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番外編【メグ】6



「はあ? メイドになる? アホか」


第一声が辛辣!

知ってたけど!

知ってたけどー!


「アホって言うな! そう言わずにお願いクレイ! マーシャにね、誘われたの。マーシャ、再来年アミューリアに通う事になったんだって。それでー、自分が出来なくなる仕事を手伝ってくれる下女を探してるんだって! だから、あたしにどうかって! マーシャが頼ってくれたんだよ!」

「…………またその娘の話か。事情は分かったが、俺が良いと言うと思ったのか?」

「そりゃ思わないけど……。帽子かぶってれば大丈夫だよ! メイド服スカート長いし!」

「そういう問題じゃない」


くぬぅ!

こっちを一瞥して、書類に目を通す。

多分報告書。

亜人は王都の地下に穴を掘って住んでいる。

人間がやりたがらない仕事を人間に扮して行ったり、『汚れ仕事』……いわゆる諜報活動や情報収集、時には暗殺も請け負ったりする……らしい。

あたしはそういうの、クレイに「圧倒的に向いてない」と言われて関わらせてももらえてないけど。

いや、分かるよ?

クレイの気遣いって、流石のあたしも分かるけど……。

みんな穴蔵の中で何かしらの仕事をしているのに、あたしだけいつまでもふらふらふらふら……さすがに気持ち悪いのよ!


「まあ、いいじゃありませんか。クレイ」

「先生……」

「先生!」


文句を言おうと、じゃなくて、せっかくマーシャに誘ってもらったんだもの。

なんとしてでも説得しようと再び口を開いた時、優しい声がそれを阻む。

ツェーリ先生だ。

ツェーリ先生はエルフと人間の亜人。

亜人族の中でエルフの亜人はツェーリ先生だけ。

寿命がものすごく長くて、若そうに見えるけれど千年ぐらい生きてるんだって。

あたしたち亜人族に文字の読み書き……まあ、文字自体はエルフの使っている文字らしいんだけど……を教えてくれる。

文字通りみんなの先生!


「貴方も“信頼出来るかもしれない人間”を見つけたのでしょう? やっと我々も陽のあたる場所で暮らせるようになるかもしれない。その分岐点に差し掛かっている。そんな今だからこそ、積極的に人間と関わり、知っていく事は大切かもしれない。もちろん慎重に。…失敗すれば我々は今の居場所さえ失うでしょう」

「確かにそれはそうですが……メグにその慎重な行動が出来るかどうか」

「な! で、出来るに決まってる!」

「どうだか……」

「うー……」

「ふふふ」


いやいや、先生笑い事じゃあないから!

んもおおぉ、クレイってなんでこんなにあたしへの信頼度っていうか、信用が低いの⁉︎

確かにあたしはあんまり仕事とか……すぐ飽きるタチだけど!

でも、この話はマーシャが持ってきてくれたの!

マーシャがあたしを頼ってくれたの!

何が何でもやり遂げる!

睨むように見つめていると、ツェーリ先生のおかげで書類から離れた視線があたしに向けられた。

あたしは本気なんだから。

そんなに睨まれたって、あたしは譲らないんだから!

むーーーー……。


「……分かった、でも条件がある」

「え! なになに、なんでもやる!」


やった!

クレイが折れた!

マーシャと仕事が出来……!


「とりあえず諜報活動訓練は受けろ。三ヶ月でニコライが納得するレベルに達したと判断したら、その貴族のメイドとやらになるのは許す」

「ちょ、諜報活動訓練⁉︎ 無理無理、あたし向いてないって! 全部顔に出るって……」

「だからそれを直せ。それと最低限の人間の生活も学んでおけ」

「えー……。マーシャはあたしが亜人なの知っても全然動じなかったよ? 平気だよー……」

「っ……そういう問題じゃねーんだよアホ」

「彼女以外の人間にバレては厄介でしょう?」

「うっ」


なんでもやるとは言ったけど〜、諜報活動の訓練なんてめんどくさ……い、いや、大事なすごーいお仕事だという事は分かってるわよ?

むしろあたしら、そういう事の出来るやつらのお世話になっているんだもの。

…………。

うわあ、考えなければ良かった〜……あたしマジ穀潰し……。


「…………」


そうね、そう考えると……マーシャに迷惑かけちゃうもんね。

最低限の人間の生活か。

あたしはそんな事も知らずにマーシャと一緒に働きたいと思ってたのか。

う、うん、めんどくさ、じゃなくて大変そうだし向いてなさそうだけど!


「分かったよ、やるよ訓練。ニコライを納得させたら、マーシャと一つ屋根の下で暮らせるんでしょ⁉︎」

「え……?」

「え?」


なんでここで聞き返すのよ。

ち、違うの?


「そうなんですか?」

「知らんが……貴族と使用人は寝床が別なんじゃないか?」

「そうだけど、マーシャはメイドだから! あたしがメイドになったら同じ寝床じゃないの?」

「……あ、ああ……」

「うふふふふ、マーシャと同じ寝床……。毎晩なでなでしてもらえたりなんかしちゃったりして……うふふふふ……」

「…………」

「…………」


そうよ!

マーシャと同じ部屋でマーシャに毎晩かみのけをなでなでしてもらう!

あたしの密かな野望!

