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第229話・妖光と陽光

 光が現れた。登りゆく朝日よりもずっと温かくラクラの心を照らしてくれる、力強い光が。おそらく全力で走って駆け付けたのだろう。隣のノームが息を乱している。だがテンセイは疲れている気配を少しも見せない。これまでダグラスやゼブ王サダムと戦い、負傷を受けながら勝ち進んできたにも関わらず、その肉体には万全な力が満ちている。おそらくサダムが与えた治癒の力のおかげだろう。


 コサメを背負って立つその姿は、守護者としての威厳に満ちていた。


「すまねぇ、隊長。すっかり遅くなっちまったな」


「いいえ……。よく、来てくださいました」


 ラクラの言葉は、ほとんど無意識のうちに零れていた。そんな悠長な会話を交わしている場合ではないのだが、気がつけば安堵の息を洩らしていた。


「テンセイ……」


 ルクファールがつぶやいた。その声には何の感情もこもっていない。いや、あまりに複雑な感情が渦巻きすぎて、台風の目のように抑揚のない声になっているだけだろう。ルクファールはわざと時間をかけてラクラと対峙していた。ならばテンセイが再びその前に立ちふさがることも初めからわかっていたはずだ。しかし、この魔王は性格的に非常に幼い部分がある。わかっていても、いざ目の前にすると感情を隠し切れない男なのだ。


「テンセイ。テンセぇぇぇイぃぃ……」


 徐々にその口がつり上がっていく。瞳が不気味に開いていく。笑っているとも引きつっているとも判別しがたい顔だ。その視線がラクラの方へ向き直った。


 突如、風が吹いた。ラクラにはそれだけしか感じられなかった。いつの間にか、視界の大部分がテンセイの背中で覆われていた。布で体を覆い、頭だけ出したコサメの青い髪が鮮やかに映る。


「フハッ!」


 見えないが、ルクファールの声が先程よりずっと近い位置から聞こえた。テンセイのすぐ向こう側にいるのだろう。


 テンセイが自分を庇った。そのことに気づいた時、テンセイはすでに視界から消えていた。


 いかに動体視力を鍛え、肌で気配を察知する術を身につけたラクラといえど、この時二人の化け物が見せた動きを完全に把握することは不可能だった。右に移動したかと思えば左、左へ行ったかと思えば右へ、二人は影のように張り付いて移動している。時折乾いた音が響くのは、その一瞬前に拳か蹴りでの応酬が行われたせいだろうか。


(速い……! テンセイさんが、あの男の動きに追い付いている! 先の戦いよりずっと速い!)


 サダムとテンセイの戦いは、まだラクラの目でも戦況を見定めることが出来た。剣が振り下ろされる軌道までは捉えきれなかったものの、剣が振られたことなどは把握出来ていた。今はそれが出来ない。どちらが何を仕掛け、それが決まったのか防がれたのかすらもわからない。時間の流れから取り残されたかのような錯覚さえする。


 テンセイが加速している。明らかに先ほどまでと比べて違うレベルの強さに達している。ルクファールが姿を現してから最初に放った蹴りをテンセイは防ぎきれず、森の奥まで弾き飛ばされた。それが今では同等の動きを身に着けている。それはコサメを背負うことでより直接的にフェニックスの力が供給されているためか。ラクラにはそれだけではないような気がしていた。


 まるで、何者かの意思がテンセイを勝たせようとしているかのようだ――。


「隊長、オレたちもボーっとしてる場合じゃあないぜ」


 ノームに声をかけられ、ラクラの思考は中断された。そうだ、テンセイが自分を庇ったということは、あの男がまず最初に自分を狙ったということではないか。テンセイが更なる力を得て対抗しているとはいえ、いまだに危険な状況にいることに変わりはない。


「リークウェル・ガルファ! まだ意識はありますか!?」


 地面に臥したリークウェルへ声をかける。自分以上に命の危機に曝されている『フラッド』の二人も見捨てるわけにはいかない。だが返事はない。駆けよってその体を抱き起こすと、かすかに呼吸はしていた。だが目蓋は重く閉ざされ、唇の動きも危なっかしい。


「なぁ隊長。こいつ、何されたんだ? 見たところケガはねぇみたいだが、妙に震えてるぞ」


 ノームもまた同様にユタを抱えて言った。言われてみればユタには外傷はなく、不可解な力が働いていることはすぐに察したのだろう。だがそれが他者の魂に蝕まれたが故の姿だと誰が思いつくだろうか。


「あの男の能力です。ほんの少しだけですが、私は彼が能力を使うところ見ました。彼の能力は、テンセイのおっしゃっていた通り”魂を集める”こと。ですが、魂を集めるだけでなく解き放つことも出来るそうです。そして解放された魂が他者の肉体へ憑依すると、その少女と同じ症状を引き起こす……」


 ラクラとて全てを知っているわけではない。その説明は曖昧で不明瞭、かつ突拍子には理解し難いものであったが、ノームは何度も細かく質問をして同じレベルまで理解を共有した。


「マジかよ……。身体能力、不死身、炎、凶暴な生物の創造、これだけのことに加えてそんな芸当まで出来やがンのか、あの野郎は。だとすると……」


 ノームが何かを言おうとした時、森の奥に紫の光が灯った。二人はラクラたちから離れた場所で打ち合っている。それはテンセイが誘導したのか、それともルクファールが狙いをテンセイ一人に絞ったのか。おそらくは前者、そして後者の意味合いもいくらか含まれているのだろう。ルクファールがあえて誘いに乗ったというのが正解か。


「お、おいおい! まさかあのモヤっとした光が!」


「あれは魂! テンセイさんに憑依を……」


 戦う二人の姿は影となってしか見えないが、光は相変わらず緩慢な動作で浮遊している。今度はいったいどのような魂を放ったのか知らないが、危険な存在であることは確かだ。


「マズいぞ! あの光に触るなってことをオッサンに伝えねぇと……!」


 ノームがムジナを走らせようとしたその時、光が唐突に消えた。よくはわからなかったが、その近くを移動していた影に吸い寄せられたように見えなくもない。そしてその影は通常の人間より二回りほど大柄だった。

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