3章13 ケンジ 芸術学部2年(9)
ガンガンガン! ガンガン!
誰かが非常口を外から叩いている。みんなはウメダさんを見た。
「アニキ、開けましょうか?」
マツさんが訊くと、ウメダさんは「待て、俺が行く」と非常口の前に立った。
「誰だ!」
「俺です」
「俺とは誰だ!」
「俺と言ったら、俺です。タケです! オレオレ詐欺じゃありません!」
「何だ、タケか…」
扉を開けると、服を替えてサラリーマンのようになったタケさんが立っていた。
「遅かったな」
「すいません、アニキ。途中で洗車をしていたヤツにびしょ濡れにされちゃいまして…、警官がちょうど近くで見ていたから、ソイツに服を借りてました」
「そうか、で車は?」
「はい、アイツが今そこに停めています」
「おし」
ウメダさんは満足そうに店内を見回した。
「マツ、タケ、出る用意をするぞ。バッグ。あと武器は…」
「私が預かっています」
社長のコマキさんが答えた。
!? 違う!? 害虫駆除屋さんは、さっきのおじさんだった。
とすると、この人、誰?
勝手に害虫駆除業者の社長さんだと思い込んで話していたけど…、いったいどうゆうこと?
コマキさんは自分のバッグから拳銃を取り出し、マツさんとタケさんに渡した。
「爆弾と予備の銃弾はどうしましょう」
「おう、貸してくれ、こっちのバッグにしまっとく」
ウメダさんが答える。彼らはボストンバッグを非常口近くのテーブルに置いてから、飲み終わったグラスを返却口に戻しに行った。その時、非常口が開いた。
「遅くなりました。オレ、駐車が苦手で…」
ケンイチが入って来た。爺さんは、目をキラリとさせて、
「ホッ、ホッ、わしも病院の注射は苦手じゃ。だが、夜の大人の注射はまだまだいけるぞ。ホイホイッ」
と言うと、店員のおねーさんは露骨に嫌な顔をした。マスターは表情を変えないように頑張っていたが、目じりがピクついていた。ウメダさんは、
「おいおい爺さん! 下ネタはダメだぜ。こいつは年齢制限かけてねえんだからよっ」
「アニキ、もう行けます」
「そうか」
「アニキ…」
「どうした、マツ」
「クロスギたちがまだ戻らないけど、いいですか」
「どうゆうことだ?」
「あ、いや、オレたちのために外に様子を見に行ってくれて…、世話になったから、挨拶とか…」
「あ、じゃあ、オレ、クロスギさんに電話しますね。あれっ、クロスギさんから着信が来てた…」
ウメダさんが口を開く前に、ケンイチが携帯を取り出してかけた。すぐにつながったらしい。携帯を切ると、
「近くにいるから、すぐ戻るって言ってました」
「そうか、すぐなら少し待つか。マツ、タケ、今のうちにトイレ行っとけ」
「そっすね、コーヒー飲んだら近くなるんですよね」
「一応、人質と金を見張ってるから、お前たち、先行っとけ」
マツとタケさんはトイレに入っていった。俺は言った。
「ケンイチ、服変わったな」
「ああ、あの高圧洗浄の水で洗車されちゃったよ。これ濡らしたおじさんの若い頃のやつ」
何か、オレと服まで瓜二つになったな。こんな機会は七五三とか入学式くらいじゃなかったっけ。ケンイチと雑談しているとマツとタケさんがトイレから戻って来たので、ウメダさんがトイレに入った。そうすると出入口の扉を叩く音が聞こえた。
「あ、戻って来た。開けるよ」
「まてマツ。俺が外を確かめてからだ」
すぐに開けようとしたマツさんをタケさんが制止した。
そしてブラインドの隙間からドアの外を確認した…。
あれっ、開けないのかな?…。




