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第27話・意志表示

 来るなら来い――。交渉次第では大国同士の戦争になるかもしれないこの事件を、テンセイは喜んで受け入れた。村の焼き討ちで始まったゼブの行動の目的が、ほんの少しでも明らかになるかもしれない。そのことに期待しているのだ。


「ええ、その通りです。テンセイさん。”事態は真摯に受け止めて前向きに活用する”その精神は大切ですわ」


 ラクラが久々に笑顔を浮かべた。


「ですが、争わずにすむならそうしたいものです」


「そりゃそうッスね」


 ノームも相槌を打つ。


「今さらじたばたしたってしゃあねぇし、腹ァくくって迎えましょうや」


「君が言うことか……」


 ポツリとレンがつぶやく。当然それはノームの耳に入り、その機嫌を損ねさせた。


「なんスか、オレがビビってるとでも思ってんスかぁ? 先輩。言っときますけど、オレはこの間、対『フラッド』の犠牲にされたことで怒ったんじゃあねぇッスよ」


「ほう」


「そのことをオレ達に黙ってたことに腹を立てたんだ。事前にそーゆー作戦なんだと知ってりゃあそれなりに覚悟も決められたのに、コソコソやってたことがムカついたんッス」


 昨日の態度からすれば強がりともとれる言葉だが、強がれるだけまだ頼もしいとも言える。少なくともラクラはそう感じた。


「……『フラッド』の件、レンから聞いたのですね。あなたのおっしゃる通り、秘密にしていたことは無礼だったかもしれません。お詫び申し上げます」


「あ、いや、お詫びだなんてそんな……」


 大幹部であるラクラに頭を下げられてしまい、かえってノームの方が恐縮してしまったらしい。バツが悪そうに照れ笑いを浮かべながら頭をかいている。


 頭をあげたラクラが再びテンセイの方へ向き直った。穏やかでありながら芯の強い視線がテンセイの目を捉え、有無を言わせぬ気力を放つ。


「これまでのことを踏まえて、今一度確認しておきたいことがあります」


 テンセイはラクラの視線を静かに受け止め、次の言葉を待つ。


「テンセイさん。あなたが我が軍に入った目的を、我々にハッキリと教えてください」


 ノームとテンセイが入隊したその日、ウシャスの軍医は”目的は復讐か”と問うた。テンセイはそれを否定し、強くなるためだと答えていた。しかし、それだけではないということを、ラクラは見抜いていたのだ。


 テンセイの口から笑みが消え、低く重い言葉が流れ出した。


「……前にも言ったかもしれないが、オレの最優先目的はコサメを守ることだ。村で両親のいないコサメを引き取った時から、オレはコサメを守るために生きるんだと心に誓った」


 『心に誓う』。その行為が、言葉で言うよりも遥かに難しいことを、ラクラやレンは知っている。ノームもだ。


「オレはコサメを守りたい。そのためにも、敵の目的がわからないままビクビクと逃げ回るわけにはいかねぇんだ。事件の根っこを叩き、絶対に命を狙われることがないようにする必要がある。じゃなきゃあ”安心な生活”なんて得られない」


 弁に熱がこもり、気がつくとテンセイは狭いイスから立ち上がっていた。その視線は真っ直ぐにラクラを射抜き返し、視線以上にストレートな言葉を届ける。


「オレは、何がなんでも、コサメに安心してもらいたいんだ。平和で、楽しく生活してほしいんだよ。コサメは両親の顔も知らない。友達も一夜ですべて失った。だから、もうこれ以上苦しませたくない」


 ノームとレンも、テンセイの言葉を静かに受け止めていた。


「安心してほしいから……だから、オレは戦うんだ。もし、軍に入らずにどこかの山奥に逃げたとしても、きっとゼブの奴らは追ってくる。あいつらはコサメを狙ってるんだ」


 と、ここでレンが口を挟んだ。


「あの女の子がゼブに狙われている? そう思う根拠はあるのか」


「村が襲われたとき、あいつらは誰かを探していたようだった。そしてこの間の鉱山で戦ったゼブ軍人も、ターゲットに逃げられた、というようなことを言っていた。あの村から逃げられたのはオレとコサメの二人だけだからまず間違いない」


「ふぅむ……。じゃあ、なぜ狙われてるのかっていう理由は見当がつくか?」


「『紋』でしょうね」


 ラクラがかわって答えた。


「私もコサメさんに『紋』があることを確認しました。しかし、彼女自身はまだ一度も自らの能力を発現していません。どのような能力なのかも、全くわかっていないようです。これは非常に奇妙な現象でしょう」


「ああ、オレもそれ思ったッス。『紋』の能力は本能で理解できるはずなのに、なぜコサメだけがそうならないのかって。まだ幼いせいだとも思うんスけど……」


 ノームの意見に、ラクラはうなずく。


「……『紋』は、この世に生まれた瞬間から身に付いており、その能力は本能で理解できる。それが一般的な認識です。私も物心ついたころには光の銃を使えるようになっていました。ノームさんも同じでは?」


「そうッス」


「この軍の中にも数名の『紋付き』がいますが、彼らも皆、例外なく三歳までには理解できたと申していました。唯一例外なのが……コサメさんなのです」


 ここで、ラクラの口調は謎をかけるようなものになった。


「過去に類を見ない現象。それも、『紋』に関することとなったら……」


 言葉が区切られ、沈黙が流れる。ノームとテンセイにはその意味がわからなかったが、直後にレンが声を響かせた。


「狂気の科学者……Dr・サナギだッ! あのマッドサイエンティストが、新たな研究材料で欲しがってるってことか!」


「ええ。彼は本来タブ−とされている強制的な人体実験を行い、様々な発明を行っています。ここ数年、彼はゼブと手を組んでますます実験の規模を拡大しているようです。もっとも、正確なことは明日にならなければわかりませんが」


 奇妙な『紋』を持つ少女コサメ。非人道的な科学者サナギ。そして二つの大国、ウシャスとゼブ。


 明日の会合で、全てが繋がる――!

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