其の七・怨霊
「博士、現場が視たいんですが」
「既に放射能汚染は解除しましたから、わたしと共に来れば大丈夫でしょう」
午後に井川、加尾を伴って百目野は車で現場である内田家に向かった。
自衛隊が道道に警備している。博士の姿を視掛けると、皆が敬礼をした。
現場は家周りをコンクリート壁で塞がれていた。厚さ1mはあろうかと云うものだ。
入り口で自衛隊員に3人は呼び止められた。
「井川博士、此の人は?」百目野のことである。
「考古学者の百目野君です」嘘である。探偵などと云えば警察を呼ぶことになる。
「考古学?」
「広い見地が必要なんです」
「承知しました」
村人は誰も居なかった。
3人は中に入った。
「わたしが考古学?まあ、一環性で外れちゃいないけど・・・」百目野は、平気で嘘を付く博士が何か可笑しかった。
「こんなコンクリート壁が役に立つんですか?」
「立ちませんよ。周囲は隔離出来ても、土中が駄目です。土中から蔓延します。しかし、今回は何も起きなかった。其れだけでも奇跡ですよ。頭隠して尻隠さずですがね」
放射能漏れの恐ろしさの一旦を知った。
わたしたちは死ぬんです・・・・
内田の奥方の話が頭を過った。
中に入って外壁とぐちゃぐちゃになった2階が眼に入った。
「凄い・・・」百目野は眼が点になった。
「百目野さん、あの溶けた跡、あの足跡のような跡は何だと思います?」
「溶け方が奇麗だ。一気に溶けたみたいですね、あの・・・足跡のようなものは指が3本?其れに手形が無い。足だけでよじ上ったことになる」
其の時、地面が大きく揺らいだ。
ズゴゴゴ
「地震だ!大きいぞ」
ズゴゴゴ
「家の中に!」
其のまま静まった。
3人は2階の現場に向かった。階段を昇ると、廊下に眼をやった。
「博士、霧が・・・」助手の加尾がそう云った。
「・・・監視している・・・」博士は小さな声で囁いた。
其の霧が人形に変化したのだ。
「あ、あれは!」
助けてくれ〜〜〜
「あ、あなたは内田さん!」写真で視た内田の主人だ。
助けてくれ・・・わたしゃ地獄に居る。肉体はどうなった?何故?此処に居る?
全身血だらけで半分透明だ。
それは紛れもない行方不明の内田家の当主だ。
助けてくれ〜〜〜
此方にヨロヨロと進んで来た・・・が、3人をすり抜けて・・・消えた。
「な、何だ?今のは?」
「亡霊か?」
「地獄に居ると云っていた・・・」
「く・・・・・・」
素志て現場の部屋に入っていった。
「う、うわあああああーーーーー!」
其の部屋は半透明の何十と云う亡霊がうようよと居る巣だ。
く、苦しい
ううううう
視ると鎧兜の戦国武士や昔の農民などが漂っていた。
「博士!」外に居た自衛隊員たちが、異様な叫び声を聞いて、すっ飛んで来た。
其の音に反応した様に亡霊たちは消えた。
「大丈夫ですか?!」自衛隊員たちが駆けつけた。
3人とも腰が抜けそうになっている。
「お、お、お、お化けが!」
「百目野さん!あ、あれは?」
「・・・」