其の四・村長の死
百目野は直ちに外に出た。
山を見渡し、辺りを見渡したが何事も無い。
「ひ、ひ、百目野さん、お、鬼だ!鬼の仕業だ!」伊藤が這いずる様に出て来た。
大きな音で人が集まって来た。自衛隊も一緒だ。
「神主さんたち、どしたがね?」
「さんさだ!さんさが怒っている。そ、村長も殺された!」
其の言葉に皆、みるみる顔が強張った。
自衛隊員が社務所の中に入った。銃を携帯している。
「み、視ろ・・・何と惨い・・・」
畳の上に血だらけの首が転がっていた。
村の駐在が遣って来て事情を聞いた。
「兎に角、署に来て下さい」
百目野と伊藤は駐在所に連れていかれた。
駐在所は村の中心にある。
「今朝。井川博士が立ち入り禁止を解いたんだべ」駐在が説明した。
「井川博士が戻って来ている」
「身分を証明出来る物はありますか?東京の大学講師で探偵さん?内田さんからの依頼で・・・殺人事件の調査?」
駐在は此の得体の知れない東京から来た男を妖艶しんだ。伊藤とは別室での聴取だ。
伊藤は地元で信用がある。何が起きたのか?の事情聴取だ。
「まずいことになった・・・」
2時間程、待たされて1人の刑事が部屋に入って来た。小林刑事だ。
「百目野さん、あなたは余所者で容疑者だ・・・だから疑われている。しかし、伊藤氏も同じ事を云っている。しかもあなたを庇っている。更に・・・」
「更に?」
「現場を調べたが、痕跡は何も無しだ。あなたと伊藤氏が組んで偽証をしているとしか思えない」
「どう?説明すれば善いと?」
「わたしたちがやりました・・・・と云えば事は簡単だ」
「わたしも伊藤さんも知らぬ事です!」
百目野は其の侭、抑留された。
次の朝、小林刑事が来て、云った。
「百目野さん、出ていいぞ。其の侭、聴聞室に来い」百目野は釈放されたのである。
聴聞室に行くと初老の男が立っていた。
「百目野さん?井川です」
「ああ、考古学者の井川博士ですか。申し訳ありません。まさか対面が警察とは」
「はい、屯だ事になりましたね。でも釈放ですよ」
刑事は百目野をまだ、疑っている。
「百目野、証拠不十分で釈放だが村から当分出るな・・・と、云いたいが・・・」
「?」
「阿鼻大学に問い合わせた。内田の奥方が依頼したことも聞いた。確かにお前さんの身分は証明された。其れより・・・お前、何者なんだ?」
「わたしは大学では、しがない講師です」
「そうじゃない。東京の警視正から直電があった」
「誰ですって?」
「知らん。上司に云われたが警視正の名は伏せられた。何か警察庁に伝手があるのか?」
「いえ」
「では、大学の内部の者が間に入っているのかもな」
「通達は?」
「百目野を開放しろと。うちみたいな田舎警察は二つ返事だ。鶴の一声だよ」
百目野と伊藤は井川を連れ立って警察を後にした。伊藤は神社に戻りたく無いと云った。
外には井川の助手が乗る車が待っていた。
「百目野さん、伊藤さん、どうぞ乗って、送りますよ。百目野さんは内田家の親戚の家で?伊藤神主はどうされます?」
伊藤は脅えていた。
「わたしは遠くに逃げます。さんさに殺されるかもしれない」
「さんさとはあのモノのことですね」百目野は聞いた。
「古来名は散々鬼です。歌に歌われていますが、歌詞は変えられた」
「さんさ祭り?!東顕寺の三ツ石伝説?羅刹鬼ですか?三ツ石神に観念して逃げ去ったと云う?」
「古代のさんさ歌は鬼除けの歌です。鬼来神社は帰来神社だったかもしれない。祠の中の書が、さんさの元歌です」
「呪術の言霊?伊藤さん、あなたが必要だ。アドバイスが欲しい」
「勘弁してください。恐ろしいんです」
「では、あなたの電話番号とメールアドレスを教えてください」
「わかりました」
「百目野さん、興味のある話ですね」前席に居た井川博士がそう云った。
「世迷い言だと思いますか?博士」
「いえ、実はわたしも困っています。あの壁の手足の様な溶解は?鉱物は?放射能は?内田さんの惨殺、素志て村長・・・わかりません。更にわからない事が増えている。其れに・・・加尾君、君も聞いたな」
「はい、博士」
「何ですか?」
「内田家の地の底からの唸り音・・・あれは風などではないです」
「何ですか?」
「呻き声です」
「博士、わたしを中に入れてください」
「了解を取るにも時間がかかるし、駄目かもしれません。わたしの一存では出来ません。其れにあなたは地元警察では釈放されたとは云え、殺人の容疑者扱いだ。無理でしょう」
「彼処が鍵なんですよ」
「1つ、方法があります」
「何でしょう?」
「捜査を東京に頼んだと聞いた。近々、本庁から人が来る。其の担当者を説き吹かせることです」
東京に変な過去を持つ刑事がいる・・・名は警視庁刑事部捜査一課・木藤刑事。
警視庁刑事部捜査一課の仕事は以下のようだ。
1. 殺人、傷害その他生命身体に係る犯罪の捜査
2. 強盗及び強姦に係る犯罪の捜査
3. 放火及び失火に係る犯罪の捜査
4. 科学捜査
5. 部内他課の分掌に属しない犯罪の捜査
「其の課のやり手刑事が鑑識や専門家を幾人か連れて遣って来るでしょう。残念ながら科学捜査は東京の方が上です。しかし異例ですよ」
「木藤刑事・・・・」
百目野は其の名に引っかかるものがあった。
「まさか・・・な」