2章7 ケンジ 芸術学部2年(6)
「待ってください!」
オレは勇気を出して立ち上がった。すると、強盗犯っぽい3人組はふり返って、こっちを見た。
「なんだ!? 文句でもあるのか?」
リーダーっぽい人が凄んで言った。
「文句はありません」
「じゃあ何だ!」
「スミマセン…。あ、宜しければ、コーヒーでも飲みながら、いかがですか?」
彼らは、これからコーヒーを飲むところだった。邪魔したところだから悪いよね。
オレも、もう1杯飲もうと思っていたところ、店を出て、また戻って来たばかりだ。何か注文した方がいい…かな?
「アニキ、飲みながら聞きましょう!」
「来い」
オレは立ち上がり、2人と一緒にカウンター前まで行った。
「かーっ、冷たくて、うまい!」
「カフェオレ最高だね!」
手下らしい2人は、ゴクゴク美味しそうにコーヒーを飲んでいる。オレも飲みたくなってきた…。
「で、何だ」
「実は…」
「実は、何だ?」
「あ、その前に、おねーさん、オレにもアイスカフェラテください」
「なんだと!」
「す、すみません」
「実は…、あの車を持っている社長さんって、今すごく体調が悪いんですよ」
「知ったことか!」
「さっき帰ろうとしたら歩けなかったんで、座って休んでいるところだったんです」
「だから?…」
「車の場所まで案内しようとしても、途中で倒れちゃうかもしれません」
「そいつは困るな…」
「倒れたら、目立って、警察も集まってくるかも…」
「マズいな…」
「すみません、440円ですぅ」
「え? 何が?」
店員のおねーさんが話に入ってきた。
「アイスカフェラテ、440円です…」
「すみません…、先にお会計していいですか?」
「くそ! 早く払って来い!」
えーと、小銭、小銭…。 げっ! 390円しかない。 アイスコーヒーに替えちゃだめかな…。
うわっ! もう作り始めてる!
あと50円足りない…。
「すみません…」
「何だ!」
「ご、50円貸してもらえませんか? あの…、必ず返しますから」
「なんで、俺がお前に50円貸さないといけないんだよ!」
リーダーは怒鳴った。
「ですよね! じゃあ、ちょっと電話してもいいですか? 兄貴が近くにいると思いますから、お金持って来てもらいます」
「くそ! 手短にしろよ!」
オレは携帯を取り出してケンイチに電話をかけた。
トゥルルルルー、トゥルルルルー…
「アニキ…、コイツに電話させていいんですか?…」
「うおっ、そうだ、待て! 待て! 電話はすぐ切れ!」
「ええっ、でも…」
「いいから、早く切れ! 金なら貸してやるから!」
「あ、はい、ありがとうございます」
プチッ。オレは呼び出し中だった電話を切って、ポケットにしまった。
「50円でいいんだな」
「ええ、そうです」
「ほら、ちゃんと返せよ」
「すいません。ありがとうございます」
「アニキの金なんだから、絶対に返せよ! ネコババはダメだぞ!」
「はい、分かりました。」
「はい、アイスカフェラテ、お待ちどうさま」
ちょうど、出来上がったようだ。
「ありがとうございます」
やったー、来た、来た。…ゴクゴク…ああ、やっぱりこのコーヒーは香りがいいなぁ。酸味もマイルドで…、少しミルクのコクと甘みがあって…。何より冷たい…。
「ケンジ!」
ブハッ!
急に後ろからケンイチが現われて声をかけてきたので、驚いてカフェラテを噴き出してしまった。手下の2人は、かからないように、ピョンと後ろにジャンプした。
あー、もったいない!
鼻の奥がツーンと痛い。
「ケンイチ! びっくりした。何でここにいる!?」
「ん、オレ、ここで打ち合わせしてたんだよ」
3人組が目を白黒させている。「コイツ2人に増えた!?…」
オレはケンイチに訊いた。
「ちょうどいいや。50円持ってない?」
「ああ、あるよ。ひょっとして、この状況で、その電話だったのかよ? ほらっ」
「お、サンキュー」
オレはケンイチからもらった50円をリーダーに渡した。
「先ほどは50円貸してくれてありがとうございました。これ、お返しします」
「おお…、コイツは?」
「あ、これはオレの兄貴です」
「そっくりだな。どっから入ってきた?」
「オレ初めからここにいましたよ」
「そ、そうか…。まあ、いい…。で、お前、車の話はどうした」
オレはグラスを口から離した。
「えっ、ああスミマセン。忘れてました。何でしたっけ?」
「テメエ! ぶっ殺されてえのか!?」
「ヒャア! スミマセン! スミマセン! えーと、えーと、そうそう、…車の場所まで案内しようとしても、途中で倒れちゃうかもしれないんですよ」
「それは聞いたな…」
「それで、倒れたら、目立って、警察も集まってくるかもしれません…」
「それも聞いたな…」
「だから、オレが代わりに場所、案内します」
「場所、知ってるのか?」
「知りません」
「知らないのかよ!!」
「でも、あの人から場所をちゃんと聞きますよ」
「そうか…」
「アニキ、それなら俺たちがアイツから場所を聞いて、行ってもいいんじゃないですか? コイツが案内しなくても…」
「うむ…」
「でも、アニキ」
「何だ、タケ」
「もし、アイツの言った場所に車がなかったらどうするんです?」
「嘘つきは泥棒の始まりだぞ。嘘はつかないだろう」
マツと呼ばれている子分が口を挟んだ。
「分からないぞ。嘘の場所を言って、店を出た隙に警察に通報するかもしれない」
「つまり、人質を取って、一緒に連れて行けばいい、ってことだ。もし嘘を言ったり、通報したりしたら人質を殺す、と脅しておけばいい…。お前、それで代わりに案内するって言ったんだな」
「あ、いや、スミマセン。そこまで考えていませんでした…。人質になるのはいやだから、発言を撤回させてください」
「バカヤロー! 男なら自分の発言に責任を持て!」
「えー、でも、殺されるかもしれないんですよね…」
「大丈夫だ。車があったら殺さないから」
「警察がいたら、オレに銃を向けて盾にするつもりなんですよね…」
「大丈夫だって。警察がいなかったら、車の前で解放してあげるから」
「オレ…怖いよ」
「安心しろ。ほら、建前として、形式的に連れていくだけだから…」
「でも、オレまだ、かわいい女の子と付き合ったことないのに…」
「うるせー! そーゆうのは、お前だけじゃないんだ! ガタガタ言ってるとぶっ殺すぞ!」
「あのー、すみません…」
おねーさんが声をかけてきた。
「はい?」
「彼女…、いないんですか?…」
かわいいおねーさんが上目づかいに俺の目をのぞき込んでいる。
「は、はい…、…自慢じゃありませんが…」
「おい! お前ら、今はそれどころじゃねぇっ! 後にしろ! 来い!」
いい所なのに、リーダーはオレを社長さんがいる奥の席に連れて行こうとした。
その時、
「待ってください!」
そばで見ていた、ケンイチが言った。




