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2章16 ケンジ 芸術学部2年(7)

 ケンイチが、タケと呼ばれていた手下と一緒に、車を取りに店を出た。


 社長さんは、さっき「コマキ」って名乗っていた。


 そう言えば、オレ自己紹介してなかったな…。ネズミ退治の依頼ばかり考えていて、基本的なマナーを忘れていた。失敗だ。はずかしい。


 コマキさんは、クロスギさんと車の件を話し合っていた席に座っている。


 クロスギさんってケンイチにシナリオ制作の依頼をしに来た人だったよね。すごいなぁ、マンガがうまいだけじゃなくて、こういうリーダーシップも発揮できるなんて…。


「はい、では、続きを始めて結構です」

「え、何のだ?」


 クロスギさんがウメダさんに言った。


「先ほどの尋問です」

「コイツにか? もういいんじゃねえ? すぐに車が来るから、あとは乗って逃げるだけだ」


「本当によろしいですか? では少し私から…。ナオタ電機さん、ちょっと、すみません…」

「は、はい」


「ウメダさん、一応、武器を所持していないか、確認をお願いします」

「武器? ああ…、んー…身につけてはいなそうだな…」


「ナオタ電機さん、携帯を確認してもよろしいですか?」

「え、ええ」


 クロスギさんは、電気屋さんの携帯電話を確認した。


「先ほどは、電話帳に登録されていない番号から電話をもらいましたね?」

「ええ、そうです」


「そして、相手は警察の巡査であると名乗った。だからあなたは『刑事さん』と言っていたのですね?」

「そう、その通りです」


「そして、要件を話す前に、電話が切れてしまった、でよろしいですね?」

「そう! そうなんです! 私はまだ何も話してないんです」


 ウメダさんが、電気屋さんからクロスギさんの方に視線を向けた。


「クロスギ、じゃあ、サツがここに来ることはないな」

「ええ、彼の言葉を信じる限り…。発着信や電話帳に関しても不審なところはありません」


「じゃあ、もういいな」

「ええ、この携帯が本当にこの人のものなら…、そうですね」


「どうゆうことだ?」

「警察から、一般の人が電話をもらう機会はそうあることではありません。事件でもあったか、あるいは電話が盗難にあった場合でもない限り…」


「だから、どうゆうことだよ?」

「もし、この携帯がこの人のものでなく、他人から奪ったものなら、この人が犯罪者である可能性が出てきます。そして隠れて何をしていたのか? 動機を考えるなら、ここには大金がある…と言うことです」


 電気屋さんの目が泳ぎ始めた。何かそわそわしている気がする。


「コイツは俺たちの金を奪いに来たってことか!?」

「どうでしょう…。確かめる必要があるかもしれません。彼は、単独犯かもしれないし、複数犯のひとりかもしれません…」


「しかし、俺たちは偶然この店に逃げ込んで来たんだぞ。コイツは俺たちより先にこの店に来ていたんだよな。何で俺たちがここに入るって分かったんだよ!?」

「ウメダさんはどうしてこの店にはいったのですか?」


「俺か? 俺は…逃走用に用意していた車が、すぐ近くであった事故のために使えなくなって、あちこち走って逃げまわっていたが、サツが来たから…、ちょうどこの店のドアが開いていたのが見えて…、コイツ、その時、ドアを開けていたヤツだ!」

「誘導されて来た…のですか?」


 電気屋さんは冷や汗を垂らしながら、首をプルプル震わせている。


「コイツとその仲間は、俺たちの計画を知って、銀行強盗は俺たちにさせて、その後、金を奪おうと考えていたってことか!?」

「さあ、どうでしょう。ただ警察に通報するだけなら、隠れたまま出てこなければ良かったのです」


「何で出てきたんだ?」

「そうですね。もし彼が出てこなかったとしたら、ウメダさんたちはどうしていました?」


「そりゃあ、すぐに店から出て車に乗って逃げていたさ…」

「でも、彼が『刑事さん』と口にして、姿を現すと…」


「俺たちは、外を警戒して、コイツを尋問しようとした…。…時間稼ぎか!! 俺たちをここで足止めするつもりだったのか!?」


 ウメダさんは、テーブルから拳銃を取って、マガジンをはめ込んだ。


「オイ! お前! 」


 電気屋さんは、両手を振って否定しようとしている。


「待ってくださいー、誤解ですぅ」


 その時、コンコンと出入口のドアをノックする音が聞こえて来た。


「あ、帰って来た」


 マツと呼ばれていた手下が、椅子から飛び上がって、鍵を開けた。


 ドアの向こうにいたのは、ケンイチとタケさんじゃなかった。


「お忙しいところ失礼します。私たち谷田世警察署のものですが…」


 ゲッ、警察! 私服の警官が2人、ドアの外に立っている…。


 店の中にいた人たちの顔が凍りついた。表情を変えなかったのは、クロスギさんやおじいさんくらい。電気屋さんは、救われたような顔をした。


「ちょっとよろしいですか?」


 ちっとも…、よろしくないんじゃないですか…。


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