2章11 社長 タイジ害虫駆除サービス(6)
この喫茶店の厨房はきれいに掃除されているな。キッチンとしたキッチン…。プッ。
ゴキブリの侵入経路を特定するために、まず、食品庫の中を、隅から隅まで調べあげよう。
全面が棚であり食材がギッシリだったので少し手間取ったが、天井の角と左奥の壁の下の板が傷んで隙間が出来ていた。
板がイタんでいた…。ププッ…。今度使おう…。ただ家で使うと、「うわーっ、オヤジギャク、さむー」とか言われるから、いつもの居酒屋でマキちゃんに使おう…。
ファイバースコープで隙間の中を覗いてみる。
その辺に…、卵とかはないな…。んー、巣はなさそうだ。フンフン…、フンがある。毒エサだけ置いて、穴を塞ごうか。
厨房から、駆除の道具を運び入れているところ、携帯の着信音が鳴った。
「ジーンセーイー、ラークーアーリャー、クーモアールーサー…、ピッ」
「もしもし、ありがとうございます。タイジ害虫駆除サービスです…」
「先ほど…どうも、タイジさ…ん、あさ…が丘1…交番の…津ですが…」
「あ、どうも、刑事さん、先ほどは、ありがとうございました…」
「…ません。お…が…い……」
食品庫の奥の方は、電波が届きにくいのかな? 厨房に出てみよう。
「もしもし、すみません。聞こえますか?」
「…しもし…め…と…」
電波、電波は…どこかな、っと。
「もしもーし! ちょっと電波が悪いようですけど…、もしもーし…」
あら、だんだん遠くなってるような気がする。
「もしもーし! 刑事さん! もしもしー、聞こえますかー、もしもーし…、あ、切れた…」
あ、いつの間に厨房から客席の方に出てきちゃったかな。
あれ、みんながこっちを見ているけど…。
俺、何かしたのかな…。
マスターが祈るような目でこっちを見ている。客は…奥の方に集まって、何か話し合いでもしていた?…。
「あ、あれっ、ど、どうしました?…。えー、あのー、何か…ありました?…」
「お前―!! どこから入って来たー! 今、誰に電話してた!!」
わっ! 何か怖そうなチンピラがいる…。げっ! 鉄砲持ってる…。ひゃー、状況が読めねー。酒飲みてー。
「えー、私…、前からここにいましたよ…」
「で! お前、誰としゃべってた!」
「ひぇー、あ、あれは巡査さんですぅ」
「うそつけ! ジュンさんって誰だよ! 今、刑事って言ってただろうが!」
「巡査さんを刑事さんって呼んでたんですよー」
「お前、なめてるのか! 刑事は刑事だろうが!」
「アレですよぅ、居酒屋のオヤジさんを大将と呼んだり、病院のお医者さんを先生と呼んだりする、大人の社交マナーですよぅ」
「知るか!」
「アニキ…、医者を先生はアリじゃないですか?…」
子分が口を挟む。
「アニキ、それより、コイツ、警察に電話したっていうことは…」
「すぐに、警官が集まって来るな…マズいな…」
「どうしましょう、アニキ」
「急いで、車まで行くか…」
俺…、これからどうなる? 殺される?…。
何だか事件に巻き込まれ…、警察と何にも話してないのに誤解されて…。
あー! 強い酒飲みてー…。




