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亜人族と、人の未来の第一歩【後編】



窓から差し込む光が朱色に染まった頃、椅子の背もたれに思い切り背中を乗せて伸びをした。

積まれた資料は整理整頓して、本棚や王族にのみ閲覧が許された書庫に片付けたので俺にあてがわれた部屋はだいぶスッキリしただろう。

とはいえ、俺が学ばねばならない量に変化はないんだが……帝王学や歴史とか特殊なもの以外は、存外前世で学んだものが多いのが救いだな。

夕飯前に一休み、と席を立ち上がった時、扉がコンコンと音を立てた。

来客?


「ヴィニー、いい?」

「レオ?」

「会談が終わったよ。その話も含めて……相談があるんだけど」

「座れ」


レオの相談事だと⁉︎

即、お湯をストーブで沸かし始めて茶菓子を並べた。

俺が持ち出した椅子に座るとどこかしょんぼりとしたレオがそれに腰掛ける。

さすがに疲れているみたいだな、無理もないと思うが……。


「クレイたちは帰ったのか?」

「うん。ご飯に誘ったら即答で断られたよ」

「そ、そうかー……」


断るんかーい。

……まあ、初会談だからな……いや、初会談だからこそ夕食は一緒に摂れば良かったのに!

親睦を深める意味でも悪くなかったと思うぞ?


「で、首尾は?」

「今度もう少し大々的に彼らを招待して、城の広場で正式に同盟の締結を行う事になったよ」

「城の広場って……あの城門の横の?」

「そう、戴冠式や結婚式、生誕した赤ん坊のお披露目式の時に民にも解放されて大々的にやる場所ね」

「そうか……」


広場っていうのは城門を入ると右手に広がるてまあ、読んで字のごとく広場だ。

国民が国王の姿を見る事の出来る、ある意味唯一の場所。

あそこを使うのなら『ウェンデル』に住む国民も亜人とウェンディール王国が正式に同盟を結び協力関係になる事を直に見聞きして知る事になる。

悪くはない、かな?


「いつ頃やるんだ?」

「来月かな。色々準備と、条件の交渉が続けられる事になっている。……かなりの強行スケジュールだけど、コリンズが僕に合う武器を作るのにどれくらいかかるか分からないと言うから……」

「え? 剣って作るのにそんなに時間がかかるものなのか?」

「理由は色々あったね……材料となる鉱石の採掘と、僕専用の物にするから調節を色々行わなければならない、とか……。まあ、僕を亜人の住処に入れたくないから城の騎士団の詰所横にある鍛冶場を使う事になって、その場所に馴染むまでの時間諸々を考えると……というのが最もかな?」

「うっ……それは確かに時間がかかりそうだな……」


この城も以外とだだっ広いものな。

騎士団の詰所横に鍛冶場まであるのだから。

本来は騎士団専用の武器の作製やメンテナンスが目的の場所だが、レオの武器は城の鍛治職人でも打つ事が出来なかった。

ひとえにレオの怪力のせいなのだが、それも戦争で勝つために『記憶継承』を強く発現させる実験の成果。

レオだって好きでわざわざ作ってもらった剣を壊しているわけではない。

そんなところに偏見差別に晒されてきた亜人の鍛治師が通うとなると……城の鍛治職人たちにとってみれば目の上のたんこぶ……。

嫉妬の炎でお茶が湧きそうだ。


「その他の文化交流も検討されてはいるけれど、今のところ具体例は上がっていないね。アルトが亜人の宗教に興味を持っていたのは伝えたけれど……」

「ああ、そんなような事言ってたな」


あの宗教関係キャラが変わったようにテンション上がる文系ツンデレキャラ。

……とはいえ、今はハワード家ショックであまり元気がないらしい。

ルークがこの間「アルト様、最近ぼくの作ったお弁当を食べてくださらないのです」としょげていた。

昼休みの薔薇園にもめっきり姿を現さなくなったし、ハミュエラもアルトの様子がおかしいからなのか無理矢理連れてくる事はない。

……まあ、ケリー情報によるとハミュエラがアルトに近付くと最近本を顔の前に開かれて、その文字を見るなりハミュエラは寝るそうだ。

アルトの編み出した、対ハミュエラ兵器……難しい本!

