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夏季休み【ローナ編】



「お嬢様、なにか他にする事はありませんか?」

「ないわ」


きぱ!

……と、俺の質問は即否定。

まあ、お嬢様も大概なんでも自分でしてしまう方ですもんね…。

でも俺はお嬢様の犬…いや執事になるんだ、そんなに何でもかんでもされてしまうと……。


「酷いですお嬢様……俺の楽しみ……いや至福の時間……生き甲斐……存在理由を……」

「…………。では、お茶にしましょうか…」

「はい!」


夕飯も終わり、お嬢様の後をお茶のセットを持って付いていく。

お部屋に戻ろうとしていたお嬢様の深い溜息。

夕飯までずーっと奥様とお話ししていたのだ、少しくらい息抜きしてもバチは当たりませんよ、お嬢様……。


「奥様とはどのようなお話を?」

「対策ね、色々な。……社交性に関してはお母様の方が遥かに上だもの、色々とアドバイスを頂いていたのよ」

「レオハール様とのご婚約、決まればいいですね」

「…………」


お茶を入れる。

蒸らし時間も完璧だな。

薔薇の花があしらわれたティーカップに注ぎ、お嬢様にお出しする。

それを受け取ったお嬢様はすっかり満天の星が広がった中庭へと出て行く。

俺はティーセットを持って、その後ろをついていった。


「……ねえ、ヴィニー」

「はい」

「貴方は、この先もずっとわたくしに付いてくるの?」

「はい? はい、お嬢様がお嫌でなければ永遠に!」

「…………」


可能な限り、可能な場所までお供致しますよ!

無論、風呂やトイレや寝室は無理だと分かっていますけど!

その他でお嬢様がいいよって言ってくれる場所なら地獄の果てでもお供しますとも!

……ん? なんでそんなことを?


「お嬢様?」


不思議な表情だ。

これまで見たことのない表情かもしれない。

お嬢様……寮が別だからなのか、どんどん俺の知らない表情をなさるようになる。

お嬢様がアミューリアの制服が届いた時に、旦那様たちの前で着て見せてくれた時……俺もあまりにもお嬢様がご立派に育っておられて泣いちまったっけなぁ。

……うん、お嬢様の成長は早い。

俺の知らぬ間にどんどん大人になっていく。

特に最近は離れている事が増えたから、余計にそう思うのかも。


「少し話をしましょうか」

「え? は、はい」


ティーカップを皿に置くお嬢様。

なんだか、張り詰めるような空気。

お嬢様の表情もいつも以上に真面目だ。

な、なんだろう……俺怒られるのかな?

お嬢様からのお叱りはそれはそれでご褒美だが、さすがにそれはお嬢様にドン引きされそう。


「あのね、ヴィニー……わたくし、レオハール様が好きよ」

「え」


お、え?

お嬢様、が、レオを……ほぉあ⁉︎


「お誕生日に毎年来てくださるし、プレゼントも……手作りで作って手渡してくださっていた……。こんなにわたくしに色々としてくださる殿方は、貴方以外あの方だけだと思うの」

「……お嬢様……」

「この間、お城に『王誕祭』の準備に行った時……恐らく無意識にだと思うのだけれど……わたくしのことを初めて会った時から、好きだと……言ってくださったの……。それを聞いた時、舞い上がるほど嬉しかった……」

「⁉︎ レ、レオが⁉︎」


お嬢様に告っただと⁉︎

え? いや、無意識に? や、やりそうだあいつ!


「でも、その時……同じくらい貴方のことも思い出したわ」

「え?」

「……ねぇ、ヴィニー……わたくしは、どうやら噂通り最低な女のようなの。……レオハール様のことをお慕いしている気持ちの他に、貴方にずっと、わたくしの側にいてほしいとも思っているの……。こんな酷い気持ち……わたくしは……!」

「お嬢様……」


俯いて、胸に下がった薔薇のネックレスを握り締めるお嬢様。

レオに告白されて、お嬢様もレオを好き……え、両想いじゃないか!

何がまずいの?

え? 俺?

俺にも側に居てって? え?

…………。

……………………。

ん?


