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其の壱・玄妙な事件

挿絵(By みてみん)


時は現代、東京小石川の阿鼻あび大学・超自然學科講師であり、探偵でもある百目野尊ひゃくめのたける27歳は、岩手県盛岡市某字村いわてけんもりおかしぼうあざむらの内田と云う宗家の奥方からの調査依頼を受けた。


しがない講師では、おまんまが喰えないから探偵を副業としている。超自然學科・・・などと云う科は何処の大学にも存在しない。古く明治時代〜大正時代に此の大学に勤務していた、柳田国緒副學長が確立した科である。此の科を受け持つ教授は居ない。学生が集まらない赤字の學科である。考古学者・小泉忌杜こいずみいむもり教授が顧問として付いている。小泉八雲の血を引く人物である。講師から出発し、反発の強かった明治の時代から、オカルト學を樹立した柳田を百目野は尊敬していた。そしてもう一人は八雲の血を引く忌杜教授の存在である。そういう意味で阿鼻大学に勤務している。


内田家のある村は、盛岡市と云っても市内から可成り遠いあざの山村だ。現代でも未だ残った古い小さな孤立した村である。近くにダムがある。時代と共に回りの村はダムの底になった。此の村も山谷に囲まれ、ダムにはうってつけだったが、何故か残った。

百目野はバスを乗りつぎ、最終停車場からは、徒歩で木製の吊り橋を渡らなければならない。孤立した村だが電信、電気などは来ている。タブレットとスマートフォン、赤外線付きデジタルカメラ、GPS機能付きの機器、集音器やらハイテク機材を用意した。


内田家は元本陣の家柄で裕福であり、村でも評判は善い。過疎化した村を自費で整備したりしている。家は山村でありながら鉄筋コンクリートだ。そんな場所にどうやって建てたのか?相当お金を掛けたに違いない。

村の反対側には車一台がやっと奔れる山道があった。物資は町から此処を使っているらしいが、大回りになり、使用する者は村の一握りの人間だけなので、閑散としている。バスも狭くて通れない。此の村は殆ど自給自足である。


百目野が呼ばれた事件は、地元警察、県警でさえ、さじを投げた殺人事件と思われるものだ。被害者は内田家宗主・康成氏。死体は見付かっていない。大量の康成氏のものと思われる血が部屋中に散漫していた。

侵入経路は、内田家のコンクリート壁を何者かが溶かしながらよじ登った。溶かした後に手足のような後が残った。しかも其の家に着くまでの足跡などの形跡は全く無い。辺りから微量の放射線と水素が検出された。殺人現場の部屋には細かい鉱物が残された。此の村は立ち入り禁止区域になった。


盛岡の地質学者が調査したと云う。

実は少し前に此の村がペグマタイト(pegmatite)鉱床こうしょうの宝庫だと云うことが解っていた。散々した鉱物はペグマタイトからなる鉱物だったのである。ペグマタイトは出来る過程に於いて放射線を発することがある。しかし、其れはごく微量で人体に影響を及ぼすことは無い。現場に散々した鉱物からは異常に強い放射線量が出た。

地質学者は「こんなことは有り得ない」と云う。岩手県警は東京の警察庁に相談した。特殊能力を持つ捜査官は居ないか?と。警察庁もそんな人物は知らない。物理学者などの科学者と協力するしかない。


百目野は不思議オカルトな事件、未解決(お宮入り)事件の依頼が多い。阿夜訶志あやかし探偵・・・と呼ばれたりもする。超自然學とはいかなる学問なのか?兎に角、彼は其の學問の第一人者であり探偵である。依頼者は皆が云う。

「警察がお手上げなら、百目野を呼ぶしか無い」



挿絵(By みてみん)


○ペグマタイト(pegmatite)

溶岩が地中に溜まり、悠寛ゆっくり冷えて出来あがった、大きな結晶からなる火成岩(火山岩)の一種。花崗岩質のものが多いため巨晶花崗岩きょしょうかこうがんと呼ばれる事もあるが、閃緑岩質や斑れい岩質の物もある。岩脈などの小岩体として産出する。

石英、長石、雲母、蛍石、トパーズ、ベリル、トルマリン、ガーネット等。

鉱床こうしょう

地殻に特定の有用元素や化合物が,通常の岩石中の平均組成以上に濃集している鉱物の集合体、または其の一部。採掘すれば莫大な利益を上げられる。


「コンクリートを溶かした?そんなことがあり得るのか?」百目野は先ず其処が気になった。

百目野は答えをネットで探って視た。


セメントは炭酸カルシウムなので酸に溶ける。しかし、相当な強酸性の薬品が必要である。解ける際、毒性の水素ガスが発生するので危険。


「よしんば、溶かしたとしよう。散々してあった鉱物は何だ?放射線まで出ている・・・被爆量か・・・」


素志て一番の難問・・・溶けたコンクリート上の足跡のような跡・・・。


奥さんなど其のとき家に居た者達は、毒性の水素が蒔かれたなら命を落とした筈・・・素志て音もしなかったと云う。


「何が起きたんだ?」


百目野はバスを降りて山を下り、また昇って、村の反対側の山道に出た。村自体が立ち入り禁止になっているからである。


「ふう・・・やっと着いた」


山道脇に古い村跡があり、其処に其の村人たちは避難していた。自衛隊が待機している。其の村は早急に避難所として活用されていて、生活物資は自衛隊が運んだと視られた。


百目野は早く事情を聞きたかった。

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