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其の六・人間の嘘とおぞましい真実

挿絵(By みてみん)


助手の加尾が珈琲を運んで来た。

「博士、嘘と云うのは?」

「立ち入り禁止として、世間に視せたくたく無いものを隠した・・・グラフを視れば1週間で解除出来たんです」

「そうですね」

「わたしは解除せよと云ったんですが、村人たちが恐れて戻りませんでした」

「学術的見地からの博士の意向を聞かなかったのですか」

「違います。彼等は立ち入っていた」

「はあ?」

「総出でです」

「し、しかし、自衛隊なども居たでしょう?」

「そう、つまりそんな状況で彼等が何をしていたのか?です」

「何って?」

「百目野さん、わたし、解除を施してから、暫く盛岡の大学に帰っていたのですが・・・どうも其の間に例の発掘作業場を取り壊したようです」

「証拠隠滅ですか。しかし、自衛隊が・・・」

「村の工事を中断させた・・・とか、ごまかしたのだと思います」

「ごまかせますか?」

「自衛隊に鉱物の発掘現場など見た目にはわかりませんよ」

「其の間、学者たちは?」

「皆、金まみれか、脅されたんです。政治家がらみですよ」

「井川博士は?」

「百目野さん、わたしも同様です。金を渡された。しかし、わたしは拒んだんです。すると、こう云われたんです(学者の地位を剥奪されたいか?此の世から抹殺されたいか?もしくは金を受け取れ)と」

「誰がそんなことを?」

「謎の人物から電話が来たんです」


「・・・・・」

「百目野さん、わたしの役目はあなたに科学的見地から事件の嘘を伝えることです。だから、あなたに近づいた」

「博士・・・・」

「しかし・・・わたしには出来ない。学者としての誇りが許さない」

「あなたは恐怖から協力しているふりをしているんですか?」

「わたしも罪人です。もっと云えば、学者の誇りなどでもないんです」

「はい?」

「先日まで色々な学者が来ました。其の1人の物理学者が、今回の事件のとんでもない仮説を打ち立てて、わたしと喧嘩になった」

「聞きました。あなたが現地の物理学者と喧嘩になったと」

「で、彼は更迭されました・・・で、わたしは知り合いの物理学者を呼んだんです」

「はい、其れも聞きました」

「彼もわたしの意見に疑問を呈した。更迭された学者と友人の学者は顔見知り程度でしたが、更迭された学者は、物理界でも優秀な人物なんだと云うんです。だから彼の調べたことを再調査してみると云ったんです。・・・で、直に結果が出た。彼の見解は当たっているかもしれないと」

「仮説の?」

「そうです」


挿絵(By みてみん)


「其の仮説とはどういうものなんですか?難しい学説ではわかりかねますが・・・」

「百目野さん、此の村はよく霧が発生します」

「山に囲まれているからでしょう?」

「いえ、どうも其の霧が身体にまとわりつくようだ、と云うことが云われています」

「霧が?霧?ま、まさか?!」

「霧は水です。しかし、其の霧の成分を分析したんです」

「何か出たんですか?」

「顕微鏡に・・・視た事も無い細胞が・・・彼はのめり込んで行った。素志てコンクリートの件やら土中からも何やらを採取して調査して・・・さる結論が出た」

「どんな?」

「学者は仮説を喋ったりはしません、ただ逃げろと・・更迭された彼は正しかったかもしれないと」

「仮説でかまいません。参考にしたい。教えてください」

「百目野さん、わたしは脅されたりしましたけど、そんなものはどうでもよくなった。そんな人間の欲など実にちっぽけなものだと気づいたんです。加尾くんは元々細胞学をやっていた学生でした。縁あって地質学をやるようになった。加尾君、君が視たものを話してくれないか」


「はい、先生。あの細胞は視た事も無いものでした。不思議だったのは・・・シャーレの中の細胞がふと消えるんです」

「消える?」

「はい、わたしは先生から、さる地質の調査をまかされていまして、無論、此処とは無縁の異なった土地の土の分析です、其れが第一の研究です。ある日、其の地質を顕微鏡で覗くと・・・その消えた細胞が居たんです」

「どういうことです?」

「始めは此の細胞を見逃していたと先生に謝罪の報告をしました。しかし、先生はそんなことは無いと、其の細胞は動いています。以前からあれば一目でわかったはずだと」

「?」

「百目野さん、其れを友人の物理学者が視ていたんです。ブルブルと震え出しました」

「何故?」

「彼はこう云いました」

此の細胞は、空間移動したんだ!


「!」

「彼は其の研究データなどを持って東京に行って来ると云い、其のままです」

「東京に何をしに?」

「彼の知り合いに異質だが優秀な物理学者がいる。其の彼に視せると行っていました。警察の捜査にも協力している人物だと云っていました。わたしの行動に怪訝けげんさを感じてもいました」


「犯罪絡みだと云うことは後、わたしも調べますが、此処で信用出来る人物はいますか?」

「内田の奥方ぐらいでしょうね。どうしようもない此の状況だから、あなたを呼んだ」

「宝石商とやらは何処に行ったんでしょう?」

「さあ・・・」

「博士、よく話してくれました。わからないことばかりですが、何か1つの線が視得て来ましたよ」


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