其の11・皇宮警察特別捜査官
「鬼来神社の仲間たちの遺体を片付けに行かないのか?」自衛隊員たちが密やかに話していた。
「行けるか!あんな化け物が何時、襲って来るか」
「此処に居ても同じだろう?地面の下に棲む化け物だぞ」
「隊長は正体がはっきりしないから、応援を呼ばないが・・・部下が殺されたんじゃ話が違うぞ」
「御偉いさんが、ああだ、こうだと云ってるうちに俺たちもあの世行きか?」
東雲陸査は盛岡基地に重砲器の応援を要請していたが、「ランカーバスター?何故、そんなものが要る?村を破壊する気か?」と反対された。
「百目野さん、ヲシテは?」
「開けてみましょう」
木箱を開ける中の書は大分炭化とカビが進んでいて、全てを読むことは出来なかった。
「炭化が進んでいる。古いものであることは確かだ」
「しかし、環境にも左右されるでしょう?」
「問題は此の紙・・・灞橋紙です」
「灞橋紙?」
「詳しく調べねばわかりませんが、ざっと紀元前150年ほどかと。しかし、その上に書き足されている、この文字はもっと新しいものです」
「其れでも凄い発見だ。よくもこんな処に」
「書き手は天照大神では無く、其の時代の族長か官人だと思いますが・・・しかし、こんな状態では読み取れないし、灞橋紙がこんな処から出て来るとは」
百目野はそれでも何とか、読み解こうと試みた。一晩明けてしまった。奴は襲って来なかった。
其の日、午前中に空が五月蝿かった。ヘリだ。
バラバラバラバラ
自衛隊員が百目野たちの家にやって来て「百目野さん!警視庁から特別捜査官が到着です」
「ああ、捜査一課の木藤刑事とか云う人たちか」
東雲隊長以下、将校蓮、そして百目野たちも出迎えた。
「木藤刑事、お待ちしておりました」東雲が労った。
「東雲陸査ですね。木藤です。もっと早めに来る予定だったんですが・・・申し訳ない」
握手をして紹介し合った。
刑事が2人、木藤と相棒の白城。鑑識の御手洗、物理学者の御厨。素志て謎の黒服の男の5人である。
百目野が紹介されたのは最後だった。
木藤と謎の黒服はニタニタしていた。黒服は不思議なオーラを発し、何か特別な雰囲気があった。
「何だ?この2人?」百目野は不信感を抱いた。
「百目野さん、こちらは皇宮警察の特別捜査の方で・・・」東雲が言いかけた矢先、「阿鼻大学の百目野さん?柳田先生の?」黒服が親しげな顔でそう云った。
百目野は吃驚した。まさか柳田の名を口にするとは。
「わたしは柳田先生と親しかったんですよ」黒服がそう云った。
「柳田先生のご子孫とですか?」
「いえ、柳田国緒先生ご本人です」
何を云っているんだ?尊敬する明治、大正時代の我が阿鼻大の教授に・・・自分と同年代の奴が・・・。
「わたしは須佐佐助と申します」
「須佐?佐助?!」
一気に謎が解けた。
小泉教授から借り受けた、阿鼻大の厳重管理図書とされていた「柳田国緒フィールドノート」。のめり込んで何度も読んだ。其の中に木藤と須佐佐助が出て来た。
「あ、あの須佐佐助さん?」
木藤と佐助が顔を見合わせて笑っていた。よっぽど素っ頓狂な顔をしていたらしい。
嘘だろ?・・・当たり前だ。柳田は数千年生き続ける古代忍者が現存していて、共に妖怪と戦ったと記してあるのだ。
「本当に佐助さん?」
「百目野さん、わたしは妖狐事件時の木藤刑事の子孫です」そう木藤刑事が云った。
そうだ!木藤と聞いて何かひっかかったのは、柳田教授のノートからだ。東京から堅物役人が来る・・・そう思っていた百目野はわくわくして来た。
未だ謎の解けない始めの事件現場、内田家を見やって状況を説明。
「直にでも事件の詳細を聞きたいですね」木藤は集まった全員に云った。
捜査室?本部?研究所?塒?其処で百目野、井川、加尾、東雲、鬼来で警備を担当した十一大尉・・・そして東京警視庁勢。
地鳴りがした・・・
佐助が何かを感じているようだ。
