表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/276

第248話・生ある限り悪夢はつき纏う

 ゼブの戦争を止める。そのために最も有効な手段は、王や将軍の死を公表することだ。それはかえって軍の怒りを煽る結果になるかもしれないが、王のカリスマによって統一されていた軍を止めるには最も有効ともいえる。いわば危険な賭けを含んだ荒療治だ。いかにして現実を示し、軍の士気を操ることが出来るかに全てがかかっている。テンセイはその任を買って出た。


『サナギとサナミを連れていけば、少しは信憑性が出るだろう。お前らも説得に協力しろよ』


『ヒィ……。そりゃ、そりゃあ、ムチャクチャな戦争で研究が出来なくなる、なるのを避けるためなら、協力はするがねぇ、ねぇ。正直な話、ワシらはあそこの軍人たちに、に、あまり歓迎されとらんからなぁ……』


 一時的とはいえルクファールの支配から逃れた今、サナギを動かす力は未知への好奇心だけだ。好奇心といえば、まさに人類が文明を発展させ、それ故消去の対象となってしまったきっかけでもある。その塊であるサナギとサナミはある意味では悪の塊とも言える存在だ。しかし、今はその好奇心を利用して協力させるしかない。


『オレもついてくぜ、オッサン。どうせウシャスに戻ったって下っ端のオレに出来ることはねぇしな。ゼブで何をするにしろ……人手は多い方がいいだろ?』


『ああ、頼むぜノーム』


 ゼブ軍と戦闘になる可能性は十二分にあり得る。サナギやサナミが戦力にも人質にもなりえない以上、実質的にテンセイ一人で向かうことはあまりに危険だ。


『あそこの連中、やけに堅物っぽいのが多いからな。王が死んだってことを聞いたら弔い合戦でもやりかねないだろ。オッサンの敵じゃあないかもしれねぇけど、荒仕事となったらオレも手伝うぜ』


 軍隊としては堅物が多くて当たり前であり、ウシャスも似たようなものなのだが。入隊して以降ほとんど他の軍人と交流していないノームにはゼブが異様に映ったのだろう。


『将軍はいないとはいえ、残った軍人の中にも『紋付き』がいるかもしれねぇし』


『そのことなんだけどな。オレの予想、というか予感だと……』


 ノームの言葉を遮り、テンセイは己の予感を仲間たちに告げた。


 ラクラとクドゥル、スィハはウシャスへ戻り、テンセイ、ノーム、コサメ、そしてサナギとサナミがベールを使ってゼブへ向かうことになった。それぞれが重い可能性を胸に抱いて、それぞれの目的のために。


 やがてテンセイ達はゼブ国にたどり着き、王都を見下ろせる高台から軍の様子をうかがっていた。そして真っ先にテンセイの零した感想が


「ああ、やっぱりだ」


である。テンセイの予感は恐ろしい程に的中していた。続いて双眼鏡を受け取ったノームが、やはり同じような感想を述べた。


「クッソ、何が生命の神様だよ、フェニックス……。アイツはどこまでオレたちをバカにすりゃあ気が済むんだ!?」


 高性能のレンズを通して見える、王都広場の景色。そこでは軍人たちが今まさに進軍しようとしているところであった。都市全体が王族と軍のために作られたものであるため、大っぴらに活動している様が見て取れる。敵国からの偵察に対して警戒が薄いようにも取れるが、専ら最大の敵であるウシャスが手薄になっているため、それ以外は眼中にないのだろう。ゼブとウシャスの間には広大な海が存在しているため、侵攻には船を使うことになる。おそらくこれから港に向かうところなのだろう。


 ノームの目は五つの人影に釘付けになっている。


「将軍アクタイン。……ナキル、ヒアク、アドニス。それに……ゼブ王サダム。最悪だな」


 兵たちが集う広場の一角から現れたのは、紛れもなくサダム・ザック・ジグリットである。そして、四人の将軍たち。彼らが現れたと同時に軍人たちの間に緊張が走った。王と将軍は演説台に立ち、声を張り上げている。どうやら出陣を前に王自らが兵を鼓舞しているようだが、テンセイたちの位置まで言葉は届かない。


「あのアフディテって嬢ちゃんがいないのは、他の兵たちに存在が隠されてたからか」


「だろうな。……とにかくこれで、一番有利に思えた手段は取れなくなったな。しかもアイツまで蘇らせるとは。演出としては最高だがオレ達には最悪だ」


 死した者との再会。あまりに心寒い光景だった。テンセイたちが戦った将軍や王は、いずれも影武者などではなく本物であった。今ゼブの広間にいる者たちも紛れない本物だろう。……肉体や魂に全く違いのないコピー、と呼ぶのが正しいのかもしれないが。


「王や将軍の戻ったことにより、軍の士気は不動のものとなった。そして死んだはずのアクタインまでもが蘇生したことでフェニックスの神話が証明された。……この軍を止めるのは簡単じゃねぇな」


 テンセイの予感した最悪の事態。王と将軍の蘇生。当然それを行ったのはフェニックスだ。持てる全ての力を取り戻したフェニックスにとっては造作もないことだろう。


「で、どーすんだオッサン?」


「少しは自分でも考えてみろよ、ノーム」


「んー……。やっぱ、もういっぺんあの連中を倒すしかないとか?」


「クケ、クケ。それじゃあやっぱり、り、戦争じゃないか。思い上がりの自惚れ! 相手が将軍一人ならともかく、かく、王と四人の将軍が一か所にいる、いるんだ。他の軍人たちも大勢いる。それをお前たちだけで、だけで倒せると思ってるのか」


 例によってサナギが口を挟む。傍らのベールの背にはルクファールが眠ったままくくりつけられている。


「うるせぇ! だったらお前らがアイツらを説得しろよ! あの王様はお前らのことを信用してるんだろ!?」


「クケ……。全く思慮が浅い。それだってねぇ、このお方がワシらと王との間に、に、入ってくださったからこその関係だよ、よ。それに、に、フェニックスの蘇生させた王達が、が、生前と丸っきり同じだとは限らないだろう。性格がいくらか凶悪に改変させられて、れているかもしれない。そんな奴らの集団へ迂闊に、に、近寄れるか!」


「何もしねぇんなら何も言うな! 文句ばっかりタレやがって!」


「ケンカ、だめだってば」


 コサメの拙い叱咤が、場違いに響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