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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園二年生編

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牙向く者【前編】



健康診断の為、お嬢様たちが病院へ入っていく。

この後、健康診断を終えた後にどこへ行くかはまだ話し合いの最中。

午後は前夜祭として亜人たちとのパーティーが昨日と同じ会場で行われる。

アミューリアの生徒会役員や有力貴族の子息息女は招待されており、うちのお嬢様は元よりヘンリエッタ嬢やアリエナ嬢もセントラル領主家の者として参加せねばならない。

なので、昼食後には帰らないと。

……いや、しかし……最近出費が激しい。

今回のパーティーはまあ、一度着たドレスを使いまわしてもいいだろうが……明日も同盟締結を祝して祝賀パーティが同じ会場で行われるので……着回しはまずいよなぁ。

3日連続同じ場所でパーティーとは……ハードだ。


「……新調するか……」


俺は当たり前だが馬車で待機。

お嬢様の新しいドレス。

誕生日パーティー用と『女神祭』用と『王太子誕生日』用と『星降りの夜』用と『年末年始パーティー』用はすでに用意してあるが、この調子だと予備も何着かあった方がいい気がする。

マーシャはお嬢様のものを手直しして着ればいいよ。

ああ、天気がいいなぁ。


「おい」

「うおおぉう⁉︎ いつから居た⁉︎」


長い足を組み、薄汚れたダークグレーのフードを深くかぶった男が御者台の、俺の隣に座っていた。

この神出鬼没っぷりと、この小汚いマントを身に付ける男を俺は1人しか知らない。


「クレイ!」

「たまたま見かけてな。……ここはなんだ?」

「なんって、病院だよ」

「? 王子の妻は病なのか?」

「…………」


……それってうちのお嬢様のこと?

ふぉ、ふおぉ……。


「いや、健康診断だよ。悪いところがないのかを調べに来たんだ」

「ほう……人間はそんな事もするのか」

「お前らに比べて体が弱いからな。…何か用があったんじゃないのかよ」

「用というほどのものはない。……ただ、明日締結日だろう?」

「ああ」


人と亜人の同盟を結ぶ日だ。

前夜祭にはクレイも招待されているはず。

まさかとは思うが……。


「お前その格好で行くつもりじゃないよな? 今夜。あと明日も」

「何がだ」

「パーティーだよ。前夜祭と、明日の締結日! その後も祝賀パーティーがあるだろう?」

「そんなようなことを言っていたな。呑気なものだ、人間は」

「……それは否定しないが……まさかサボる気か?」


パーティーの目的は亜人たちの存在を貴族に知らしめる意味が大きい。

特に南側……サウス区は亜人に与えられる土地の候補になっている。

政治的な意味でも、サウス区の、ハワード公爵とは面識を持っておいた方がいい。

なによりあの土地は既に亜人の別勢力と接触があるというじゃないか。


「……分かっている。亜人族のために必要な事なんだろう。……だが、腹の中を上手く隠して上辺だけで口約束しかしない連中は信用出来ない」

「……会談の席で思い知ったか?」

「…………」


思い知ったっぽい。


「それに、人間は見目をやたらと気にするな? 衣服に贅を尽くしてなんの意味がある?」

「半分自慢だな、権威を見た目で分かりやすく振りかざすためだ。えーと、お前らで言うと初手の威嚇?」

「ふむ」

「もう半分は礼節だ。見目を整えておく人間と見目を気にしない人間なら見目が整っている方が信用されやすい。人に会う時に汚れた格好で行くと無礼に思われるんだ」

「……なぜ?」

「せっかく掃除したり、もてなしの準備をしていたのに泥だらけで来られると掃除や準備が馬鹿にされた気持ちになるんだよ」

「……。……そこはよく分からない」


マジか。

というか、じゃあコイツマジでこの格好でパーティーに行くつもりだったのか?

……ヤバイ、早急になんとかせねば。


「仕方ない、俺の服貸してやるよ。背格好近いし、着れるだろう多分」

「…………」

「嫌そうな面するな。ちゃんとした格好で行かないと亜人族はまともな格好も出来ないのかと馬鹿にされちまうぞ」

「…………」

「お前の格好で、亜人族の第一印象を決めつける奴らが必ずいる! 言うことを聞け」

「…………。それはスティーブンも同じことを言うと思うか?」

「は? スティーブン様?」


ぼや〜……と、もしここにスティーブン様がいた場合を思い浮かべてみる。

……つーかなんでスティーブン様?

あれか? 前回会談の時に同席したから?

