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番外編【メグ】11



「メグ」

「はい! お嬢様!」

「少しお願いがあるのだけれど、いいかしら」

「?」


夏が過ぎ、お嬢様たちが夏季休みから帰ってきた。

あたしはお嬢様たちが実家に帰省中、穴蔵に戻っていたんだけど……そこでクレイに「秋頃、人間と同盟を組む」という衝撃的な話をされた。

もっと! 早く! 教えろよ!

と、怒鳴ったところでしれっと「お前にはあまり関係ないだろう」と言われてしまう。

そ、そんな事ないでしょーっつーの!

まあ、それはいいや。

クレイの考える事だし、人間との同盟は手放しで賛成だもの。

お嬢様のこの冷たい印象、完璧な感じにも慣れた。

話していけば少し同性に慣れてない普通の人だと分かる。

呼ばれて向き直ると、ほんの少し言いづらそうに唇が閉ざされ、それから紫色の瞳がまっすぐあたしに向けられた。

な、なに?


「実は来週マーシャがエディン様とデートに行くの」

「…………」


キリリ、とお嬢様が真顔で何か言いだした。

なんだと?

は? 待て、なんだと?

お嬢様、今なんと仰いましたよ?


「ええええ⁉︎ マ、マーシャが⁉︎」


エディン様って、エディン様って、エディン様ってええぇ⁉︎

エディン・ディリエアスの事かぁぁぁあーーー⁉︎


「え! ちょ、待っ、待ってください! エディン・ディリエアスって、あ、様って、お嬢様の元婚約者で女好きのクズ野郎と噂のあのエディン・ディリエアスですか⁉︎ あ、様ですか⁉︎」

「ヴィニーかケリーに何か聞いたの? ……ええ、まあ、そうね。でも、個人的にはちょうどいいと思っていたのよ。マーシャは来年からアミューリアに通う事になる。淑女としての振る舞いを、一日中続けられるか調べたかったし」

「ぇ……」


何かで殴られたような衝撃。

お、お嬢様……。


「まあ、それはそれとして、その事でマーシャがいじめられたりしていない?」

「⁉︎ ……いえ、今の所……あたしの知る限りは……」

「そう、なら良かった。……でも、マーシャがどこかのご令嬢に引き止められていたりしたらわたくしに教えてちょうだい。それから、これはデートではなく試験です、とも広めてくれるかしら」

「は、はい! 分かりました!」


マーシャとエディン様のデート。

その話をお嬢様から聞かされた時のあたしはこんな感じだった。

お嬢様の言う『試験』の方が正しいのだと。


でもーーー。




「どーなのかって聞いているのよ!」

「わっ!」

「マーシャ!」


本当に、たまたま。

一階の食堂へ行く道でマーシャが突き飛ばされているのを見てしまった。

あれはオークランド家のシンディさん。

と、その他取り巻き!

五、六人で囲んで突き飛ばすとか……。


「何してるんですか!」

「貴女は……確かこの子と同じリース家のメイド見習いよね? ちょっと、この子とエディン様が二人でお出かけされるって本当なの⁉︎」

「メイド風情がはしたないと思わないの⁉︎」

「落ち着いてください! マーシャは来年アミューリアに入学するので、所作のテストをエディン様にお願いしただけなんです!」

「所作のテスト?」


顔を見合わせるメイドたち。

その隙に、マーシャを抱き起す。

……やばい、怖い……いつもお上品に構えてても、やっぱり人間って……。


「それは本当?」

「ほ、本当です。お嬢様にそうお聞きしたので」

「…………」

「あら、私はエディン様が『デート』に誘ったと聞いたわよ」


どこ情報よそれ⁉︎

マーシャも突き飛ばされて驚いたのかオロオロしてるし……。


「そうよね、それに、公爵家のエディン様がわざわざメイド風情の所作のテストにご協力されるというのもおかしいわ」

「嘘つくと為にならないわよ?」

「おい、ウルセェっすよ」

「ひっ! ……ア、アンジュ、さん……!」


食堂から、アンジュさん!

一気に狼狽え始めたシンディさんたち。

かつかつ、と小さな体なのにものすごく……あ、圧が……!


「丸聞こえでしたよ〜。いやぁ、まずいですよねぇ、本当。『メイド風情』が、公爵家のエディン様のお楽しみに口を出すの……どーなんすかねぇ? シェイラさんに確認してみます?」

「っ!」

「あ、ひ、ひ、卑怯ですわよ! シェイラさんの名前を出すなんて!」

「は? どこが? あたしは確認するって言っただけですけど? おたくらの言ってる『メイド風情』がリース伯爵家のメイドと公爵家のご子息のお出かけに口を挟んでいいのかどうか、どう思います? って」

「……〜〜〜〜!」

「あんたらも使用人なら立場を弁えな。シンディ、特にあんたはね」

「ーーくっ!」


そう言われたシンディさんたちは悔しそうな顔で、食堂とは反対側に逃げていく。

ひゅ、ひゅーう、カッコいーい!

