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第89話・到着!

「貴様の相当疲弊した様子を見ると……どうやら、この船を浮かせているのはお前の能力らしいな? クドゥル・フォルスタス」


 視線をクドゥルから切らさず、リークウェルは扉を閉めた。今さら軍人の一人や二人がきてもどうということはないが、邪魔者は入らないにこしたことはない。獲物は完全に捕らえた。


「私の、名を……知って、いる、のか……。貴様らは、我々軍人に、なんの興味も……持っていない、と、思っていたが……」


「話を余計な方に逸らすな。長引くほど不利なのはお前の方ではないか? お前は権威のぬるま湯に使った老兵だ。その能力はあとどれぐらい持続する?」


 見たところ、クドゥルは武器を持っていない(持っていたところで何の意味も為さないが)。あとはゆっくりと尋問するだけだ。聞き分けのない赤子を諭すように、確実に詰めていく。


「まずはこの戦艦を着陸してもらおうか。その方が貴様も楽になれるだろう」


「それは……出来んな。こんな、ところで、不時着させたら……船は、倒れて壊れてしまう」


「それがどうした。船が壊れるか壊れないかは全く関係のない話だ。この船はお前が勝手に持ち込んできたのだからな。オレ達の都合には全く関係がない」


 疲労で頭が惚けているのか? これは少し目を覚まさせなければならないな、とリークウェルは判断した。水面に波紋を起こすように静かな足運びで、すっとクドゥルに近づく。


「ぐぅッ……!」


 クドゥルのうめき声とともに、戦艦が一瞬ぐらりと傾いた。思った以上にクドゥルは弱っているようだ。ほんの少し左の太ももを刺しただけなのに、能力の集中が乱れている。もっとも、すぐに立て直した点だけは誉められる。


 しかし、あまりクドゥルを痛めつけるわけにはいかない。この男から情報を得るために戦ってきたのだから、死なせてしまっては意味がない。今の状態ではわずかな負傷さえも致命傷になりかねないようだ。


「二度は言わせるな。艦を着陸させろ。ゆっくりとな」


 太ももにサーベルを突き刺したまま、リークウェルは再度要求する。サーベルを抜こうとはしなかった。これ以上傷つける必要はないと判断したからだ。放っておいても、じきに相手は墜ちる。


 だが、意外にもクドゥルは粘っている。


「ぅ……く」


 うめき声を漏らしながらも、その目は敗北していない。極限にまで追い詰められていながら、まだ観念はしていないようだ。まだ現状を把握出来ていないのか。ただ諦めが悪いだけなのか。軍人幹部としてのプライドがそうさせるのか。それとも……。


「やれやれ……だ」


 仕方なく、リークウェルはサーベルを抜いた。攻撃せざるを得なくなった。


 ただし狙うのはクドゥルではない。床を這うようにして背後へ忍び寄る、小さな影が標的だ。サーベルの刃先が床の表面ギリギリのところをかすめ、影を斬りつける。だが、標的は一瞬早くジャンプしてこれを回避していた。


「ッラァ!」


 ジャンプした影が気合いを叫び、急激に肥大した。腕だ。人の腕が影から伸びてきている。影の正体はムジナ。


「フン」


 ムジナから放たれたナイフの斬撃を、リークウェルは軽く防御する。大した太刀筋ではない。が、背後への接近に気が付かなければ危ないところだった。


「アンタがクドゥルっつ―幹部さんか? オレはノーム。本部所属のウシャス軍人だ」


 声とともに、ムジナの背から腕以外の人体パーツが現れ出した。その、頭にバンダナを巻いたいかにもガラの悪そうな青年に、リークウェルは見覚えがあった。


「お前は……確か」


「また会ったなクソ『フラッド』! オレが生きててビビったか?」


「採掘場にいた軍人……生きていたのか。やはりな。そんな気はしていた」


「負け惜しみぬかしてンじゃねぇ!」


 上半身だけを現したノームが、ナイフを投げつける。至近距離からの攻撃だったが、これもリークウェルはミリ単位で身切り、たやすくかわす。


 ノームは安心した。思い通りにコトが運び、感謝したいぐらいだった。リークウェルがナイフを弾かず、回避してくれたことに本当に感謝した。


 ガシャン、と何かが砕ける音がした。ガラスが割れる音だ。そして船室内の光が消えた。唯一の光源であったランプのガラスが砕かれ、中の炎が消えたからだ。ただでさえ窓のない船室のため、月明かりは入ってこない。


「なに……」


(てめぇの相手は後だッ!)


 ノームは出現させた上半身を再びムジナに納め、走りだした。リークウェルの足元を走りぬけ、クドゥルの座るベッドに飛び乗った。言葉で言うのは簡単だが、これだけでもかなりの冒険だ。突然の暗闇、ムジナの小さな体と走力、わずかな隙をついたノームの行動が、一瞬だけだがリークウェルを出し抜いた。


「頼むぜ、幹部さん」


 クドゥルの肩に駆け昇り、小さな声で耳元につぶやいた。


 そして今度はクドゥルが動いた。と言っても、その動作はごくわずかな動きであった。腰掛けるベッドの縁についていたスイッチを押しただけだ。


 ほとんど身動きの出来ない状態からの脱出手段。知ってしまえば実に単純な仕掛けだ。スイッチを押すと同時に、ベッドと、その奥の壁が動いた。ベッドと壁はV字状につながっていたのだ。壁の下部が向こう側へ倒れる。倒れる壁に引っ張られ、ベッドが跳ね上がる。開いた壁のスペースを埋めるように、一気に起きあがった。


「ラクラ様から聞いて知ってた。もし『フラッド』がこの戦艦に乗り込んでいたら、この仕掛けで逃げるだろうってな」


 ベッドに乗っていた二人の体は、当然、ベッドに押されて壁の穴の中へ消えていく。


「君は……本部、からの応援、部隊か。どうやって……ここまで、乗り込んで、来た?」


「この近くまで来たとき、いきなりオッサンにブン投げられたんだよ。ムジナを出せ、っつーから出したら、オッサンに掴まれてここにブン投げられたんだ。届くわけねぇ! って思ったけど、何か風が吹いててギリギリ届いた。後はあの『フラッド』を追跡してここまで来たんだよ」


「オッサン?」


 穴が完全にふさがった。リークウェルを隣の部屋に残したまま、二人は壁を越えて脱出に成功した。

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