序章
「なぜ殺した?捕まったら困るのは君なんだよ」
「……どうして捕まるんです?見てください、彼女の姿…………音楽と調和して、美しい」
彼は死体をそっと抱きしめた。少しずつ冷たくなっていく死体と血が、彼の癒やしとなる。PCから流れている音楽と、その血塗れの死体との調和。理解するには、今しばらく時間が必要だろう。
彼は潔癖症のきらいがある癖に、血塗れになることには抵抗がない。
自分では人殺しをやっている癖に、嘘や隠し事、曲がったことが大嫌いで、ひとたび発見すれば「断罪」に執心する。
彼のちぐはぐな人間性に、戸惑いを覚えることは多々ある。だが同時に、いつまでも楽しませてくれる。そのためならどんな殺人も手伝ってやりたいと思う。
彼は快楽で人を殺しているのではない。
ただ「研究」しているのだ。
私はイギリスに生きた彼の物語を書くことにした。
ウェーブのかかった髪は片目を隠すほどの長さで、やけに色白く、いつも憂鬱な表情でいるのが特徴だ。聞き上手で女性にもてるが、生きた人間に触れられない潔癖症。
その名はルイス・エドワード・サクラメント。
タイトルは「血と音楽の研究所」。
この物語は、彼を支えてきたこの私「アナンデール侯爵」の記憶により紡がれる。