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第66話・暴かれる秘密―浅―

 血縁関係にある人間同士は、その双方に共通する身体的特徴を多く持っている。長身な両親から生まれた子どももまた長身であることが多い。そしてここで言う「身体的特徴」の中には、思考回路も含んでいる。つまり、考え方や価値観も似ていることが多い。もっとも、これはあくまでも先天的な話であり、価値観というものは生きていく過程の中でいくらでも後天的に変化する。同じ環境で生まれ育った兄弟であっても、年を重ねるごとに価値観はズレていく。


 逆に言うと、高齢でありながら価値観も思考も全くの瓜二つであるこの姉弟は、かなり特異なケースであると言える。


「クケ、ケ。なるほど、なるほどねぇ、サナギ。わかった、たよ」


 サナミは深くうなずきながら言った。姉・サナミは、弟・サナギの発見をこの場の誰よりも深く理解したのだ。


「この男……テンセイとか、とか、言ったね。クケケ」


「クケ。そうさ、さ。もう、間違いない、ないよ」


 ノームは背筋に悪寒を感じた。ウシャスの採掘場で『フラッド』と遭遇した時も悪寒を感じたが、今回のものはそれと少し異なる。『フラッド』の時は目の前に刃物を突きつけられた時の恐怖に似ていたが、今、双子の科学者を前にして感じる悪寒は、正体不明の薬品を飲んでしまったかのような不安感に似ている。


「いやはや、これは大物を釣り上げた、げた、ね」


「クケ、ケケ。すごい、すごいねぇ。まさかコイツが……」


 二人が何を言いたいのか、その意味がノームにはわからない。黙って二人の会話を傍聴していることから、周りの研究者たちも同じらしい。テンセイの肉体が異常なまでの生命力を持っている、というところまでは理解できた。だが、どうやらそれだけではないようだ。


「あの時、そうだ、確かに、一人。クケケ」


「あれが……あの、あの人物が……」


 背が凍るのに比例し、腹の中に怒りの感情が燃え上がってきた。


「何ブツブツ言ってやがんだ! オッサンがどうだってんだよ!」


 声を張り上げながら、ノームはコサメを抱いて立ちあがる。足を撃たれてはいるがかろうじて体を支えている。右手はナイフを握っていた。いざとなればサナギへ投げつける用意は出来ている。


「フン。ノーム君。君はさっきから、から、ゴチャゴチャとうるさい。邪魔をせんでくれ、くれ」


「詳しいことは、ことは、本人に聞けばいいだろ、だろ」


 そう言われてテンセイの方を見る。テンセイは黙ってサナギを見ていた。何の表情も浮かべず、彫刻のように押し黙ってサナギの言葉を待っていた。


 ノームは目を疑った。テンセイの流血がとまっているように見えたからだ。だが、何度見ても同じであった。血が止まっているどころではない。ついさっき弾丸が命中したばかりの右肩が……。


「お……オッサン。あんた、さっき肩を撃たれたよな? 確かに見たぜ」


 声が震える。


「肩に弾丸が当たって、血が飛び散ってた。なのに……なのに!」


 足の痛みすら感じなくなった。


「どうしてもうその傷が治ってんだよおォオオオオッ!?」


 弾痕が、新たな皮膚によってふさがれている。こびりついた血がなければ、もうほとんど正常の状態に近い。テンセイの足元に、いつの間にか血のついた弾丸が転がっていた。体から取り出されたらしい。


「どうなってんだ、オッサン! 何かやったのか!?」


 テンセイの傷の治りが早いということは知っていた。海賊の頭と戦った時も、ラクラとの入隊試験の時も、テンセイの負傷は常人の数倍近い速度で回復していた。ウシャスの軍医は『野生の筋肉』と称していた。だが、いくら何でもこれは異常すぎる。撃たれてから一分もたっていないというのに、ほぼ完治してしまっているなど。


「クケ。この状況で、で、極限にまで追い詰められて、られて、さらに能力が強まった、というところかね、かねぇ」


 サナギが言った。


「能力……? バカな」


 それはありえない。


「オッサンは『紋』を持ってねぇはずだぞ。それは確かだ」


 訳がわからない。早く正体を知りたいという一心でノームは言った。


「ク、クケ。そうじゃ、そうじゃあないよ、ノーム君」


「能力は……不死身とも言える、える、その能力を持っているのは……」


 サナギとサナミの視線が動く。ノームもその視線を追った。視線の行きついたところは、己の胸元。ノーム自身の腕に抱かれている存在だった。


「『女の子』。クケクケケッ!」


「その子が、コサメが、が! 能力を使ってテンセイの傷を治しているのさ!」


 ドクン。脈拍が強く胸を打った。それはノームの鼓動か、それともコサメの鼓動が伝わったものなのか、わからない。


「いや、いや、治している、どころじゃあない!」


「クケケ。生かして、して、いる! テンセイは……」


 姉弟は、全てを知っているようだった。テンセイとコサメに関する、全てを理解したようであった。


「『コサメの能力によって生かされている』ッ! クケケ、クケーッ!」


 一瞬、言葉の意味がわからなかった。


「なに……?」


「ク、ケクケ。おもしろい、おもしろいねぇ」


「クケケ。つながった、つながったよクケクク」


 ますます理解できない。


 と、テンセイが口を開いた。


「……そうか。お前ら、あの時の……」


 と。確かにそう言った。


「オッサン? あの時っていったい何のことだ?」


「クケ。クケケ。テンセイ。そうかぁ、お前さんだったかァ……。あの時、あの場所にいた、いた! もう一人の人間は!」


 ノームの質問をサナギが遮った。


「クケケ。手に入れて、れて、いたのか! 不死の力を! 何千年も生きることの出来る、る、不死の能力を!」


 何千年も生きる――。その言葉が、ひとつの反応を引き起こした。


「フェニックス……?」


 コサメがそうつぶやいたのだ。

 小さな、か細い声であるにも関わらず、それは誰の耳にもはっきりと届いた。

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