腰に手を当てて近付いてくるアンジュさん。

やっぱこの人すごいわ……。


「ありがとうございます、アンジュさん」

「あー、いいっすよ。つーかあんたらも『リース伯爵家』のメイドなんすから、もっと強めに言い返して良いんすよ?」

「え? い、いや、あの、そ、そういうのよく分かんないので……」

「……まあ、マーシャはともかくあんたは平民出身ですもんね」


なんだろう。

『マーシャはともかく』の『ともかく』が身分や育ちが関係ない意味合いで用いられたような気がしてならない……。


「マーシャは? 大丈夫?」

「あ、うん。…………」

「…………」


やっぱり突き飛ばされたのがショックだったのか。

肩を震わすマーシャはどこか辛そうに俯いて……。


「うっ!」

「マーシャ⁉︎」


急に苦しそうに⁉︎

まさか、突き飛ばされた時に怪我をーーー⁉︎


「トイレ! 無理! ごめんメグ! アンジュ!」

「さっさと行ってこい」

「ごめーん!」

「え……」


キュー……くるるるるるるら……と、まあ、確かに変な音がお腹からした。

したけれども。

いや、ええ? 嘘でしょ〜?


「多分昨日食わされた生貝だろうな」

「昨日食わされた生貝⁉︎ なんですかそれ⁉︎」

「マーシャがエディン様とデートするっつー噂を間に受けた奴らからの嫌がらせですよ〜。途中で見つけて止めたんすけどねぇ、一個食べてたみたいです」

「何やってんのよあの子……」


けど、相手がお腹壊すの分かってて、そんな物を食べさせるなんて悪質!

人間ってやっぱり酷い事、平気でするんだな。

いや、全員が全員じゃないのは、分かってるけど……。


「こっちも気ぃ付けてますけど……今年一年は完全に標的にされるでしょうね。あの子」

「! ……そ、そんな……なんとかやめさせられないんですか?」

「主導してんのがシンディなんでね〜、面倒くさい事に。……うちのお嬢がレオハール殿下の婚約者にでもなれば、ひっくり返す事は難しくありませんけど〜……」

「え……」


レオハール様の……。


「こ、婚約者……?」

「ええ、今うちのお嬢含め、具体的な候補は三人です。おたくのローナ様とうちのヘンリエッタお嬢様、そしてシンディんちのアリエナ様です」

「っ!」


い、痛い。

胸が。

なんで、だって、そんなの当たり前じゃない。

王子様が貴族のご令嬢をお嫁さんにするのは当たり前の事。

あたしは亜人なんだ。

そもそも、あたしの事なんて覚えてすらいないに決まってる。

なんで胸が痛いの。

意味、分かんない……。


「うちのお嬢がレオハール様の婚約者に収まれば、あいつらに好き勝手させなくて済みますよ。まあ、うちのお嬢は無理でしょうね〜」

「……む、無理なんですか?」

「身分も血筋もまあ、申し分ないんですけど……リエラフィース家は歴史が一番浅い。それにローナ様に比べると血筋、成績、所作諸々圧倒的に劣ります。次期王となられる殿下の後ろ盾になるには他の二人に比べると弱いんすよ。アリエナ様はローナ様に比べると成績も所作諸々もいまいち。分野によってはうちのお嬢より低いものもあります。ただ、人望に関してはうちのお嬢が一番ある」


ドヤ!

……と、胸を張るアンジュ。

お、おおう……。


「そんな感じで、レオハール様が婚約者を誰にするかで使用人宿舎の……主に女子宿舎のパワーバランスは変わるんすよ〜。アリエナ様が婚約者になれば、あたしもしゃしゃり出づらくなる」

「うっ」

「まあ、有力候補はおたくのローナ様です。もしローナ様が婚約者に内定したら、次期王妃の使用人として、プレッシャーがヤベェ事になりそうっすね〜」

「⁉︎」

「そんな感じで、引き続き仕事はしっかり覚えてシャキシャキ働くように心がけてくださいね〜。マーシャが来年アミューリアに入学したら、あんた一人になるんすから」

「……あっ」


い、言われてみれば⁉︎


「それまではあたしも見付けたら助けるようにしますよ」

「! ……あ、あ、ありがとうございます、アンジュさん」


ひらひらと手を振って、振り向く事なく食堂に戻っていくアンジュさん。

いやあ、かっこいいわ……。

かっこいいんだけど……プレッシャーのかけ方がローナお嬢様よりえげつないいぃ〜!




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