……そういえばプロフィールにめっちゃ書いてあったよ……ハミュエラの弱点。

俺なんで今まであんなにはっきり書いてあった弱点を見逃していたんだろう……我ながらアホすぎる……。


「なんにしても、亜人たちと僕らは少しずつお互いを知る努力をしなくてはいけないんだよね。……とても難しい事なのだろうな、と改めて実感したよ」

「……そうか。でも、やるんだろう?」

「言い出したからにはやりたいな。……それと、僕は今回の戦争、もしも優勝出来たのなら他の種族たちとも平和協定を結びたいと思ってるんだ」

「……へ……⁉︎」


と、突然……え? なん……⁉︎


「他の種族と、って……獣人や人魚、エルフ、妖精……と?」

「うん。元々『大陸支配権争奪戦争』は人間、獣人、人魚が主に他の種族へ侵攻を繰り返し行ったことが発端でしょう? ならもう、そんな事をお互いにしません、と神々の前で約束すればこんな戦争、やらなくていいと思うんだ。優勝した、勝者の声なら他の種族も聞いてくれるはず……だと、いいな〜…………なんて……」

「…………」


て……………………天使かな?

いや、でも、もしもそれが叶ったのなら……俺たちで最後に出来る。

ああ、そうだな……確かに……伝わっている他の種族の考え方は遥か500年前からのもの。

他種族の考え方が今も伝わるものと同じとは限らないもんな?

というよりも、支配種によって毎度滅びかける人間族より彼らの方が進んでいるかもーーーーあ、ダメだ……『フィリシティ・カラー』のバッドエンドに『人間族は滅んだ』……がある。

……つまりやはり、獣人や人魚は変わっていない。

でも、レオの方法……勝者の声ならば少なくとも獣人は無碍に断る事はないはずだ。

あいつらの性質は血と戦いを好み、強さこそが全て。

クレイたち亜人もその性質を強く持っていて、クレイは他の長候補だった2人を戦闘でねじ伏せたってニコライがこないだ言ってた。

つまり、それと似たような状況になれば少なくとも獣人は従ってくれる可能性が高い。

エルフは他の種に興味がないが争いを好む質ではないというし、妖精はそもそも血の匂いを苦手とする。

……人魚だけ、他の種族が賛成している事に反対も出来ないだろう。彼らも知性はあるのだから。

となればーーーレオの考えは決して不可能では、ない。


「そうだな、やってみる価値はあるな」

「ほ、ほんと?」

「ああ、獣人は勝者の思想を尊ぶと聞くし、エルフも妖精も争いを好まない。彼らが賛同してくれれば人魚も文句言えないだろう。神々も争いをしないというのなら、きっと……」


俺がそう言うと、レオははにかんだ。

……王子様なんだなぁと、ぼんやり思う。

まだ16歳、なのに……500年後の未来を見据えてとんでもないことしようとしてるぞ、こいつ。

俺やマーシャは絶対思い付かなかった。

やはり根本から俺たちとレオは違う。

育ち云々とかのレベルではない。


「……あの、ええと、じゃあヴィニー……」

「もちろん、手伝うぜ。戦争に行くのがほぼ確定だからな」

「ごめんね、本当なら……生き延びる事を一番に考えるべきなんだろうけれど」

「なんでだよ。いいだろ、それだって考えておいた方が。それに俺は他の種族の国も見てみたい。お前とお嬢様が結婚したら長期休暇でも貰って各国旅してみようかな」

「き、気が早すぎるよ⁉︎」

「でも、お前はもううちのお嬢様に決めてくれてるんだろう?」

「……、……それはまあ……僕の初恋はローナだもの」


さっきとは違って頬を染めながら呟くレオの可愛さときたら。

え? これ俺の兄貴心による贔屓目が発動してるから?

いやいや、これはエディンやヒロインでなくとも胸キュン必至の可愛さだろう。


「……ところで、俺この間の会議微妙にハブられてたんだけど、結局ケリーたちはオークランド家をどう丸め込むつもりなんだ?」

「あ、ああ……ヴィニーはライナスやアルトのお世話してたものね。……ええと、アリエナ嬢を吊るし上げてそれを皮切りにオークランド家を破滅させるとかなんとか怖い事言ってたね」

「だ、誰だそんな物騒な事を言っていたのは! ケリーか⁉︎」

「ケリーとエディンかな」

「あいつら本当は仲良いんじゃないの⁉︎ タッグ組ませちゃダメじゃね⁉︎」

「そこにスティーブも加わると僕の手には負えない感じだったよ。……何故か僕も途中でハブられたから概要は詳しくわからないのだけれど……そうか、ヴィニーも聞かされてないのか……。ついでに聞きたかったんだけど」


えー……なにそれ怖い。

レオまで途中からハブられた?

