?」
「ルークが馬車を回すと言っていたのですが……」
そういえば来ないな?
早く来てルーク、ケリー様!
あたしの目が保たない!
「何かあったのかな……なんにしてもそんな薄着では寒いだろう。まず乗って」
「は、はい。すみません」
「え、あ、あの、あたしも、ですか?」
だから、無理だってば。
直視出来ないって!
……それ、なのに……。
「勿論。どうぞ」
手を、差し出された。
笑顔で。
去年の春、川で助けてもらった時と同じーー。
でも、王子様の隣にはお嬢様とマーシャ。
そしてお兄さん。
ええ、ねぇ、ちょっと待って?
この人たち、全員あたしにとっては恩人だよ?
命を助けてくれたお兄さんと王子様。
危ないところを救ってくれたマーシャ。
『亜人族』を肯定してくれたお嬢様。
揃っちゃったよ?
恩人が……あたしにとって、人間族の根本を覆した人たちが……揃っ…………はっ……。
「む、むりーーー!」
「メグ⁉︎」
「無理無理! この空間が無理!」
「く、空間⁉︎」
キラキラしてる!
キラキラしてるーーー!
あんなの無理!
こんな空間無理ぃぃぃーーー!
「あ、あたし……あたし走っていきますのでお構いなくーーーー!」
「メグー⁉︎」
庭の端から、ガゼボへ飛び乗り、そこから屋根に登って走った。
走れ、あたし。
あの空間にいたら、死ぬ。