「なにが酷いのですか?」

「だって、わたくしはレオハール様をお慕いしているのに、貴方のことも……!」

「はい、俺もお嬢様には一生涯お仕えしたく思っております。なんの問題もございませんよ?」

「……………………」

「ヴィンセントはお嬢様がお許しくださるのなら、例え火の中水の中、地の果てまでもお供致します。お嬢様がレオハール様と婚約されて、いずれご結婚された暁にはどうぞ使用人の一人としてお連れくださいますよう、今のうちからお願い申し上げたいくらい」

「ヴィニー……」


お嬢様、俺に側に居てほしいなんて!

執事として、いや使用人として……犬として! 最高の褒め言葉ではないか!

お嬢様の信頼に応えたい!

お嬢様、ああ、お嬢様、お嬢様!

お許しくださるのなら何処へなりと付いて参ります!

……ストーカーで訴えられない程度にするように気を付けよう。


「…………そういえば貴方はこの手の話題はアホだったわね……」

「え?」


突然の罵倒?

早くもご褒美か?

え? お嬢様にもそういうご趣味が?

いや、そんなバカな。

呆れたような溜息まで……お嬢様、それは我々犬業界ではご褒美ですよ。

知ってて、分かっててやってるんですか?


「いえ、もういいわ。貴方の気持ち……覚悟は分かったもの」

「? はい?」


なんかよく分かんないけど分かってくださった?

おお、それは良かった!


「…………そうだったわね、貴方はそういうお馬鹿さんだったのよね……。……でもね、ヴィニー、わたくしはもっと変わりたいの」

「お嬢様?」

「だから貴方も変わっていいのよ。もっと貴方も、自由に生きていいの。戦争に行くのが嫌なら嫌と言っていいわ。……無理だけはしないで」

「…………」


お嬢様……。

……、……本当に驚いたな……こんなに、貴女は……俺の知らない間に大人になっていたのか。

こんなに……。


「……いいえ、望まれれば俺は行きます」


目を閉じて、自然と笑っていた。


行くさ、戦争に。

……まだ、俺が戦巫女に『従者』の1人として選んでもらえるかは分からないが……メイン攻略対象の1人として可能性は高い。

選ばれれば俺は喜んで戦争に行く。

レオのために。

この国のために。

ひいては全て、貴女のために。


「…………それはわたくしのため?」

「勿論です。俺の命は貴女のものですから」

「……そう……」


ほんの少し悲しそうにお嬢様が笑った。

笑ってほしいとは願ったが、こんな笑顔は正直……いや、お嬢様の努力の賜物だ。

この笑顔もしっかり胸に刻みます。

貴女が俺を心配して、無理して微笑んでくれた笑顔。

大切な、俺のお嬢様の一面だ。



「わたくしも自分に出来ることを頑張ります。……そうね、とりあえず……」

「はい?」

「…………、……レオハール様に、この国に生きて帰ってきたいと思ってもらえるように……、……わたくしがあの方の生の執着の形になれるように、頑張ってみるわ。おこがましいかもしれないけれど、わたくしはあの方が好きなのです。生きて帰ってきてほしいと、もっとたくさん伝えるわ」

「……! ……はい! 是非!」


まだまだレオはその辺りが希薄そうだから、心配だったんだ。

そうだよ、その手があったよ!

お嬢様がレオの『女神』なら、きっとその『女神』の願いにあいつも答えるように努力してくれるはず!

……まあ、単純な話……「好きな子に頑張れって言われたら頑張る」ってやつだ。

男なんて単純だからすごく頑張るぞ!

勿論、俺も!


「それからレオハール様の婚約者になれるように頑張らなくては。まずは夜会の主催ね。学園に帰ったら真っ先に取り掛かるわよ」

「はい! お嬢様!」

「同時進行で悪いけれど、誕生日パーティーの準備も引き続き進めて。わたくしの誕生日パーティーにはマーシャも参加させます。それからお茶会も開かなくては。まずはクラスの女子たちを囲い込むわよ!」

「はい! お嬢様!」


って事はクラスの女子たちの好きなものリサーチだな!

ふっふっふっ、その辺りはすでに終わっている。

ついでにいうと他クラスの女子も粗方終わっている!

全てはお嬢様に同性のお友達を作って欲しくて!


「忙しくなりますが頑張りましょう、お嬢様!」

「ええ、頼むわね、ヴィニー」

「お任せください!」




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