表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

2章8 ケンイチ 文学部2年(6)

 強盗犯らしき3人組が店に入ってきた。どうやら、立てこもりでもするようだ。


「クロスギさん、何か大変なことになってきましたね」

「そうですね…」


「どうしましょう?」

「彼らに大人しく協力した方が良さそうですね」


 オレたちは打ち合わせを中断し、様子を見ることにした。彼らは拳銃を持っている。彼らの感情を逆なでするのは危ない。


 彼らが、車を持っているか訊きにきた時、「待ってください!」と、どこかで聞いたことのある声が、つい立の向こう側から聞こえてきた。


 ケンジ!?


 ま、まさか…。


 アイツはこんな暑い日に外出するはずがない…。絶対、家でグータラしているはずだ…。


 3人組は、カウンターの前でサラリーマン風の男と交渉を始めた。そのうち、男が電話をかけると、オレの携帯が振るえた。マナーモードにしていたので、彼らは気づかない…。


 あれっ、このタイミング、やっぱり、アイツ、ケンジか!?


「クロスギさん、ちょっと失礼します」


 オレは席を立ってカウンターに近づいた。


 ああ、やっぱりケンジだ。コイツこんなところで何してんだ?


「ケンジ!」


「ケンイチ! びっくりした。何でここにいる!?」

「ん、オレ、ここで打ち合わせしてたんだよ」


 3人組は急に現れたオレを見て戸惑っていた。


「ちょうどいいや。50円持ってない?」


 50円? コイツはいつも緊張感がないなぁ。


「ああ、あるよ。ひょっとして、この状況でその電話だったのかよ? ほらっ」


「お、サンキュー」


 ケンジが50円を彼らのリーダーにお礼を言いながら渡した。


 お前…、強盗犯にお金借りてたのか…。


 50円を受け取るとリーダーは言った。


「おい、コイツは?」


「あ、これはオレの兄貴です」

「そっくりだな…。どっから入ってきた?」


「オレ初めからここにいましたよ…」


 オレ、影薄いのかなぁ…。さっき車を持っているか近くで訊かれたのに…。


 まあ、そんなことは置いといて、車と人質の話になった。彼らはオレの弟、ケンジを人質として連れていくらしい。


 そんな危ないことケンジにさせられるか。双子の兄として守ってやらないと。オレは勇気を出して言った。


「待ってください!」


「何だぁ!」


 彼らはオレを見た。


 うわっ、こわっ、ガンバ! オレ。


「オレの弟を人質になんてさせない! するならオレにしてください!」


 オレはケンジの前に立って腕を広げた。


「ほう、いい度胸だな。まあ人質は誰でもいい。お前、来い」


 オレが彼に付いて行こうとすると、ケンジがオレの前に立ち、腕を広げて言った。


「待て! ケンイチを人質にはさせない。人質はオレにしろ!」


 ケンジ…。お前…。


 昔はよくお菓子やおもちゃを取りあってケンカしたっけ。双子の兄弟なんていらないと思った時もあった…。だけど、やっぱりお前は大事な弟だ…。お前も…、そうなんだな…。


「じゃあ。お前が来い…」


「ダメだ! 人質はオレだ」


 オレは、またケンジの前に出た。お前はオレが守る!


「じゃあ…、お前だ…」


「兄貴! ダメだ。オレを人質にしろ!」


 ケンジがさらにオレの前に立った。


「ケンジは行かせない! オレが人質だ!」


「いや、オレだ!」


 オレたちは、トランプをカットするように、次々に前後を入れ替わった。


 リーダーとして見れば、同じ顔が、服を変えながら、どんどんと近づいてくる感じだったろう。


 もうリーダーとは目と鼻の先だ。彼は後ずさって、完全にひいていた…。


「アニキ、ここは2人の意志を尊重して、2人連れて行ったらどうですか?」


「そうだな…、確かに、意志を尊重するのは大切だ…。しかし…、コイツらは面倒くさい…。2人とも置いて行こう。人質は別のヤツにする…」


「お前らはいい。もとの席に座ってろ」


 オレは、そのまま席に戻り、ケンジは自分のカフェラテと、カウンターで水を1杯もらって席に向かった。リーダーは客の前に立って言った。


「この中で人質をひとり選ぶ…。一応、聞くが…立候補するものはいるか?」


「オレが」

「いや、オレだ」

「双子は静かにしていろ…」


 リーダーが言った。


「俺の車だ。俺が行こう」


 黒いジャケットの男性が言った。しかしケンジが制止し、リーダーも彼を除外したように、視線を外した。


「他に誰かいるか?…」


 誰も口を開こうとしない。


 BGMが静かに流れる。今はショパンの夜想曲…。


 その時…、


 プッ、プウーッ!


 甲高いおならの音が夜想曲のリズムに合わせて響き渡った。リーダーは老人に顔を向けた。


「お前か! お前が人質でいいんたな!?」


「いや、いや、いや、違う、違う、これは返事じゃない。おならだ。屁だ。わしは嫌ひゃひょ、ほご、ほごっ」


 必死に否定しようとして、口から入れ歯がこぼれ落ち、床を転がっていった。


「あ…、お前はいい…」


 リーダーは、クロスギさんと女性を見た。老人の隣の席の女性は、鼻をつまんでいる。


 その時、厨房の方から大きな声が聞こえてきた。


「もしもーし! 刑事さん! もしもしー、聞こえますかー、もしもーし…、あ、切れた…」


 作業着を着た男性が、携帯電話で話しながら厨房から出てきた。身体をグリグリ動かしている。きっと電波を探しているのだろう。


 そして、客席に目をやった時、全員の注目を浴びていることに気づいたようだ。


「あ、あれっ、ど、どうしました?…。えー、あのー、何か…ありました?…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