其の十・宝石商達の最期
井川は躊躇していた。「百目野さん、さすがに天照大神などと云われると・・・」
「信じられませんよね。まだ、天照大神と決まったわけじゃない。其れより・・・」
「さんさ・・・開けてみますか」
ズドドゥン!
「な、何だ?地鳴りだ」
「撃て!撃てーーーー!」
ズがガーーン。ガガーーン
「自衛隊だ。何事だ?」
3人は外に出た。
「こ、此れは?!」
其処には山間の土中から大きな腕が2本伸びていた。しかも3本指だ。素志てその手は人間を握っていた。
「た、助けてくれーーー」
「あれは、宝石商だ!」梵論梵論で血まみれだ。
ズバーーーーン!!
土中からバラバラの数人の死体が空中にバラまかれた。
「な、なんと云うことだ!」
バリバリバリ!自衛隊員たちは闇雲に銃砲を撃った。「機関銃が効かない!身体を通り抜けている!」
グオオオーーーーン
すると其の腕が猛炎に包まれ出した。
「う、うわああ!ぎゃあああーー」
宝石商は怪物の手の中で、生きたまま黒こげにされ、息絶えた。其のまま放り投げられた。腕は拳を握りしめると祠の上に挙げた。
「危ない!逃げろ!」
次の瞬間、祠を叩き潰した。素志て祠は炎に包まれた。
「博士、加尾君、大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫。其れより書が・・・・」
「さんさとヲシテの書は持ちました。逃げましょう」
指揮を取る大尉が叫んだ。「全員、退却!博士たち、無事ですか?!車へ!」
皆、一目散に逃げた。
しかし、其の腕は霧状になって追いかけて来た。
「な、なんて奴だ」
「自衛隊は博士たちを守れ!前と後ろにつけ!」
猛スピードで走り去った。
しかし、霧状のモノはまた大きな腕に成って炎を吹き出し、空中から襲って来た。
ズガーーーーン、バリバリバリ!
「全く効かない!う、うわああああーーーー」
ドドーーーン
最後尾のトラックが叩き潰され、猛炎に包まれた。
「やられた!本部に連絡だ!」
すると腕は霧状になって・・・消えた。
「・・・・・・・・・」皆、声が無かった。
本部に戻った調査隊は口々に述べた。
「な、何があった?」
「仲間がやられた。とてつも無い化け物だ!銃砲も効かない」
「奴は何故、攻撃を止めた?」百目野は不思議だった。皆殺しに出来た筈である。
「其の目的は?・・・もしかしたら」
「2等陸佐!自衛隊員が殺されたんです。応援を呼びましょう」大尉は東雲に提案した。
「わかっている。しかし、直ぐさまは来ないだろう。我々で持ちこたえるしかない」
「何時?襲って来るか?全くわかりません。襲われたらひとたまりも無いですよ」
「わかっている、わかっている」
「東雲2等陸佐、わたしの提案を聞いてもらえますか?」
「百目野さん、何です?」
「バンカーバスターを要請出来ますか?」
「バンカーバスターを?」
○バンカーバスター(Bunker Buster)
バンカーバスタ=地中貫通爆弾は、航空機搭載爆弾の一種。地下の目標を破壊するために用いられ、特殊貫通弾あるいは掩蔽壕破壊弾とも呼ばれる爆弾である。
「百目野さん、バンカーバスターは高価な爆弾だし、地中の奴らへの攻撃とみなしても、効くのかどうか?」
「多分、効かないでしょう。奴は火炎の申し子です。火力では抹殺出来ないと視た」
「では何故?」
「思う処があるんです。待機で善い。すぐにでもジェットで飛び出せるよう、お願い出来ますか?」
「あなたの仮説では國は動きませんよ。ミサイル攻撃は要請しますが」
「・・・・・・」
「百目野さん、どうしたんですか?」井川が聞いた。
「博士、奴は何故?攻撃を止めたんでしょ?」
「さあ?」
「何故?我々が書を見付けるまで待っていたんでしょう?」
「・・・?」
「奴は自分達の思いをわたしたちに託したのではないでしょうか?」
「思い?思いって?あの化け物が?」
「そうです。其れが此の2つの書の中にあると視た」
「ヲシテが読めるんですか?」
「多少です。わたしが知りたいことを据えて、読み解けば出来るかもしれない」
「さんさを視てみましょう」
素志て箱を開け、書を取り出した。
(サッコラチョイワヤッセ)
○さんさ鬼見りゃぁ ヤーイ焼ける焼けるよおいよ(サッコラチョイワヤッセ)
男も女も 恐ろしばかりサンサヨー(サッコラチョイワヤッセ)
○さんさ踊らば ヤーイ鬼をば蹴飛ばせ 散々(さんざ)暴れて 嫁を喰う
○盆の満月にゃ さんさ様待ち 来るぞ丸月にゃ 今夜ばかり
○踊り去れ去れ 壱所守れや 祝詞広げろ 太鼓打て
○朝に起きれば 嫁取る鬼よ 俺をだまして 連れ去るか
○南部片富士 岩手の山よ 巌は妖艶しや いつ出やる
○さんさ踊るなら 盛岡までも 老いも若きも 妻も子も
○踊り踊る奴 馬鹿になって踊れ 着物引き散れ 子を作れ
「さんさの恐ろしさを歌っている」
「確かに、大昔から暴れていたことがわかります。しかし、其れだけですね」
「博士、此処を・・・」
百目野は最後の節を指差した。
○さんさ怒すな 怒らしゃおそろし 共に生きれば 役に立つ
「共に生きれば・・・役に立つ?」
博士と百目野、加尾は顔を見合わせた。
○三石さまな 暗い底で語り合う つき立れちゃ 鬼怒る
「何のことでしょう?百目野さん」
「思った通りだ」
「え?」