……そ、それに、マーシャの主人は王子様と親しいみたいだし……マーシャは毎日王子様と昼食の席を一緒にしてると言っていた。

お、王子様と! 王子様とよ⁉︎

し、信じられる? 信じられないわよねぇ⁉︎

だ、だから、あたしの働きが良ければマーシャの主人に連れて行ってもらって王子様を一目見る事も夢じゃないかも……!

マーシャとの生活……、王子様!

ひゃあぁぁ〜! 夢みたいなんだけど〜!


「……なんだかものすごく不安というか、邪なものを感じるんだが」

「な! そ、そんな事ないわよ!」


とりあえずそんな感じでニコライから人間の普段の生活や、諜報活動に関する知識を叩き込まれる事になった。

マーシャは再来年入学なので、三ヶ月以内にニコライから合格をもらって来年にはマーシャのお仕事を引き継ぎするべく、見習いとしてアミューリアの使用人宿舎に入る。

は、はわ〜、ドキドキだわ!


「メグ」

「にゃん!」


ゴッツと殴られた!

え、な、なに⁉︎


「人間の文字の読み書きが出来る程度では諜報員とは言えませんよ」

「……は、はい」


し、仕事モードじゃないのにこの厳しさ!

ニコライのくせにぃ……。

あ、ああ、ニコライは吸血蝙蝠きゅうけつこうもりの亜人。

亜人は親の種族と似通った種族の特徴を持つ子どもが生まれてくる。

ニコライの親はどちらも獣人の亜人。

多分、血筋の中に吸血蝙蝠の獣人がいたんだろう。

あたしの親も猫系の獣人。

クレイはーーー。


「……ねえ、ニコライ。クレイは本当に戦争に行くつもりなのかな」

「ええ。その方向で人間の王族と交渉を行っています。……レオハール殿下は国王バルニールよりも思考が柔軟でらっしゃる。彼が次期王になるのならば、我々亜人族とのわだかまりも解消していくかもしれません」

「ほ、ほんと⁉︎」

「ですが、現時点では厳しい」

「⁉︎」


ニコライは顎に指を当てて、天井を見上げる。

壁にかかった蝋燭が部屋を照らす。

穴倉に入るささやかな風に揺れる蝋燭の光の加減で、ニコライの髪がいつもより淡いオレンジ色になっている。

その柔らかな色がここまで似合わない男……。

クレイ以外ならダントツでニコライだろうなぁ。

言ってる事も、意地が悪いし。


「なんで? レオハール様なら……王子様なんだから次の王様は……」

「おや、メグ、レオハール殿下には異母妹がいるのを知らないのですか?」

「は? 知ってるわよ、我儘で横暴なマリアンヌ姫でしょう?」

「彼女が王位継承者、次期女王なのですよ」

「…………」


思考が停止したわよね。

はあ?

王都の平民なら誰でも一度は悪口を言った事のあると言われる、我儘姫マリアンヌ様が……次期女王?

はあ?


「はあーーー⁉︎」

「本当に知らなかったんですか。これはまずい」

「ま、まずいとか……だ、だって! だってあのお姫様、税金を自分の贅沢にしか使わないんでしょ⁉︎ ぞ、増税したのは戦争の準備だってみんな言ってたけど、本当は姫様の散財を国費で賄う為とかなんとか……」

「中途半端な知識ばかりですねぇ。町へ出て何してたんですか」

「うっ」


そ、それは、人間に扮して情報収集してるみんなのところへ挨拶回りとかしてるぐらいですけど……。

そんな、じゃあ王子様が王様になるわけじゃないのー⁉︎


「ウェンディール王国は女神を信仰しています。王子よりも王女が王位に就く事は珍しくありません」

「そ、それは知ってる。ツェーリ先生は『エルフはだんしが王になる』って言ってた。女の人は王様になれないって。獣人や妖精もそうだよね。まあ、獣人の場合は『誰よりも強い者』で、妖精は『妖精女王はティターニアに並び立つものの意味が生まれる故に、禁忌とされている』……」

「そうです。人魚族は女尊男卑故に女王以外ありえず、シェリンディーナ女王国と国名に女王が入る程。しかし人間族は男女関わらず、先王が次期王に相応しいと思った者を指名します」

「……そ、それじゃあ普通に王子様の方が……」

「皆がそう思っていても、現王バルニールが次期王をマリアンヌと指名しているのです。理由は……まあ、愛娘への愛故でしょうね。レオハール殿下は国王に好かれていないのです。彼の人望の高さが王すら上回る故なのか、その辺りは不明ですが……殿下もまた『大陸支配権争奪代理戦争』への出兵が決まっていると聞きます。死地へ向かい、戻るか分からない王子より王女の方が確実と思っての判断なのかもしれません」

「…………!」


王子様も、戦争へ……⁉︎

クレイと同じように……?

そんな……。


「メグのようにレオハール殿下が次期王になれば良い、という願望から、レオハール様に『王位継承権』がない事すら知らない者も多いですが……貴族の使用人になるのなら覚えておいてくださいね」

「……う、うん」

「さあ、それでは改めて……貴族の使用人になる為のレッスンを始めましょうか……」

「⁉︎ ひ、ひえ……」


にっこりと微笑むニコライ!

ど、どうして下から光源が⁉︎

怖い怖い怖い怖いーーーーー!



「にゃああぁぁぁぁ〜〜〜〜⁉︎」




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