過保護なエディンとスティーブン様がレオをハブいた、と考えると……な、なにをする気だ、あの3人……⁉︎

いや、もうレオを途中でハブいた時点でレオに聞かせられないような事するつもりなのは察したが!


「そ、それとなく聞いておく。……あ、そうだ、レオ、オークランド家といえば……」

「うん? なぁに?」

「オークランド家のご子息はダドリーとサクレット、2人だけなんだよな?」

「え? どうして?」

「ちょっと確認だ。……うちのルークがオークランド家の家紋が入ったネックレスを持っていてな……。あいつの母の遺品だそうだ。……あいつ自身の『記憶継承』の発現の仕方も上流貴族レベルだし、まさかとは思って調べてあるんだが……」

「え、ええ……? ま、まさか?」

「って、思うだろう? ……ケリーにはまだ話してないんだけど……あいつもルークは貴族の隠し子だとは思ってる。もしルークがオークランド家の血筋の者なら、お取り潰しは可哀想なんだよな……」

「……それは……。…………。……うーん……」


あ、悩ませてしまった。

それでなくとも考える事の多いレオに。


「あ、いや、こちらで調べてる最中だから気にしないでくれ。ただの確認って言っただろ」

「う、うん。……でもゴヴェスならなきにしもあらずだなぁって」

「え?」

「ゴヴェスの息子2人は母親が違うんだよ。彼は最初の妻と死別後、後妻を迎えていたはずだから。ダドリーとアリエナは最初の奥さんの子供だったと思うよ。サクレットだけ今の奥さんの子供だね」

「…………ど、どこも色々ありますね……」

「……そうだね。……でも…、それだと少し……」

「ん?」

「ルークは今年16歳でしょう? アリエナ嬢の一つ下……」

「あ……」


そういえば確かに?

ルークはケリーと同じ歳。

アリエナ嬢は俺たちと同い年。

サクレットがマーシャと同い年だとすると……。


「……やっぱり浮気かなぁ……」


時期的に『新婚さん』のはずなのだ。

そんな時期に他の女と子供を作ってたとしたら……それはもう今の奥さんからすると憤怒のごとく怒り狂う事案じゃん。

ルークの身が危険すぎる!

調査はより、慎重に行わなければいけない!


「ただゴヴェスは非効率的な事はあまり好まないタイプだから、違和感は感じるね。奥さん探し中に出来てしまったのかな?」

「余計最低じゃねえか?」


生々しいよ。

……と、いうか、それならなんでルークの母親を娶ってくれなかったんだ?

身分かな?


「なんにしてもルークは父親に会いたがってる。でも、迷惑にはなりたくない、とも言ってるんだよ…」

「そうか、まあ……そうだよね……」


俺らの親父はアレなので、気持ちが分かると言ってやる事がどうしても出来ないのだが……。

極々普通の一般論として、子供が父親に会いたいと思うのは普通の感覚だろう。


「ヴィニーに教えてもらったサウス区謀反の件は調査中だけど、限りなく黒なのは間違いないみたい。ゴヴェスは魔法研究所の研究成果を、サウス区に居る亜人族に横流ししているみたいだしね」

「クレイたちに聞いたのか?」

「うん。……こちらもその線で調べ始める予定だよ。……クレイに証拠の書類ももらったから……陛下に報告したら一発だね」

「わ、わあ……」


クレイ、仕事早すぎるよ。

証拠の書類ってなんなの、と聞けば「魔法研究所でまとめた資料の束の写し」らしい。

その写しが魔法研究所職員の執筆と一致すれば……な、なるほど。


「それでも言い逃れするなら魔法研究所の職員たちにも同罪で拘束しないといけない。時期的に彼らを失うのはあまり好ましくないのだけど……」

「た、確かにな……」

「……陛下、マーシャに会って少し元気にはなったけど……セントラルの領主家が謀反を企てていたなんて知ったらまた寝込みそうだから、こじんまりと処理したいなぁ」

「……………………」



うちの陛下、マジガラスハート……。



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