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ヘンリエッタ嬢とデート【4】



「と、いう感じでうちのケリー様は優秀な上に大変な努力家でもあるのですよ」

「ふ、ふふふふ! そ、そうなんですね!」


あれから1時間くらいケリーについて語って聞かせるとヘンリエッタ嬢の顔色も随分良くなった。

いや、むしろ非常に楽しそう!

ふっふーん、これは正解だったな。


「ヴィンセントとケリー様は本っ当に仲がよろしいのね!」

「…………」



……………………ん?



「ケリー様の事をお話ししているヴィンセント、とてもキラキラしていて……ケリー様が大好きなんだなって伝わって参りますわ! うふふふふ、うふふふふっ!」

「…………、え、えーと……」


そ、それはなんというか微妙に違っ……!

そりゃ好きか嫌いかで分けるなら好きだよ、当たり前だろ!

ガキの頃から一緒なんだから弟みたいなもんで……じゃなくて!

あれ、おっかしいなぁ〜!


「………」

「?」


ヘンリエッタ嬢?

急に俯いて、一体……。


「あの、あの……違ってたら、ごめんなさい……」

「え?」

「……ヴィンセントも……もしかして貴方も『ティターニアの悪戯』に遭ったの……?」

「っ」


ぐっと、背が強張る。

『ティターニアの悪戯』……この世界に、女神たちが悪戯で異世界の人間を落っことす事……。


「さ、さあ? どうなのでしょうか? …………。……自分ではよく分かりません……」

「そ…………、……そうよね」


俺の『記憶継承』が前世の記憶まで呼び起こすほど強く現れたのは……斑点熱のせいか、あるいは王家の血のせいか。

俺には分かりかねる。

ただ『ティターニアの悪戯』だと思った事はない。

女神という存在に出会った事があるわけではないから。

まあ、お嬢様は女神と言えば女神だがこの場合カテゴリが違うという事で。

……だから俺が『ティターニアの悪戯』に遭ったかどうかははっきり言って「分からない」のだ。

『ティターニアの悪戯』に遭っているというヘンリエッタ嬢には申し訳ないが、俺は多分、貴女と『同じ』ではない。


「ねぶた祭り、ってさっき言いかけた様に聞こえたのでもしかしてと思ったのだけれど……」

「え?」

「え、えーとね、ほ、本当のことを言うとわたしの『ティターニアの悪戯』は夢にアミューリア様が出てくるだけではないの! ……別な世界の人間の魂が宿ってるというか……」

「……え……?」

「……、……貴方は、違うの?」

「…………」


魂が、宿る?

……ね、ねぶた祭りを知っている?

まさか、だろう?


「…………。多分、違いますね」

「! ……そ、そう……ごめんなさーーー」

「俺は斑点熱に罹った時に『思い出した』んです。前世はこの世界の人間ではないと」

「…………え?」


もしかしたら。

……もしかしたら、彼女は……。

だめだ、なんだ、この感じ、期待、している?


「俺は死んだ時の事を覚えてるんです」

「し、んだ?」

「はい。飛行機の事故で」

「………………」

「分かりますか? ……飛行機」

「…………」


コクン、と……静かに頷くヘンリエッタ嬢。

ーーーー飛行機を、知ってる。そうか……。

目を閉じる。

なんだろうな、この感じ……不思議なもんだ。


「そうですか……」

「…………ごめんなさい……短慮でした……」

「いえ。……お会い出来て光栄ですよ」


心の底からそう思う。

心の底から、本気で感謝した。

……マジかよ、ヘンリエッタ嬢……俺と同郷、の人が入ってんの?

あははは……そうか〜……。


「いつからですか?」

「……あ〜……例の南校舎で倒れた時なの。あれから1週間学園をお休みしたでしょう? ……あの時に色々ね……思い出したというか、なんというか……」

「そうだったんですか。もしかしてその影響で、なんというか、以前より性格がマイルドになられたというか……」

「え、ええ、そうね。でもみんなには内緒にしていてくださいませんか? さすがに信じてもらえないと思うの。変人扱いされて家に迷惑を掛けてしまうわ」

「ええ、それはもちろん」


あー、まあ、そりゃそうだよな。

俺たちの世界はこの世界とは全然違う。

困った顔で笑う彼女に急に親みと、安堵感のようなものを覚える。


「前世の記憶は……大分薄れていたので、とても不思議な感じです」

「そうなの?」

「ええ。前世で……東京の大学に行って、一人暮らしをして、外資系企業に入社して……そんな生活をしていた事が自分の妄想なんじゃないかと思えていたくらいです。こんな話、誰にも出来ませんでしたからね」

