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第197話・小さな魔物

 根性での逆転だとか、都合のいい奇跡だとか、そんなものはリークウェルは信じていない。だからこの時、リークウェルの精神は半分以上が敗北したような気になっていた。奇跡でも起きなければ勝てない、と判断してしまったのだ。


「貴様に何が出来る。爆弾はあと二つしかないのだろう」


「おう」


「それだけで何が出来ると言うのだ。それに、一度喰らった以上、相手は爆撃を警戒する。次からはそう簡単には喰らってくれないぞ」


「うっせぇな。ゴチャゴチャ言うな」


 龍が空中から襲ってきた。ノームは、リークウェルを背負ったまま横に跳んでかわす。


「自分一人ですら満足に逃げ切れないというのに、オレを背負って戦うなど正気か」


「うるせぇっつってるだろ。あ、どーせなら後ろ見張っててくれや」


 リークウェルは、自分が戦闘不能な状態にあることを認めている。そして、ユタとは違って自分の体内にフェニックスを持っているため、アフディテはその再生の力を用心して確実にトドメを刺そうとするだろうことも推測していた。結論として、ノームに見捨てられると間違いなく死亡してしまう。


 だが、ノームに頼るだけでは結局助からないだろうとも思った。何とかして打開策を講じなければならない。動作がかなり制限された肉体で、何が出来るか……。


「後ろ見張りながら、キチッと目に焼きつけとけよ。元・大盗賊ノーム様の華麗なる戦術をよ」


 詳しい素性を知られてないだけに勝手なことを言っている。が、リークウェルはなんとなく誇張だと見抜いていた。


「口だけ元気でも意味がないだろう。いったいどうするつもりなのだ」


「決まってンだろ。オレの『紋』を使うんだよ」


 この言葉を聞いて、リークウェルは初めてムジナが姿を消していることに気がついた。ノームが体内に戻したのかと思い、その肩にある『紋』に触れてみたが、そこからはエネルギーが放出されている気配があった。


「あの(ケダモノ)はどこにやった」


「ダを入れるな、ダを。せめて(けもの)って言えよ」


 ノームは文句を言いながら跳ね、龍を避ける。かすりはしなかったが、紙一重の回避だった。そのうち回避し切れなくなって直撃を受けるのは明らかだ。的が減ったため、龍の攻撃も集中的になっている。


「長期戦だの、削り合いだのってのは好きじゃあねぇんでな。やられる前にやる、の精神でいくぜ」


 龍が攻める。しかし、よく見れば不自然な攻め方であった。三匹の龍が一斉に突撃すれば、ノームはひとたまりもないだろう。だがそれはせず、最大でも同時には二匹までしか襲ってこない。一匹は再びアフディテの元に戻り、守護壁の役割をしていた。


「へへっ、オレはよォ、あのお嬢さんの弱点をもう一個見つけたぜ。聞きだいか?」


 リークウェルは応えなかったが、ノームは勝手に話しだした。


「『紋』の法則だぜ。単純な能力ほどデカくて強力だが、いくら強くても単純は単純だってことだ。この蝶に出来ることは、触れた物体を破壊することの一つだけだ」


「そんなことはとっくにわかっている。それが厄介だというのだ」


「オレの『紋』はな、確かに派手さや威力ではあの娘に劣ってるぜ。サナギみてーに時間を戻すだとか反則的な能力でもねぇ。でもな、そんなオレにさえ出来ることをあの娘は出来ない」


「なに……」


「”目”だよ。遠隔視能力だ」


 アフディテの『紋』は、アフディテ自身の目が届く範囲内のみでコントロール可能なのだ。蝶や龍の目を介して視野を広げることは出来ない。


「オレはムジナの見てる映像を見れる。あの娘は見れない。それを利用しない手はないだろーよ」


 ノームとリークウェルの会話が聞こえているのか否かは定かでないが、アフディテは何かを強く警戒しているようだった。特に地面に対して警戒心が強いらしく、しきりに首を曲げて土の表面を眺めている。


 リークウェルは理解した。


「地下、か。奴の龍と同じ手を使うつもりだな」


「そーだよ。さっき爆発を起こした時、穴を掘ってムジナを土の下に潜り込ませた。ここの土は柔らかいからな。ムジナの前足でも十分穴を掘って進んで行けるぜ」


 地下ならば、アフディテの目は届かない。故に龍を使ってムジナを狙い打つことも出来ない。


 ノームを狙っていた二匹の龍のうち、一匹がアフディテの近くへ帰って行った。そしてアフディテの上空で体をのけぞらして宙返りし、今度は一直線に地面へ突き刺さった。地へ落ちた龍は、人間が水面を泳ぐかのように地表を泳ぎ始める。身をくねらせ、アフディテの周囲に円を描くように泳ぐ。土壌表面を破壊し、一周したら少しだけ深く潜ってまた回転する。


「……姿が見えないなら、大凡の見当をつけて広範囲に攻撃する。オレだって出来るならそうする」


「ゴチャゴチャつぶやくなよ。大丈夫だ。言っただろ、単純は単純だって。あんだけ大雑把な動きなら余裕で逃げられる。ムジナはかなり敏感だからな」


 瞬く間に龍は土塊を砕き、大地をえぐっていく。アフディテの体を中心に回転したため、その足元の地面はそのまま残っている。結果的に、すり鉢状になった地面の中央に一本の杭が残り、その上にアフディテが立っている光景が出来あがった。


 三匹の龍の役割が決定したらしい。一匹はアフディテを護衛、一匹はノームを攻撃、一匹は地中に隠れたムジナをいぶり出す。


「地面をえぐればえぐる程ムジナの隠れられる場所は少なくなる、てか? 甘いぜお嬢ちゃん!」


 ノームが大声をあげる。アフディテは視線を合わせた。


「オレのムジナは素早いんだぜ! もうすでに……!」


 そこまで言ったとき、アフディテがハッとして杭から飛び降りた。ここに来て初めて見せた、アフディテが活発的な動きだ。直後に護衛役の龍が杭に突進する。土埃すら起こさせない凄まじい破壊力があっという間に杭を消滅させるが、ノームの肉体に影響はなかった。杭の中にムジナは居なかったらしい。


「さ、アンタがムジナを見つけるのが先か、ムジナがたどり着くのが先か。短期決戦だぜ」

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