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第151話・力を求めて

「リクが寝てる間に光が広がって、空の雲を吹き飛ばしたんだ。で、波もいきなり静かになったの」


「その代わりユタがうるさくなったな。リクが死んじゃう! 死んじゃやだ! とかピーピー叫んでよ」


「……忘れろっ」


 ユタが再度頬をふくらませ、一向の間にかすかな笑みがこぼれた。


「だってさ、リクの顔についた『紋』、メチャクチャ熱かったもん。なんかジュージュー焼きついててさ……」


「そうだったな。ユタだけじゃなくてオレ達全員、どうしたらいいかわからなかった」


 ダグラスがため息まじりに言うと、先頭を歩くリークウェルが少しだけ肩を落とした。


「迷惑をかけたな」


「そんな事ないよっ! リクは小さい頃、いっつもあたしの面倒見てくれたし……」


「今もだろ」


「ダグは余計な事言わないの!」


 またも小さな笑いが起きる。決戦を目の前にした行軍の中で、せめてもの安らぎであった。


「不死鳥フェニックス。そんなものが本当にいるわけないって、思っていたけれど。あんな不思議なことが起きるのね……」


 エルナも遠い場所を見るような目で言った。


「今この時も雲に覆われている空が、あの時だけは晴れた。……ガキの頃にあんな奇跡見せられたおかげで、多少の事じゃあ動じなくなっちまったよな、オレ達」


「その奇跡の力がリクに宿ったんだもん。この力、絶対にサナギたちに与えちゃだめだよね」


「ああ。どんな手段を使ってでも、あの男からフェニックスの力を奪う。ウシャスの支部で見つけたコサメとかいう奴の力もな」


 決意を胸に、『フラッド』は歩く。彼らがこの島を訪れた目的は三つ。『あの男』からフェニックスの力を奪い、サナギとサナミに復讐を果たすこと。おそらく同じようにこの島へ来るであろうコサメからも力を奪うこと。


 そして、この島のどこかに眠る最後の力を手に入れること。





「もう一人……? どういうことだ」


 ウシャス軍船の操舵室内に、再び疑問の符が浮かんだ。発言したのはクドゥルだ。


「フェニックスの力が分散し、コサメの体にその一部が宿った。同じように『フラッド』のリーダーもまた力を持っている。ここまでは私も実際にその力を目の当たりにして理解できる。そしておそらく、ベールの兄である魂を操る『紋付き』が、フェニックスの力の大部分を所有している」


 それも理解はできる。産まれたばかりのコサメや、当時まだ少年だったリークウェルが力を得たのだ。フェニックスを追い詰めた張本人であるベールの兄が、何の力も得ていないはずがない。断罪の光を放つ前の段階でフェニックスは相当弱まっていた。あの男がフェニックスの大部分を吸収したと見るのは当然である。


「だが、もう一人とはどういうことだ。他にもフェニックスの力を持った人間がいるとでも言うのか?」


「そうだ。これは推測なんかじゃなく、事実だ。コサメ自身がその存在を感じているらしい」


 フェニックスの力は互いに共鳴する。テンセイでさえもつい最近になって初めて知った習性である。


「このことに気づいたのは、オレとノーム、コサメがゼブから脱出してウシャスへ帰る途中だった。船で海を渡っている間、コサメはずっと南の方を見ていた。水平線以外に何も見えない南の海を、まるで何かを探してるみたいに見つめていた。コサメに聞いてもハッキリしたことは何も言わなかったが……」


「おい、たったそれだけか? 他に根拠はないのか」


「それだけで十分なんだ。……ゼブに連れていかれた時、コサメはあの男に出会っている。その時にフェニックスの力が共鳴することを知ったんだ」


 東支部で『フラッド』と戦った際、コサメとリークウェルは互いの中に眠る力を感じあっていた。フェニックスの力が共鳴することはこの件で証明されている。


「あの島に、まだ少しだけフェニックスの力が残っているとオレは考えた。島から逃げだす前にオレが見落としたものが、きっとある。だからラクラ隊長に頼んであの島へ向かわせてもらってる」


「もう一人、フェニックスの力を持った人間がいる……? バカな、さっきのお前の話だと、あの島にいた人間はみんな死んだのだろう。生き残っている者はみな島を出ていき、そのうちフェニックスの力を持っている者はすでに特定されている」


「……心当たりがある」


 テンセイはそこで言葉を止めた。


 それは誰だ? とクドゥルが言う前に、ノームが口を挟んだ。


「それにしても、惜しいよなぁ。ゼブの中にいるフェニックスの力を持った男って、オレたちも会ってるはずなんだよな。ゼブの城で王に謁見したとき、間違いなくあの場にそいつがいたはずだ。あの時コサメが何か言ってくれれば、それが誰かわかったのかもしれねぇのに」


「共鳴を感じてはいたが、あの重圧の中だ。しかも向こうの方が持っている力が強い。コサメが圧倒されて何も言えなくなるのは仕方ねぇ。……オレがあいつの顔を知っていればよかったんだが……」


 サナギとサナミはフェニックスの存在を知っていた。そして、テンセイやコサメのことも知っていた。だがあの二人がフェニックスの力を持っているような気配を、コサメは感じていない。つまり、フェニックスの力を得た男とサナギは別人。ならば何故サナギがフェニックスやテンセイのことを知っていたのか。答えは一つしかない。サナギとあの男が手を組んでいるということだ。


「あの男……ベールの兄は、ゼブ国内の人間だ。それもかなり高い位についている。そうでなければ、コサメからフェニックスの力を奪うためにウシャスへ使節団を送ったりなんか出来ないはずだからな。少なくともある程度はゼブ軍を操作できる地位であることには違いない」


 謁見の間にいた人物の顔を、可能な限り思い起こす。王サダム、サナミ、五人の将軍……。テンセイが覚えているのはそれぐらいだった。


「敵がフェニックスの力を持っている以上、こちらも今の力だけでは勝てない。だが、あの島に残された力を手に入れれば……」


 勝機はそれしかない。そのためにテンセイは島へ向かい、ゼブはそれを阻止すべく動いていたのだ。

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