3章3 ウメダ 銀行強盗(6)
「お忙しいところ失礼します。私たち谷田世警察署のものですが…、ちょっとよろしいですか?」
くそ! 警察かよ!
マツの野郎、確認しないで開けやがって! 居留守使えば良かったのに…。
くそ!
俺は、電気屋の背後に移動し、サツに見えないようにコイツの腰に拳銃を突き付けた。
「余計なこと言うなよ! もしサツに感づかれたら、血だらけになって死ぬのはお前だけじゃないぞ」
低い声で言うと、電気屋は細かく頷いた。
それを確認すると、銃を背中側ズボンに挟んだ。これならアロハシャツで隠れて見えない。
刑事たちは、店に入って来てひと通り訊き店内を調べたが、特にあやしいと思わなかったんだろう。
刑事は言った。
「皆さん、ご協力ありがとうございました…」
フー…。…早く帰れ。
「お忙しいところ、すみませんでした。…ところで…、何の打ち合わせだったのですか?」
なにぃ! 何のだって!
どうやったら、警察に見つからずに、車に乗って逃げられるかっていう打ち合わせだよ!
くそ! どうする!? クロスギ…。
俺は彼を見た。すると、クロスギは言った。
「打ち合わせの内容ですね…」
「ええ、そうです」
「…それは、言わないといけませんか?」
「いいえ…、ただ、何か不都合なことでもあるのですか?」
刑事の目がクロスギの目の奥をのぞき込む。
「もちろん、あります」
なに! あるって言っちゃあダメだろう!
「どうして、都合が悪いのです?」
「…刑事さんだから、守秘義務がありますね?」
「ええ、もちろんです。刑法に反しない限り、秘密は保護されます」
「…では、お話しましょう。でも、その前に…」
クロスギは俺たちを見回した。
「皆さん、お話してもいいですか?」
全員が挙動不審になった。俺も少し取り乱し気味だったが、慌てている他人を見ると、少し落ち着くもんだな…。
クロスギの事だ。何か考えがあるかもしれない。
「話していい…」
俺が言うと、他のヤツらも頷いた。
「では、刑事さん、打ち明けます」
「はい」
「打ち合わせの内容は…」
「内容は?…」
「不倫です」
「はあ!?」
2人の刑事は口をあんぐり開けた。ここにいる全員の目が点になった。
「実は…私は、この喫茶店の店員、そちらの女性と関係があります…」
言われたムスメ――土屋太鳳に似ている――は、顔を両手で押さえた。心外なことを言われて恥じているんだろう…。
若いムスメに何てことを言うんだ! このクロスギという男は。けしからん!
「…しかし、彼女は、こちらの男性とも関係があるようです…」
クロスギは、若いワイシャツの男を見た。
彼女は卒倒しそうだ。かわいそうに…。若い刑事も心配そうに見ている。
「そして、彼はまた彼で、こちらの女性とも関係を持っています…」
長澤まさみ似の女性客を見た。彼女は目を見開いて驚いている。若い刑事の目つきが変わった。
「しかし彼女がお付き合いしているのは、こちらの男性です…」
くそ! 俺を見るな!
…、まあ…、美人だから悪い気はしないが…。
「しかし、こちらの男性の本命は、あちらの男性です…」
オイ!! 俺はゲイか!! いや、マツ! 何でお前、頬を染めてる!
「ここまでは良いのですが…」
いいのかよ! ぜんぜん良くねえよ!
「問題は、私たちの内に、すでに結婚している人がいることです…」
はあ!?
刑事たちは完全に固まっている。中年刑事は訊いた。
「つまりどういうことですか?」
「つまり……、泥沼です…」
若い刑事は中年刑事にささやいた。
「ヤマさん…、この2人の美女と関係を持った、鬼畜どもをぶっ殺していいですか?」
「馬鹿野郎! お前、刑事だろうが!」
「私たちは、今後どうするか、話し合っているところです…」
「そうでしたか…、それは…、大変お取込中でしたね…。ちなみに、こちらの男性は?…」
「彼の相手は、こちらのマスターです…」
コマキとオヤジ、いいのか!? お前たち、ホモにされてるぞ!
「ご主人…、そうだったのですか…。それは、それは…。で、こちらのご老人は?…」
「こちらは、調停役です…。話し合いが紛糾した時に、口を出したりします…」
…入れ歯だろ…、出すのは…。
「そうですか…。大変ですね」
中年刑事は、優しい目で俺たちを見回した。
「いや、ホント、申し訳ない。これは聞かなかったことにしましょう…」
そして、軽く会釈をした。
「それでは、このへんで失礼します…。どうも、ご協力ありがとうございました」
そう言うと、刑事たちは出口に向かった。
助かった…。何とか乗り切ったぞ。よくやった、クロスギ…。みんなも、ホッと胸をなでおろしている。笑顔が戻った。
あとは車が来たら、この店を出るだけだ…。
「あ、そうそう、ひとつ忘れていました」
中年刑事がふり返って言った。
「実は、銀行強盗の3人は、大きな黒いボストンバッグを持っていたと、証言がありまして…、ちょうど、あそこのテーブルの上にあるようなバッグです…。念のため…、中を確認させていただいてよろしいですか?」
テーブルの上には、俺たちの金が詰まったボストンバッグが積み重なっている。
ヤバイッ!
刑事の目は、あやしく光っている…。




