2章12 ウメダ 銀行強盗(5)
「どうしましょう、アニキ」
「急いで、車まで走るか…」
「アニキ、待ってください」
「どうした? タケ」
「サツのヤツら、外で網張って待ち構えているなんて、ないですよね?」
「…」
「店から出たとたん、取り囲まれて、スナイパーに狙われたら、人質が1人いても、逃げられないですよ」
「それもそうだな…」
「ここは、安全を確認してからじゃないと…」
「うむ」
俺たちは、ブラインドの隙間から、裏口はドアや窓を少し開けて、外の状況を見てみた。別段変わったところはない。
「アニキ、大丈夫そうですぜ」
「いや、目立たないように隠れているだけかもしれません」
「そうだな…オイ! お前だ! 電話してたヤツ! 双子じゃない! そう、お前だ!」
作業着を着たオヤジがビクビクしながら1歩前に出た。
「お前、サツと何話してた」
「えっ…私? えー、特に何も…。電話がかかって来ましたけど、電波が悪くって、何も話さないうちに切れちゃいました」
「ほう…。それなら、俺たちがここにいることはサツにはバレてないってことだな…」
「アニキ…、そいつは分かりません。コイツ嘘言っているかも…」
「いや、嘘つきは泥棒の始まりだぞ。嘘はつかないだろう」
マツが口を挟んできた。
「いや、そもそもコイツ、何かおかしい。信用できねえ」
「何が、おかしいってんだ?」
オヤジはチラチラと喫茶店のマスターの方を見ている。
「詳しく聞こうか? オイ、お前、ここで何してた?」
「えっ、私? えー、私は…」
オヤジはチラッと喫茶店のマスターの方を見た。
「オイ! どこを見ている! 訊いているのは俺だ!」
「ヒャア、すみません。えー、私は…あのう…電気の配線工事…やってました…」
「さっきは台所にいなかったよな」
タケが言った。
「食品庫にいたんですよぅ」
「で、何でサツからお前に電話がかかってくるんだよ?」
「知りませんよ…、あっ…、もしかしたら…、さっき近くでうちの社員が車で事故にあったから、それかもしれないですぅ…」
「ほう…」
「アニキ!」
タケが厨房から黒いバッグを持って戻って来た。
「コイツ、嘘言ってます。電気工事の道具なんて持ってないです…」
「どういうことだ!?」
「お前、嘘を言っているのか?…」
俺は拳銃を抜き、男に向けた、その時…、
「少々、よろしいでしょうか?」
窓際に座っていた、サラリーマン風の男が口を開いた。両手は上に挙げている。
「何だ、お前」
「はい、私はJMIで渉外係長をしております、クロスギと申します」
「で?」
「差し出がましいようですが、私たちには時間があまりありません」
「何だと」
「もし、警察に情報が漏れているのなら、ここはすぐにでも包囲されますし、拳銃を持った犯人が複数なので、SATの狙撃チームもすぐに駆けつけ、配置につくかもしれません…」
「ああ…」
「また、もしまだ情報がもれていなかったとしても、時間と共に、この商店街近辺に警官たちが集まり、道路の封鎖も進み、車で逃走することも難しくなるでしょう」
「うむ、その通りだ…」
「私たちは急がねばなりません」
「そうだ。て言うか、何で私たちなんだ?」
「あなた方と、私たちの利害は一致しているからです」
「はあ?」
「あなた方は、金を持って警察に捕まることなく逃走することが目的、でよろしいですね」
「ああ」
「私たち人質は、無事に解放されることが目的で、あなた方を逮捕すること、警察に協力することが目的ではありません。あなた方がここに立てこもり、警察が突入するような事態になれば、私たちすべてが危険にさらされます。つまり、あなた方が速やかにここから逃げられれば、私たちも安全になるのです」
「うむ…」
「それゆえ、私たちとあなた方は一蓮托生、同じ目的を持つ『私たち』と言って良いのではないでしょうか」
「共同戦線を張るってわけだな…」
「協力させていただけますか?」
「望むところだ」
クロスギは椅子から立ち上がって握手を求めて来た。俺は彼に近づき握手をした。
「あらためまして、クロスギです」
「ウメダだ。あとコイツらがマツとタケ」
「よろしくお願いいたします」
と、クロスギが言うと、
「ウィン・ウィンだな」
「ウィーン、ウィーン…、ウィーン、ウィーン…、おサールさーんだよー」
「それを言うなら相合いだ」
タケとマツが言った。するとその時、
「私にも協力させてください」
双子の連れ、体調が悪いと言っていた男が立ち上がった。
「コマキと言います。車のキーはここにあります。案内も問題ありません。あとは車まで無事に到達できるように、経路上の安全性を確保することですが…」
「そうですね。偵察が必要ですね」
クロスギが答えると、男が続けた。
「顔が割れていない人物で、この辺の地理に詳しく、状況判断が適切に行える人物が望ましいですね」
「ええ、時間的猶予がありませんので、並行作業する必要がありますね。その場合、管理者を決めねばなりませんが…」
クロスギが言うと、
「クロスギさんが良いと思います。係長だから、管理にはなれているのではないでしょうか」
双子の兄が言い、
「私も賛成です」
と、車を出す男が同意した。
!? みんなが俺を見ている…。マツとタケも静かに見ている…。
俺が答える番か!? フツーは俺が頭を張るんじゃないのか?…。
マツとタケは何で何も言わないんだ? 「リーダーはアニキに決まってるだろ!」とか言わないのか?
天井では黒いクラシカルなファンがゆっくり回っている。
ゆっくり、グル、グル、グル…。
その下の観葉植物がかすかに波打っている。
「まあいい、よし…、クロスギ、管理は任せた」
「わかりました」
「では早速、地図です。誰が持っていますか?…。マスターあったら貸してください…。それからパソコン、スマホ、携帯電話などの通信器具を1か所に集めさせてください。皆さん、勝手に使ったりしませんので、ご協力をお願いします。この目の前のテーブルの上に、見えるように置いておきましょう。ウメダさん、皆さんから回収をお願いしてよろしいでしょうか? それから、マツさん、タケさん、武器弾薬、爆発物などの所持数と安全の確認をお願い出来ますか? そこのつい立ての向こうの4人席が使いやすいと思います。ケンイチさん、申し訳ありません。お手伝いお願い出来ますか?…。あ、どうも地図ありがとうございます。マスター」
…コイツ頼りになりそうだな…。




