2章2 マスター 喫茶イコイ(4)
タイジさんがやっと来て駆除作業を始めてくれた。これでやっとゴキブリとの追いかけっこから解放される。
この2、3か月、連中との戦いも、これで終止符が打たれる…。
感慨に浸っていると、おかしな3人組が入ってきた。
「マツ! 非常口と窓を閉めてこい! タケ! 窓とドアのブラインドを下ろせ!」
何だ? 人の店で何をするつもりだ?
すると、そのうちのひとりが拳銃を取り出して、大声を出した。
「お前ら! 死にたくなかったら余計なことはするなよ!」
拳銃! 目の前の女性客は、何が起きているか分からないように、戸惑っている。
老人の男性客は立ち上がって、新聞をたたみ始めた。
早く110番に電話しないと…。
「動くんじゃねぇ! お前だ! ジジイ! 帰ろうとしてるんじゃねえ! おい、オヤジも! 電話から手を放せ! へそが2つになるぞ!」
私は、ゆっくり受話器を置き、手を上げた。
へそが2つになったら困る…。
手下のひとりが来て、電話のコードを引っこ抜いた。
彼らは、黒い重そうなボストンバッグを、カウンター前の4人席のテーブルの上に置いた。彼らの顔からは汗がダラダラ垂れている。
「オヤジ、その水とコップを渡せ…。お前ら、勝手に動くなよ」
彼らは、水を飲むと、お客さまを奥の席にまとめた。
女性のテーブルの下にいたゴキブリは、いつのまにか姿を消していた。どこか近くに隠れているのだろう。
「マツ、お前はあの客たちを見張ってろ」
ひとりは奥へ行くと、頭目らしき男は、こっちを見て言った。
「オヤジ、安心しろ。少しの間だけ隠れされてもらうだけだ。コーヒーでも淹れてくれるか?」
「あ、俺はアイスコーヒーで」
「アニキー、おれにはアイスカフェオレお願いしまーす」
「お前ら遠慮がないな…」
私が、湯を沸かしていると、頭目が話しかけてきた。
「オヤジ、車はあるか?」
「ありますが…」
彼らは車が欲しいのか…。
「どこだ」
「自宅の駐車場に…」
中古車だが彼らには渡したくない…。いや待てよ。素直に渡して、盗難保険で新しいのに買い換えても良いか…。
「で自宅はどこなんだ?」
「夕日が丘4丁目ですが…」
「ここからけっこう離れているな…。電車で通っているのか」
「いや、原付ですが…」
「うむ、そうか…」
すんなり諦めてしまったようだ…。無念…。
「コーヒーが出来たら呼んでくれ。タケ、店員を見張ってろ」
頭目は店の奥へ向かって行った。火にかけていたケトルは、クシュクシュと沸いた音を鳴らし始めていた。
警察への通報はどうするか…。固定電話は使えなくなり、私の携帯電話はロッカーの中だ。誰かが携帯でしてくれることを期待しよう。
私の店で誰も怪我とかしませんように…。




