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第201話・確かな力

『リク!』


 二つの声が同時に響いた。一つは、テンセイとともにこの場へやってきたダグラス。もう一つは、死の淵からようやく這いあがって来たユタの声であった。再会した二人が放った最初の一声が信頼するリーダーの名であった。


「リク、どーしたの!? アイツらにやられたの!?」


 そして真っ先に、リークウェルの負傷に目を見張った。少しずつ再生しつつはあるが、未だ両膝から下が途切れている姿を見れば誰でも動揺する。


「……ああ。だが、その戦いはもう終わった」


「え?」


 言葉の意味をユタは理解できなかった。なぜなら、戦っていたはずのアフディテがサナギやサナミの元に無傷のままでいるからだ。リークウェルが剣を抜いて相手に傷を負わせなかったことなど、これまで一度もない。だから、ユタはまだ戦闘が終わっていないと思いこんでいた。


「アドニス・アフディテとの戦いは終了した。場面はもう次に進んでいる」


「どーいう……」


「そのまんまだ。この後、オレやお前らの出る幕はないぜ」


 ノームが言葉を挟み、リークウェルを担ぎあげた。そしてユタの元へ歩いていく。


「あ! あんたウシャスの軍人じゃん! リクに何してんの!?」


 眠っていたため事情を知らないユタは混乱する。だが、リークウェルが目を合わせると口をつぐんだ。ユタに対しては言葉で説明するより目で語った方が理解が早い。


「こっから先はオッサンに任せるに限るぜ。……下手に割って入ろうもんなら、とんでもねぇ圧力に押しつぶされるだけだ。なにせ常識外れた化け物同士の戦いだからな」


 ノームはユタの隣にリークウェルを下ろし、自身もその隣に腰を落ち着けた。ノームの負傷は戦闘不能になるほど重いものではないが、ギリギリの戦いを切り抜けた痺れと緊張がまだ解けていない。何より、これから予想される戦いの凄まじさを思うととても参戦する気になれない。


 全ての役者と戦士が一同に揃ったこの場で、次なる対戦のカードは自動的に決定された。まるで数千年も前から運命で決められていたかのように、誰の反論も異議もなく二人の戦士が舞台へ上がることになった。


「隊長、コサメを頼む」


 テンセイが、背中に負っていたコサメを腕に抱いてラクラへ渡した。島に上陸した時から眠っていたコサメはすでに目を覚ましており、テンセイの言に大人しく従った。


「お気をつけて。……可能な限り避けたかった展開ではありますが、もはや逃れることは出来ないでしょう。あなたの手で、幕を引いてください」


 ラクラが静かに励ます。テンセイに協力して戦うことも可能に思えるが、テンセイの体からほとばしる並々ならぬ想いが、それを許さない。決着をつけるのはこの男しかいない。


「もう一つのフェニックス……。お前には、それを手に入れてから挑みたかった。お前の持つ力に対抗するためにな」


 テンセイはサダムを睨みつけながら足を踏み出していく。思い出の眠る場所であり、全ての発端である至天の塔を背景に、太刀を抱えたサダムが待ち受けている。王の肉体から大気へ溢れる威圧的な波動。テンセイは直接フェニックスを所有しているわけではないが、長くコサメとともにいたせいか、あるいはフェニックスの住む至天の塔で生活していたせいか、はたまたサダムの持っている力があまりに膨大すぎるせいか(おそらくそのどれもが正しいだろう)、その力の正体が神のものであると確信していた。


「前に会ったときは隠してたよな、それ。どうやってたのか知らねぇが」


「フフン。ぬしらに出来ぬことでも、余には可能である」


 サダムは笑い、テンセイに一歩近づいた。


 そのまま互いに歩み寄る……かと思われたが、意外にもサダムはすぐに足を止め、剣を地へ刺した。そして素手になって再び歩を刻みだす。


「ぬしのその両手、完治しておらぬな。コサメの持つ力はリークウェルより巨大ではあるが、なにせ自覚がないのだから万全とは言えぬだろう」


 サダムは両手を体の前に差し出した。その格好はまるで、両手での握手を求めているようだった。いや、実際にそうなのだろう。テンセイに、傷ついた手を出すよう求めている。


 それを受けてテンセイは……応じた。望み通り、ダグラスの爆弾を受けて負傷した手をサダムへ差し出した。手のひらを上に向けて、何かを受け取るような格好で。その手はコサメの無意識の能力でいくらか形状が修復されていたものの、分厚い甲には痛々しい傷跡が残されていた。


 サダムが、テンセイの両手を挟むように握った。握力はそれほど込めていない。軽く触れる程度だ。


「本気でなければ面白くあるまい。ノームの傷は我がゼブ国の将軍アフディテがつけたものだから構わなかったが、ぬしのこの傷はゼブとは無関係――『フラッド』につけられたものであろう? そんな余計な要素をこの勝負に持ち込むわけにはいかぬ」


 挑発するような言葉にダグラスがピクリと肩を動かしたが、それ以上は動きを見せなかった。


 サダムの肉体に、白い炎が立ち昇った。誰の目にもそう映った。威圧感による錯覚ではなく、本当に皮膚の上をほの白い炎が揺れている。肩のあたりから燃えはじめた炎が腕を伝い、両の手へ移っていく。そして炎がテンセイの手を覆った。


 テンセイは微動だにせず、黙って炎を受け入れている。炎は数秒体表を揺らめいた後、徐々に勢いを弱めてやがて消滅した。炎が消えた後、サダムがゆっくりと手を離した。


 これで確定した。サダムはフェニックスの力を持っている。共鳴を感じないユタやダグラス、ノームとラクラもそう信じざるを得なくなった。炎が消えると同時にテンセイの傷までもが完全に消え失せていたのだから。


「さぁ、これで準備は整った。安心しろ、余は小細工や策は得意でない。手出しをしてこぬ限り、ぬしの仲間やコサメには手を出さん」


(どうだか……。コイツが本性を剥きだせば……)


 サダムが数歩戻り、剣を抜いて改めて向き直った。

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