え、本当に何があったのあの会談で。


「まあ、それは言うだろう。ボロクソに言われるぞその格好。あの人、そういうの気にするし」

「……来るのか?」

「スティーブン様か? 来るな。アミューリアの生徒会役員は招待されているから」

「……………………」


……思っくそ表情が暗い……。

スティーブン様……会談の時に一体何をしたんだ……⁉︎


「そうか……あれが敵になるのは恐ろしい……」

「…………何か言われたのか? 前回……」

「あれは男、なのだろう? だが心は女だというし、見目も女そのもの……。亜人は女は殴らない。あれは力でなんとかなる生き物ではない。……スティーブン……体は男だが、我々には殴れない生き物だ。不可思議すぎて恐ろしい」

「う、うーん……」


クレイ、かっこよすぎか。

女は殴らないとか、マジイケメンか。

スティーブン様、クレイの中で一応『女子』の扱いに確定?

不可思議すぎて恐ろしいって……。


「スティーブン様の言うことなら聞くのか?」

「言いなりになるつもりはないが善処する。我々亜人はメスの方が強い。力ではなく、立場が」

「ふ、ふーん?」

「人魚族の影響もあるが、メスは子を産む力がある。それはとても凄いものだ。大事に守らねばならん。亜人族はこの世界の神々に認められないが、我々はここに居る。他の生き物と同じように血を繋ぐ。メスにはその力がある。守らねばならん」

「う、うーん」


言ってることはわかるがなんだか無性に「それスティーブン様に当てはまらないからな?」って言いたい。

……しかし、心が女なら女として扱うとかクレイがカッコよすぎてぐうの音も出ない。

そんな事言ったら俺がものすごいカスみたいじゃないか。


「……服に関してはお前の意見も尊重しよう。それが人間にとって重要だというのなら、人間の真似事もして見せる。それが同胞のためになるのだろう?」

「クレイ……」


…………テライケメンかよ。


「じゃあ、寮で準備する時に来いよ。お前のことも着付けてやる」

「分かった。貴様に任せる」

「……まさかとは思うが1人で来るのか?」

「いや、ツェーリ先生も来る。……王子に先生が会ってみたいそうだ」

「例のエルフの亜人か」


亜人にとっては重要人物の1人っぽい人だな。


「その人の格好もヤバそうなら服貸すぞ?」

「いや、ツェーリ先生は大丈夫じゃないか? ……いや、分からん。俺から見て問題なさそうに思った」

「とりあえず一度連れてこい。お前もろともチェックする!」

「分かった。…………」

「?」


指先が手摺に添えられ、御者台に立つクレイ。

俺が言うのもなんだけど、さすが追加でメイン攻略対象になるだけあってカッコいいなぁ、こいつ。

立ち姿はライナス様のようながっしり系なのに、手足は長くてモデルのよう。

愛想はないが、亜人族の長を若くして務めるだけあってむしろ威厳たっぷりのように見える。

おのれ、ただのイケメンめ。


「王子の身辺警護は問題ないんだろうな?」

「ん? あ、ああ、まあ、さすがに今は辞めた騎士も戻っているから大丈夫なはずだが?」

「俺の部下じゃない亜人の匂いがする。この匂いはネズミか? 諜報活動でもしているのか……」

「ネズミの亜人?」


なにそれ完全にただのねずみ男じゃ……。


「他にも複数……ニコライ」

「ここに」

「おぎゃあ!」


いくら往来からやや離れたところに馬車が停まってるからって普通の人が見たら驚くよ⁉︎

普通に馬車の屋根の上に現れやがって!

登場かっこよすぎか⁉︎


「鼻の利く奴らを総動員して構わない。狩れ」

「了解致しました」

「狩るの⁉︎」

「余計な茶々を入れられてもかなわんだろう?」

「そ、それはそうだが同族じゃ……」

「同族だからこそ、我々が狩る。人間には無理だ」

「う……」


そりゃ確かに人間と亜人じゃ身体能力に差があるだろう。

しかし……、……いや、これが一族の長の決断なのか。


「貴様も重々気を付けろよ。では後で訪ねる」

「あ、ああ?」


俺?

俺は狙われるような立場じゃないし大丈夫だろう。

だが、まあ、心配してくれるのはありがたい。

馬車の上からひとっ飛びで建物の屋根に着地するクレイの、その縦横無尽ぶりたるや。

改めて亜人ってすげー……。

さすがの俺でもあの距離と高さをここからでは無理だわ。





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