其の13・甲冑の将 烈鬼
烈鬼が腰の大刀を抜いた。其の刀の刃の表面がウネウネと細かく蠢いている。
その刀は烈鬼の細胞で出来ている。少しでも触れれば、刀が相手を喰う。斬るのではない。喰うのだ。
佐助の剣は紅い炎から光に変わった。古代金属ヒイイロカネの本来の力である。闇のモノを粉砕する。
烈鬼が佐助に飛び込んで来た。背後には煮えきったマグマを携えて。
「だああああーーーーー−!!!!」
佐助は烈鬼の剣を受け止めた。其の瞬間、剣と剣から物凄い電撃が奔った。
力と力の戦いだ。
「佐助ーー!小賢しい術を使わぬのかーーー?」
烈鬼の背後のマグマが取り囲むように佐助に覆い被さって来た。
ザザザザーーーー!!
烈鬼は佐助を高熱のマグマで取り囲んみ、離れた。
「此のマグマに少しでも触れれば、お前など溶けてしまうぞ!」
佐助は片手の人差し指を立て、何か呪文を唱えた。するとマグマが塒を巻いて天に向かっていった。次に平手を辺り一面に掲げるとマグマが消え去った。
次の瞬間、土中から大鬼の手が現れた。
グオーーーーー!
佐助を其の手に掴み、天に掲げた。
「ムウ!」
大鬼の手から炎が吹きだし佐助を火達磨にした。
ごおおおおお。
佐助の首をはねる為、烈鬼が跳び上がり剣を振るった。
烈鬼が飛び上がった瞬間、地面がグラっと一瞬揺れ、大鬼の手が揺らいで少し開いた。佐助の天変の術だ。その隙に佐助は素早く手から抜け出し、烈鬼を斬った。
空中で烈鬼は真っ二つになったが、すぐさま元に戻った。
大鬼や烈鬼が熱を持った細胞の集合体から成っている。斬ろうが其れが一度、分裂するだけである。
「こいつらは魍魎などではない。細胞組織の知的生命体だ。何処から来て、何時から住み着いていたんだ?少なくとも数万年前からだ」
全ての人間が逃げ去ったが、百目野は安全な山の上から此の光景を観ていた。
「見届けなければ」
佐助と烈鬼の斬り合いだ。刀がかち合う都度、電撃が奔り、山の上の百目野まで届いた。
木の後ろに隠れていたが、其の木が燃えた。
「危険だが…承知だ。見届けてやる。柳田先生…」
烈鬼が手のひらを佐助に向けると電撃が奔った。佐助が其れを避けると遥かな山が吹き飛んだ。
「まずい、こっちに向けるなよ」百目野は拝んだ。
30分ほどの攻防戦だが決着が付かない。
「互角だ」百目野は感じた。
其の時、空の向こうから数機、ジェットの音がした。
「自衛隊だ!来た」
佐助と烈鬼が上空を見上げるとジェット機が奔り去っていった。ミサイルを積んでいる。
「な、なんだ?あれは!」
パイロットが地上を除くと地獄のような光景が広がっていた。
「見たか?あの中に忍者と武将が居たぞ!本部、空爆の中心に人が居ます」
無線の向こうの声は「構わない。やれ!」だ。
「ま、マジかよ!りょ、了解」
ジェット機は大きく反転し、もう一度其処に向かった。
烈鬼が其れを手のひらで攻撃した。
電撃が奔り、ジェット機は其れを防いだ。
「な、なんだ?攻撃してきたぞ!火器を隠し持っているようだ」
もう一度、旋回するとミサイルを発射した。
其れはバンカーバスターと呼ばれるもの。
シュパーーーーー!
其のミサイルは深く土中に潜り爆発した。
↑バンカーバスター
どごおおおおおおおーーーーーーん!
土中と云っても地上では大地震のようなことが起きる。
ずどどっどーーーーー
「う、うわああああ」
山に居た百目野は木に捕まった。
佐助と烈鬼は平然としている。が…。烈鬼の様子が変だ。辺りを見廻し、何か慌てている。
「佐助!また会おうぞ!」
そう云うと土中に消えた。
そして静けさが戻った。
佐助は剣を背に戻した。
百目野が飛んできた。
「佐助さん!」
「百目野さん、あなた、居たのか?!」
「あの鬼たちは?」
「逃げた。あなたの勘が当たった」
「途轍もない奴らだ。何者なんですか?」
「知りません」
「知らない?」
「謎の多い奴らです。退治など不可能。多くの魍魎も不可能ですがね」
「あれは魑魅魍魎、魔、などではないでしょう?」
「そう、数万年、生きている連中です。あいつらはあなたがたとは異なる生命体です。有史以前からの始祖生命なのか?宇宙の?別次元の?わかることは古代、「火之神」と呼ばれたこと。私にはどうでも善い」
「私は気になります」
「そうですね。百目野さんは学者ですからね。さあ、この場から離れましょう。八咫烏を呼びます」
「八咫烏?」
佐助が空を見上げると大きな八咫烏が飛んで来た。
バサあああああーーー!
「う、うわ!」百目野は後ろにつんのめった。
「百目野さん、乗って」
八咫烏は百目野と佐助を乗せると皆が避難した場所、自衛隊が設営した基地に飛んで行った。