3章10 G 殺し屋(10)
刑事たちは、電気屋とマスターと話すと、大人しく帰って行った。
本当に帰ったのか?…、それとも、応援を呼びに行ったのか?…。
しかし、一般人をこの場に残したまま2人とも店を出るだろうか?…。銀行強盗犯に人質を取らせ、立てこもる準備を十分させてしまうことになる。
彼らの間で何が起きたのか…。俺はその説明を待った。
電気屋とマスターは俺たちの前に来た。
「皆さまに、打ち明けることがあります…」
マスターは口を開き、皆がマスターに注目した。
「今まで隠していて、申し訳ありませんでした…」
マスターの言葉が濁る…。
「どうした? オヤジ、早く言え」
「マスター、打ち明けていいですよ」
ウメダやクロスギが促がす。
「はい…、実は…、今、この場に…、Gが隠れ潜んでいます…」
フガッツ!!!
俺は、びっくりして鼻を鳴らしてしまったが、その時、爺さんが声を荒げた。
「わしは逃げも隠れもせん!」
入れ歯が外れて口から飛び出たが、爺さんは落ちる前にパシッと空中でそれを掴んだ。
「ハハハッ、爺さんのことじゃねえよ」
「誤解させてすみません…」
ウメダとマスターが言った。
そうだ、誰が爺さんのことを言うか。
「じゃあ、何だ! わし以外おらんじゃろ」
爺さんは周りを見る。
「えー、アレです。黒くて、いつもコソコソ隠れているアレです…」
「ああ?」
マスターは言う。
「ご老人、ほら、ゴ、で始まる4文字のアレです」
クロスギが助け船を出すと、爺さんは「あ、あーっ」とにやけた。
俺はGと言われて、一瞬、自分かと思ったが…、「ゴで始まる4文字」とは?…。
…。
…ゴルゴ13か!!
俺は今、黒い服装だ。そして殺し屋だ。密かに尊敬しているのが、ゴルゴ13、だから自分の通称をGとした…。誰にも言ってない秘密だ…。
彼らは遠回しにGは俺だと言っている?…。
マスターやクロスギはJMIの人間だから俺の正体を知っててもいい。
だが、ウメダと爺さんは何だ! どういうことだ。
そもそも、どうして、俺が話題に上る!? どうして、脈絡もなく話がそうなる!?
今、皆は刑事が帰ったことの説明を求めているんじゃないのか!?
「オヤジ、そんなこと隠してたって俺は気にしないぜ。お前もそうだよなぁ」
ウメダは、彼の目の前の女性店員を見た。
「いえ、わ、私は…前から、知ってはいましたから…」
ウッ!
俺が、ここに来ているのは、あんなバイトのような女の子も知ってたってことか!?
いや、そんなはずはない。そんなはずはないが…、今朝から今までのことを思い起こすと、自信が持てない…。
マスターは話を続けた。
「そして…、彼は、電気の配線工事に来たのではありません…。…Gを退治しに来たのです…。皆さま…、黙っていて、申し訳ありませんでした」
ち、ちょっと待って…、俺を退治?
と言うか、申し訳ないのは、黙っていたこと?…。
クロスギが言う。
「マスター、事情はお察しします。そこまで深刻に考えなくてもいいと思いますよ」
俺にとっては、十分、深刻です…。
「そうだ。どの店でも抱えている問題だじょ…」
爺さん、話も、入れ歯もかみ合ってないよ…。
マツが叫ぶ。
「この際、みんなでGを見つけて殺しましょう!」
何てことを言うんだ! お前は黙ってろ!
「マツ、俺たちにそんな時間はない。ヤツにはホウ酸団子でも食わせとけばいいんだ」
絶対に食うか! アホ!
「皆さん、どうぞお気遣いなく、専門の私が責任をもって駆除しますので…」
電気屋は言った。いや、電気屋じゃないんだった…。じゃあ、何だ? 彼もプロの殺し屋か? そうは見えないが…、でも、なぜ、ここで公言する?
俺の依頼人は、隠れ潜んでいるGを駆除する、と言われて、何で平然としている?
俺に仕事を依頼する予定だったんじゃないのか?
と言うか、依頼人とおそらく係長のクロスギにとっては、隠れ潜んでいるも何も、この俺がGだと分かり切ったことじゃないのか!?
落ち着け! 考えろ! この状況は何だ?
…どんな組織も一枚岩じゃない…。それにしても、幹部の目の前で意思疎通が出来ていなさ過ぎる…。
…。
初めから、俺を始末するのが目的だった!?…。
仕事の依頼は、俺をここにおびき寄せるため?…。
いや、そんな回りくどいことするはずがない…。俺を殺す機会なんて、この喫茶店に入ってからいくらでもあったはずだ。
彼らは、俺から取り上げた武器をまた俺に返し、さらに銀行強盗犯の拳銃と爆弾を俺に管理させている。
俺を殺すのが目的ならそんな行動は絶対に取らない…。
そうだ…。落ち着け。大丈夫だ。状況を整理しよう。
ここには俺の他、JMIの渉外係長のクロスギ、そして依頼人、喫茶店のマスター、女性店員、Gを駆除すると言った人物がいる。
これまでの状況を考えると、おそらく、この5人がJMIの関係者だろう。そして、俺がGであると認識しているのは、依頼人、それから役職的にクロスギの2人…。残りの3人は、マスターは「Gが隠れ潜んでいる」と言っていたので、俺、Gが誰なのか知らない。
銀行強盗犯の内、2人、ウメダとマツ、それから、一般客の女性と、爺さんの2人がいる。
ウメダとマツは、金を持って逃げるだけだ。彼らにとっては、Gが誰であるか、いてもいなくても、殺っても殺らなくても、どうでもいい問題だろう。
女性は、今はトイレに行っているが、JMIとの関係性は今のところ見えない。
が、爺さんの言った「どの店でも抱えている問題」とは何だ?
「皆さま、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「では、私は作業に戻っても…」
マスターと電気屋の男が言うと、ウメダは「ああ、行け」と言った。電気屋はバッグを持って、厨房へ行った。
それと入れ違いに、トイレから女性が戻ってきて、俺に声をかけて来た。
「どうなりましたか?」
俺が聞きたいよ…。
と思ったが、彼女がトイレに行っている間に起きたことを説明した。
「えっ! やだ! ゴキブリがいるの!」
「えっ、ゴキブリ?」
彼女は身震いして、ゴキブリと言い、俺は訊き返した。
「え、Gってゴキブリのことじゃないの?…」
「あ…、ああっ、そうそう、ゴキブリだよ。そうゴキブリ、ゴキブリ以外に何かある?」
俺はあたふたしてしまった。
だからマスターがゴキブリという単語を聞くたびに、耳と目線をピクつかせているのに気づかなかった。
さっき爺さんに「誰が爺さんのことを言うか」とか、「話が噛み合ってない」とか思ったが、自分も同じじゃないか!
人の振り見て我が振り直せ、だな…。恥ずかしい…。穴があったら入りたい…。まったく、俺は自意識過剰のどうしようもないヤツだ。
「それで、何で、刑事さん帰ったのですか?」
女性が訊いた。そうそう、俺もそれが知りたかったんだよ。
「おっ、知りてえか。くくっ、笑っちゃうぜ。あの刑事ども、さっきヤツの害虫駆除のバッグの中身だけ見たんだ。俺たちのバッグの中は見ないでよお…」
女性が興味深そうに聞いた後、ウメダにこう言った。
「あ、あの、私もバッグの中…、見てもいいですか?」