「あ……、……そうよね……。…………。……その、聞いても大丈夫? えっと、前世の事……」

「もちろん。というより、話せば思い出せるかもしれませんし……」

「そんなに忘れているの?」

「そりゃあ、思い出したのは8年……9年近く前ですからね」

「どんな事は覚えているの?」

「ええと、前世では兄と妹がいて、両親は山形でさくらんぼ農家をしていましたね。まあ、兼業農家でしたけど。佐藤錦ってご存知ですか? さくらんぼの品種なんですが……」


……ああ、そうだそうだ。

うちの両親は兼業農家。

さくらんぼを育てながら、自分の家で食べる程度の野菜を作っていた。

山や畑や田んぼばかりのど田舎で、バスやタクシーなんて通らないような。

小中と地元の学校に通い、高校は兄貴と同じ東京の学校を受験したんだよな。

でも、兄貴の高校だけピンポイントで落ちて、ちょっとランクの高い高校……俺は滑り止めのつもりで受けた方……に通ったんだ。

アパートは兄貴んところの側を借りて、たまに遊びに行ったり。

…………ああ、懐かしいなぁ。

何年前になるんだろう……?

俺の正確な誕生日や年齢、俺がオズワルドと分かった今なら、レオに聞けば分かるだろうか?

まあ、でも、少なくとも……十数年前……になるんだよな。

兄貴も、みすずも、三十路超えたんだろうなぁ。

父さんや母さんはまだ元気だといいな。

みすず、ちゃんと家に帰ってきただろうか……。

兄貴なら見付けて、連れて帰ってきてそうだけど。


「…………懐かしいですねぇ」

「……………………」


あ、しまった。

相当にペラペラ喋ってしまった。

しかも俺だけ!

男のくせにこんなペラペラと……昔話するおじいちゃんみたいじゃないか! しまった!

ヘンリエッタ嬢も黙ってしまってるし!


「す! すみません、俺ばかり……」

「い、いつ……」

「え?」

「……ひ、飛行機の、事故って……」

「……? ……えーと……夏、でしたね? 確か……会社の夏休み中に、海外旅行に一人で行って……妹が行方不明になったと報せを受けて慌てて帰る日を早めたんですよ。……それが運悪く……山の中に堕ちたんです」


機内は阿鼻叫喚だったなぁ。

俺もきっと人の事を言えないぐらい叫んだような気はするけど……さすがに死の直前の事はよく思い出せない。

衝撃的過ぎたんだ。

なにより怖かった。

普通の恐怖ではない、圧倒的な……死という絶対のものを前にしたやつだからな。

よく思い出せない……思い出したくない……。

ただ、墜落後……助けを待つ人の声を微かに聞いていた気はする。

静かにあらゆるものが遠退いていく感覚とかは少し思い出した。

音が聴こえなくなり、目が見えなくなり、自分の呼吸も、心音も遠くになっていく。

暑いとか寒い、というのも痛いというのも分からなくなり……ただ、申し訳ないな……と思いながらなにも感じなくなった。

それから、比較的すぐに斑点熱による朦朧とした『俺』の感覚に繋がる。

実際生きた年月は違うけれど……それが俺の『思い出した』時の感覚だ。


「何月⁉︎」

「え?」

「な、何月に……!」

「……。…………」


ヘンリエッタ嬢の、やけに必死な表情に困惑したが……俺自身も少し思い出してきた……ええと……早めに休暇をもらったはずだから……。


「確か、7月……くらいでしたね」

「しち、がつ……」


ガタン、と椅子に崩れ落ちるように座り込むヘンリエッタ嬢。

なんだろう?


「…………そんな……そんな事って……」

「? ヘンリエッタ様?」

「‼︎」


俺が声を掛けると、ハッとしたように顔を上げる。

顔色が悪いし、なにやら思い詰めたような表情。

アンジュが心配そうにヘンリエッタ嬢の肩を抱く。

一体どう、し……。


「…………」


もしかして、俺の乗ってた飛行機事故の関係者さん?

同じ飛行機に乗ってた人、とか?

う、うわぁ、思い出させたのかな?

……普通にあれは、思い出したくない記憶だろうし……、いや、でもヘンリエッタ嬢の場合は『ティターニアの悪戯』のはず?

あれ? じゃあなにをそんなにショックを受けてんの?


「ヘンリエッタ様、あの」

「…………。……っ」

「!」



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