3章9 クロスギ JMI渉外係長(8)
中年刑事がふり返って言った。
「実は、銀行強盗の3人は、大きな黒いボストンバッグを持っていたと、証言がありまして…、ちょうど、あそこのテーブルの上にあるようなバッグです…。念のため…、中を確認させていただいてよろしいですか?」
そう来たか…。
ただ帰ってくれれば良かったが、あのバッグの中の金を見られたら、この場に銀行強盗犯がいると分かってしまう。
それに対するウメダたちの動きは…。
おそらく、彼らは刑事に発砲することはしない。先ほど私は、銃の音ですぐに警察が集まって来るという可能性を、彼らの頭に植え付けて置いた。
ウメダの考えはこうだろう。人質を取って脅迫して刑事に銃を手放させる。そしてマツが刑事を拘束し、車が来たら彼らはそれに乗って逃げる…。その後に私とGが店を出ればよい。
上手く行けば…だ…。
あるいは、あの直情型の若い刑事、あるいはウメダが発砲…。または、発砲しなくても、互いに譲らず膠着状態に陥る可能性、ウメダたちに気づかれないように応援を呼ぶ可能性、すでに外に別の警官が控えている可能性もある…。
この2人の刑事は、誰を犯人と考えるか…。この中の3人を銀行強盗犯と考えるか…、または実行犯を3人として、ここにいる全員を犯人と考えるか…。いずれにせよ、疑いを晴らすのは、かなりの面倒ごとだ。
ウメダが人質を取った場合に備えて、彼らを攻撃し制圧する準備をしておかねば…。
もしウメダが人質を取れば、彼らを警察に引き渡して、その後、裏口から抜け出す…。これが、ウメダと刑事という不確定要素に最も左右されない、確実性の高い手段だろう。
そう考えていると、刑事たちはバッグを開けて、中を見た。そしてナオタ電機を騙る男に訊いた。
「こ…、これは…これは何ですか?…」
「申し訳ありませんでしたー!」
!?
バッグの金が発見されて、なぜナオタ電機を騙る男が土下座をする?
刑事たち、ウメダたち、そして私たち全員が困惑した。
「どういうことですか?」
中年刑事が訊ねる。
「わ、私、嘘をついていましたー! 申し訳ありませんでしたー!」
彼らは、内密の話し合いのため、出入口付近まで移動した。なぜかマスターも付いて行った。
…そして刑事たちは帰って行った…。
応援を呼びに行った気配はまったくない。予想外の展開…。無駄にいろいろ考えたような徒労感…。
私はボストンバッグの中を見た。中には雑多な工具、パテ、各種殺虫剤が入っていた。ウメダとマツもバッグの中身を確認しに駆け寄って来た。
何だ、これは?…。
ウメダとマツはあわてて他のバッグを開けたが、そこには金が詰まっていたので、胸をなでおろした。
マスターとナオタ電機を騙る男が神妙な顔つきで戻って来た。
「皆さまに、打ち明けることがあります…」
マスターは口を開いた…。




