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第157話・装甲を破れ!

「驚イタ! 短刀ダケデナク、マントヤ包帯マデ切リ刻ンデイタトハッ!」


 刺客がしゃべる。その口調にはまだ余裕の色があった。


「……やれやれ。どうやらまだ素顔は見られないようだな」


 ふう、とリークウェルの口元に巻いた布から息が漏れた。微塵も気は緩めないが、マントの下に現れた刺客の正体を見てしまった以上、ため息の一つも出るのは仕方のないことだった。


 人。それを平面状に投影したのなら、人の形をしていると言える。しかしながら、実際の像を見ると、とても人とは思えない特徴を持っている。人間という生き物は世界中のあらゆる場所に生息し、様々な人種が存在する。肌が黒い者もいれば白い者もいる。体格の大きな人種、小さな人種もいる。体格の面で言えば、刺客は比較的大柄なタイプである。が、そのようなことは少しも気にならないほどに奇妙な特徴がある。


「ダグ、お前の言ったことが正解みたいだな。機械科学の世界にもサナギ級の科学者がいるようだ」


「そんなん当たっても全ッ然嬉しかねぇよ」


 鋼のような肉体と言えばテンセイがそれに該当するが、この刺客はまさに「鋼の肉体」の持ち主であった。誇張でも隠喩でもなく、文字通り鋼鉄のボディ。全身が鋼鉄の板に覆われており、関節部分も可動式の構造をした金属で覆われている。包帯のとれた後にもそこに普通の人間の顔はなく、頭部全体をすっぽりと覆うヘルメットのようなものに二つの目があいているだけだ。


「ハハ、マントヤ包帯ニ大シタ意味ハナイヨ。タダコノ外見ガ気ニ入ラナイダケサ。戦闘ヲ目的ニ開発シタトハ言エ、アマリニ武骨スギテ格好悪イダロウ?」


「……ふん、その通りだな。鉄の鎧に囲まれてなければ戦場に出られないエセ戦士。醜い」


「オヤオヤ、随分ト口ガ悪イナ。皆ガ皆優秀ナ戦士ト言ウワケデモナイノダヨ。ソレニ、言ッタダロウ? オレハ面倒臭ガリナンダ。オ前モ一度コイツヲ使ッテ見ルトイイ。キット病ミツキニナルゾ。……アア、ト言ッテモコレヲ完璧ニ操レルノハオレダケダガ」


「無駄に耳障りなしゃべり方をするのは趣味か?」


「ハハハ! ソウサ、気分ガ乗ルカラナ」


 刺客が笑う。鉄の表情は少しも変化しないが、肩を軽く揺する姿は笑っているように見える。


「あれ……機械の中に人間がいるわ。人間が機械を身にまとっている」


 リークウェルと刺客からやや離れた位置で、エルナが遠慮がちに口を開いた。


「ごくわずかだけど、人間らしい臭いもする。呼吸のための空気穴がどこかにあって、そこから臭いが出てる」


「空気穴? それの場所はわかるか?」


「ごめんなさい。もしかしたら消臭のフィルターでも使ってるのかも。フーリが嗅覚を集中させてもハッキリとわからない。機械の中に生物がいることは確かなようだけど」


「ま、オレ達の能力が知られてんならそれもありうるな。どっちみち確定してんのはよォー……」


 ダグラスが銃を刺客に向けた。


「リク! お前のサーベルじゃあそいつの装甲は破れねぇ! オレに任せろ!」


 これは実に真っ当な意見である。リークウェルの強さはその素早さに起因するところが大きく、敵の急所を一撃で仕留めることを得意としている。その一方、破壊の威力そのものは決して高くない。無論、高速で剣を振るうことによって加速のエネルギーを上乗せすることは出来るが、鉄を斬る、貫くといったレベルには遠く及ばない。


「オレの爆弾でも完全な破壊は不可能かもしれねぇが、直に衝撃をブチ当てればダメージゼロとはいかねぇぜ」


「ああ……」


 リークウェルはそう言ったきり、何の行動も起こさない。代わりに刺客がまたも機械的な笑い声をあげた。


「ハッハハ。ヤッテ見ルカ、ダグラス。確カニオ前ノ爆弾ヲ喰ラエバ、コノ装甲モ無傷デハ済マナイシオレノ肉体ニモ衝撃ハ伝ワル。ソレガ唯一オレニダメージヲ与エル手段ダ。……タダシ、ソレハ”当タレバ”ノ話ダッ!」


 止まっていた時間が動きだした。ダグラスがトリガーを引くのと、刺客の足が地を離れるのは同時であった。機械で覆われた体はいったい何百キロあるのかわからないが、その重量を少しも感じさせないスピードで刺客が宙へ舞い、低い弾道で飛んでくる爆弾を回避した。


「どうなってんだよそれの構造は! クソ!」


 ダグラスが第二弾を放つ。刺客は地上から木の上へ跳び移るつもりらしく、まだ空中にあった。空中ならば身動きはとれないはずだ。


「カァッ!」


 気合の一声とともに、刺客が左手をダグラスの方へ突き出した。人差し指を真っ直ぐに伸ばして迫りくる爆弾に向け、それと垂直になるよう親指を立てる。それ以外の指は折り曲げている。そう、子どもが拳銃の形をマネてつくる手の形だ。


 冗談のような武器だ。手袋の人差し指の先端が破け、そこから弾丸が飛び出した。しかも狙いは正確だった。


「ぐっ……!」


 指先から放たれた弾丸はダグラスの爆弾に命中した。鼓膜を裂くような破裂音とともに衝撃が拡散し、大気を砕く。想定よりも近い位置で爆発したため、破壊のエネルギーはダグラスたちをも襲う。


「くーちゃん!」


 とっさにユタが風を起こし、熱波と飛沫を弾き返した。だが、風の防御は巻き上げる土埃で一瞬視界を遮ってしまう。


「金属ダカラッテ鈍イト思ウナヨ! ドンナニ射撃ガ精密デモ爆弾ガ標的ヘ到達スルニハ時間差(ラグ)ガ生ジル! 問題ナイ! オレガ優先シテ狙ウベキハ、ソノ小娘ダ!」


 声が聞こえた時には接近されている。ユタの真上、手を伸ばせば届く位置に。


「トッタ!」


「けっ、何度も同じ手をくらうかよ!」


 ここでダグラスが爆弾を放っても銃で相殺出来る。刺客はそのつもりで、ダグラスの銃に周囲しながらユタに掴みかかろうとした。しかし、それだけで始末出来る『フラッド』ではなかった。


「グォッ!?」


 爆炎が広がる。刺客は急激な加速をつけ、地面へ叩きつけられた。


「第三の爆弾! ユタの風は防御するだけじゃあなくて、オレが空に放った爆弾をお前に誘導させていたんだ」


 倒れた刺客へ、第四の無慈悲な轟音が響いた。

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