佐助は説明した。「皆さん、わたしと木藤、白城刑事は皇宮、警視庁の中で、どこにも属さない部の者です」「CIAやKEGBみたいなものですか?」
「違います。木藤さんたちは捜査一課が本筋ですがね」
一体、何の部署ですか?」
「簡単に云えば、妖怪ハンターです。皇宮と東京の警視庁のみにある」
「妖怪ハンター?!」
「こういう事態に対応しています」
何も武器を持って来てないじゃないか?皆がそう思った。
「では、今回の事件は妖怪だと?」
「あれは妖怪ではない。が、正体はある程度、把握しています。此の世のものではありませんし、火力の武器は通用しません。井川博士、あなたはわかっているはずでしょう?」
「そうです。あれは空間を原子のレベルで移動が出来るし、攻撃すれば、霧状になって銃砲も効かないでしょう。実体の無いものです」
「佐助さん、さんさの元歌に役に立つ・・・と書かれていました。何故ですか?」
「人間に火を教えたのは奴らです」
「え?」
「後、神とされた」
「火之神・・・・」
「そうです。有史以前、人間と奴らとは共存していたんです。しかし、文明が発達するにしたがって彼等の住処を人間が強引に荒らし始めた。ヲシテの文書には其れが書いてあった」
「誰が書いたんですか?」
「厩戸皇子です」
「聖徳太子?!」
↑聖徳太子
「下地は誰が書いたのか?わかりません。もっと古いものです。皇子は其れを読み解き、神代文字で上書きした。一種の暗号です。敵にしてはならない・・・と書きました」
「どうすれば倒せるんですか?」
「無理です。まずは怒らせないことです」
「もう、怒ってますよ!幾人も残虐に殺された!敵討ちだ!どうすれば善いんですか?」
佐助と自衛隊員とでは話が進まない。
「まってください」百目野が静止した。
「こう云っては何ですが、やつは何か我々に伝えようとしているように思えます」
「あの怪物が?!」
「鬼来神社に行った時、襲って来なかった。そこには彼等の正体のヒントがあった。探させたんです。我々に。そして紐解くとわかって来た」
「何が?」
「われらの住処を破壊した者は容赦しない。だから当事者たちを順番に殺していった」
「当事者・・やつによくわかりますね」
「其れが、やつの知能とペグマタイト・ネットワーク。地面の底から伺っているんだ。だから、太子はわからないように書き物に暗号化したのでは?」
「もうすぐ、一気に襲って来ますよ」佐助が予見した。
「井川博士、加尾君、あなた方は逃げてください」
「百目野さん、何を云っているんですか?わたしたちも戦いますよ」
「あなた方は学者だ。もう十分です。危険です。退散してください」
佐助はさらに付け足した。「東雲隊長、あなた方もだ。危険すぎる。村人を遠くに避難させてください」
「須佐どの、村人は避難させます。が、わたしたちは自衛隊です。自衛が仕事ですよ。戦います」
「あなた方の戦い方とは異なります。犠牲者が増えるだけです」
「須佐どの、聞き入れられません」
「・・・わかりました。では、後方をお願いする」
「佐助さん」
「百目野さん、あなたは残ってください。此の現状と神話が現実であると。闇の日本の神話は現実であると。世間に公表する義務がある。全てを視てください」
「柳田教授が提案していたことですね」
「そうです。やつはわたしを知っている。だからさっきから地鳴りが激しい。わざわざ正体を探らせて、わたしが来るのを待っていた。あと数時間もすれば一気に実体化して襲って来ます。こう呼べばわかりやすい」
あれは古より伝わる荒神・火之神。素志て「鬼」とも呼ばれたもの。
皆、息を吞んだ。
放射能をまき散らし、人知では理解しがたい高熱を発し、空間移動する実体の無い怪物・・・其れが襲って来る。
百目野は、柳田教授の仕事がいかに危険だったのか?身を以て知った。
「此の世のもので無いものを調査すること・・・」