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第154話・遭遇

 『フラッド』の五人は、少しずつではあるが着実に目標へ近付いていた。『フラッド』にとっては夜間を通しての追跡など他愛もないことである。リークウェルの持つフェニックスの力によってメンバー全員が常人以上の生命力を有しているということもあるが、それだけではなく彼らが長い旅の中で生活していたということも理由の一つだ。


 リークウェルが目を覚ました後、彼らは波の静まった海に船を出し、ウシャス領へ流れついた。サナギ達の手から逃れることが出来たとはいえ、彼らは大人という存在が信用ならないものだということを痛い程に知っていた。そのため仲間以外に誰も信じず、自分たちだけで生きていこうと心に決めた。サナギたちに復讐を果たすためには今の力では不可能だと思い、修行の旅が始まった。ストラ・ドッグのフーリを見つけて仲間にしたのもこの旅の途中のことである。修行のために世界中を旅し、時には軍と戦うこともあった。そうして少しずつ力をつけていったのだ。


「おい、気をつけろ」


 森の中を歩くリークウェルが、後続の仲間に声をかけた。


「どしたの?」


 ユタが尋ねる。すると、フーリが立ち止まって低く唸りはじめた。


「なに? フーリ何か言ってる?」


「……ここから先は危険。トラップが仕掛けてあるみたい。不自然な鉄や火薬のにおいがする……だって」


 エルナが通訳する。エルナは『紋』を持たない人間だが、生物の表情や仕草から感情と意思を読み取ることに秀でていた。表情から感情を読むこと自体は決して特殊な能力ではないが、エルナはそれをかなり高度なレベルで行えるのだ。


「ま、敵がオレ達の追跡に気づいてンだったら、ワナを仕掛けててもおかしくねぇ。むしろ今までなかったのが不思議なぐらいだ」


「ねぇ、なんでリクがフーリより先に気づいたの?」


 ユタの質問にリークウェルが答えた。


「オレが気をつけろといいたのはそれとは違う。オレもトラップの存在は今初めて知った。オレが見つけたのは……この近くに人間が潜んでいる気配だ」


 この言葉で一同の間に戦慄が走った。互いにしか聞こえないほどの小声で素早く状況の確認を始める。


「人数は?」


「たぶん一人だ。フェニックスの力は感じないが……なにか、虫や野生の獣とは違う生命力が近くに潜んでいる」


「位置はわかるか? フーリは?」


「……フーリの鼻には、トラップの臭いしか感じないみたい。その人物のことは全然気づいてない」


「何かしらの手段で臭いを隠しているんだろう。オレも詳しい位置は特定できない。だが、いる。確実に、この近くに何者かが潜んでいる」


 この時にはすでに戦闘態勢に入っている。戦闘能力を持たないジェラートとエルナを中央に囲み、ダグラスは銃を、リークウェルはサーベルを抜く。ユタは風のキツネを召喚した。


「なんでトラップが仕掛けられた場所にまだ人がるんだ? まさか、仕掛けた張本人がオレたちがくるまでに逃げ切れなかっただなんて間抜けな話はねぇだろうな」


「オレたちが罠にかかった瞬間に追撃を喰らわすため、そう読むのが妥当だな。エルナ、トラップの正確な位置はわかるか? それを無力化して進もう」


 敵の潜伏場所が特定できない以上、無理してそいつを攻撃しようとするのは愚行だ。隠れ潜んでいるぐらいだから、一人で真正面から『フラッド』と戦う自信はないのだろう。ならば無視しても構わない。仮にそいつが攻撃してきても簡単に退けられる。それが『フラッド』の思考だった。


「ユタ、防御は任せたぞ」


「あい」


 トラップの場所なら特定できる。まずはこちらを優先して対処することにした。


「私たちの進行方向上に、地雷が七つ。それからワイヤーに足を引っかけて石を落下させるタイプのものが四つ。これが確実に存在するもの。他にもいくつか種類があるみたいだけど細かくは判別できない。でも位置は固まってるから、正面にまっすぐに撃ち込んでいいわ」


「よしっ!」


 ダグラスが銃を構える。この爆弾銃は、ある程度の範囲を集中的に攻撃するのにこの上ない兵器。ダグラスはそれを軽々と扱うことが出来る。


 トリガーを引き、爆弾を発射する。エルナの指示したとおり、進行方向へまっすぐに撃った。爆弾が木に命中し、内部の破壊エネルギーをぶちまけた。と、爆弾の命中した木の根元からも小さな爆発が起こった。爆発に巻き込まれた地雷が誘爆したらしい。


 さらに数発の爆弾を発射する。


「あり? そういや爆弾とか風とか使ったらマズいんじゃないの? 臭いが飛んでいっちゃうんじゃない?」


 ユタが言った時には遅かった。爆弾は木や地面に次々と命中し、爆発を繰り返している。


「ちょっ、どうすんのコレ! ねぇ、せっかくあたしが気づいたのにさぁ〜!」


「お前以外全員気づいていた。そして問題ない。いいから防御に集中しろ」


「へ?」


 爆発で起こった粉じんの中から、何かが『フラッド』めがけて飛んできた。それは鋭く砥がれた刃物であった。幾本ものナイフや包丁が、ダーツの矢のごとく飛んでくる。


「後で説明する。今は防御しろ」


「う〜、ちゃんと教えてよね」


 リークウェルに言われ、ユタは風を起こした。突風が向かってくる刃物を襲い、地面へ叩きつける。


「まだ来るぞ。どうやら敵は、オレたちが爆弾を使うことまで予測してトラップを仕掛けていたようだ。爆発のエネルギーを利用して刃物を飛ばすトラップがあるな」


 リークウェルの言葉通り、第二、第三の刃物群が飛びかかって来た。ユタの風はそれらを一つ残らず叩き落としていく。


「いくら数が来ても無駄だよねぇ。どうせいつかは弾切れになるんだから」


 ユタが風を繰りながら得意気に言った。その瞬間、リークウェルとダグラスが同時に動いた。


「気をつけろユタ! 真上だ!」


 言葉よりも速く、一同のそばにある樹の上から人影が落ちてきた。その人物は麻の布ですっぽりと全身を覆っており、顔にもぐるぐると包帯を巻きつけていた。


 布の下から短刀を握った腕が現れる。そして、前方の防御に集中していたユタの脳天めがけて刃が振り下ろされた。

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