表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/276

第173話・王と無法者

 ゼブ王サダムに遭遇し、リークウェルが真っ先に考えたことは。


(コイツは……いつからここにいたんだ。オレたちの話をどこまで聞いているんだ)


 仲間と会話をしている間も、リークウェルは周囲への警戒を怠っていなかった。しかし、そんな努力を嘲笑うかのように、サダムはいつの間にかすぐ側にまで接近していた。


 もし、エルナとジェラートが木の上に登るところを見られていたら。最悪だ。そうだったらこの場でサダムを倒さなければならなくなる。フェニックスの力を持った男を、自分と疲弊したユタの二人だけで。もちろん、最終的には倒すべき敵である。だが出会うタイミングが悪すぎた。メンバー全員で対処するか、先に塔のフェニックスの力を手に入れてから挑みたかったというのに。


(どーすんの、リク)


 傍らのユタが小声で尋ねてきた。その丸い瞳に戦闘の意思が宿っていることを確認し、改めてリークウェルは考える。


(ヌルい期待は捨てるべきだな。エルナとジェラートの居場所がバレていると決め付けた方がよさそうだ。……つまり、オレとユタだけがこの場を去ることは出来ない。戦闘を回避するなら四人全員で逃げるしかない)


 だが、それでは塔の頂上にいるフェニックスを奪われてしまう。


(結局、この場でこいつを倒すしかないのか)


 普段の『フラッド』なら、状況を考えるまでもなく邪魔する者は全て排除する。それを可能とする実力差があったからだ。敵が『紋』や策を用いようと、圧倒的な地力の差で押し勝って来れた。


 ウシャス東支部でテンセイと戦った時や、それよりも前、採掘場で初めてテンセイに会った時。リークウェルは自分と同等に戦える人間がいることを知った。そして、今目の前にいる男は地力でリークウェルを上回っている可能性が高い。何しろフェニックスの大半を持つ男なのだから。


(それでも……戦わないという選択肢はありえない)


 ならば迷うことはない。


「やるぞ。ユタ」


「うん」


 ユタはキツネに乗ったまま待機し、リークウェルが単身でサダムに近付いていく。一歩一歩着実に、しっかりと地面を踏みしめながら。肩の力を抜き、極限にまでリラックスさせた状態を保つ。無駄な動作は許されない。最小限のエネルギーで距離を詰め、一瞬で解き放つためだ。


「ほう、向かってくるか。噂に聞いた通りで安心したわ」


 一旦足を止めていたサダムが、再び歩を進めた。リークウェルと同じように、あくまでも自然体を保ちながら。ただし第三者から見れば、その姿はとても自然に保てるような格好ではない。重厚な鎧や小手、足当てなどで武装していることは許容するにしても、剣の構えが異様だ。右手で柄を持ち、刃を天に向けて峰を肩に置いている。こう言うと特別変わったところはないように思えるが、この姿勢が出来ていることがすでにおかしいのである。


 と言うのも、サダムの持つ剣があまりに巨大すぎるからだ。サダム自身も身の丈二メートルを超える巨体なのだが、それをすっぽりと覆い隠してしまえるのではないかと思うほど刀身が広い。鎧具足と違って余計な装飾を一切つけていないことが、かえって純粋な力の結晶であることを示している。


「我が王族に代々伝わる聖剣でな。名を伏鯨(ふくげい)という。余の遥か祖先がこの剣を用い、中央海に住まう凶悪な鯨を仕留めたことが名の由来と言われておる。もっとも余は鯨を斬ったことはないがな」


「御託はいらない。名前で敵が斬れるのなら別だがな」


「フハッ、正論じゃな。だが勿体ない。ぬしはまだ若い。そう事を急ぎたがることもなかろうに。その剣は何という? 見たところなかなか出来の良い輝きを放っておるな」


 リークウェルはチラリと自身のサーベルを見た後、すぐに視線を戻して答えた。


「名前なんて知らない。誰がつくったのかも興味ない。昔どこかの盗賊が持っていたのを奪っただけだ」


「それは残念。確かに名で物を斬ることは出来ぬが、知らぬよりは知っておった方が良い。誇りと自信に繋がるからの」


「御託はいらないと言っただろう」


 思わず語気が強くなった。呼吸のリズムを崩しはしないが、牽制の揺さぶりとしては好手だと感じた。由来だの名前の誇りだの、『フラッド』の嫌いな要素をぶつけてくる。


(口八丁に頼るのは小物だが、こいつは違う。自分の戦闘能力に十分な自信があってその上で言葉の牽制もかけてくる)


 サダムは、口元に笑みを浮かべたままの表情を崩そうとしない。胸を張り、背筋を伸ばし、アゴを引いて力強い目でリークウェルを見据えている。まるで彫刻像に魂を吹き込んだかのような完璧な肉体が、徐々にリークウェルとの距離を縮めてくる。


(勝負を長引かせると厳しくなる。ならば、すれ違い様の一瞬で仕留める)


 サダムの構え方では、攻撃の形は限定される。剣を真上から垂直に落とすか、降り下ろしつつ斜めに払うかだ。おそらく後者でくるだろう。リークウェルは決めた。サダムの一撃をかわし、カウンターで急所を貫く。


(あの大剣だ。奴の身体能力がどれ程のものかはわからないが、同時に動けば必ず振り遅れる。奴は必ずオレよりも一瞬早く動き始めるはずだ。剣の有効射程も奴の方が広く、逆に懐に入られるのは嫌うはずだ)


 素早さならば誰にも劣らないとリークウェルは自負している。同じフェニックスの恩恵を受けたテンセイを相手にしても、純粋なスピードならばわずかに上回っていた。幼少の頃、一発の破壊力ではダグラスに劣るとわかった。故に素早さを特化させるよう修行に打ち込んできた。


(あと六歩、互いに歩いたら奴の射程内になる)


 歩幅と剣の長さから、踏みこんで斬りつけるのに適した距離を計算する。この目も確かだ。


(五、四……三)


 サダムの鎧具足も、少なからず大剣の動きを妨げる要因になるはずだ。


(ニ、一……。射程内ッ!)


 全身の細胞に、闘志のエネルギーを解放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