第13話・発覚
ラクラの放った光弾が、テンセイの胸ポケットを貫く。
「ちょっ……隊長! 後で治療できるからってやりすぎっしょ……」
思わずレンが声をかける。が、叫んだ直後に自分の目を疑った。テンセイは倒れるどころか、逆に前に向かって走り出したのだ。
「何だァ……!? はッ! そういや弾丸が貫通してねぇ!」
(まさかーー!)
ラクラはとっさに逃げようとする。しかし、テンセイの方が速い。 固く握った右拳がラクラの左手を襲い、最後の銃を弾き飛ばしたのだ。
「ツゥ……!」
しかし、ラクラもただ者ではない。足を上げてテンセイの肩を蹴り、花びらが舞うかのごとく空を滑って弾かれた銃を拾いに行く。
「詰めが甘いですよ!」
地面に倒れ込みながら銃を掴み、テンセイに向ける。当然テンセイは眼前まで迫っている。引き金が速いか、拳が速いかの勝負だ。
が、それらよりも声の方が速かった。
「それまでッ! 試験終了!」
レンの右手があがっている。それを確認したラクラは銃をしまい、テンセイも拳を止めた。
「隊長、もういいっしょ。合格点はとっくにクリアしてんだから」
レンにそう言われ、ラクラの表情はようやく落ち着いた笑みに戻った。
「……ええ。これ以上の戦闘は必要ないようですね」
「じゃあ、コレはもう返していいな」
テンセイが上着の内側に手を突っ込み、内ポケットから白い物体を取り出す。
それを見たレンがまたも声を張り上げる。
「あ! それさっき奪った隊長の銃じゃねーか! いつの間にか手に持ってないと思ったら……」
「内ポケットに入れといた。この銃が光を吸収して発射するんならよ、その発射した光をもう一度吸収出来るんじゃねーかと思ったんだ」
銃を投げ返す。受け取ったラクラは驚嘆の面持ちで、テンセイに問う。
「そう考えたのなら、何故わざわざ上着に入れたのです? 手に持っていた方が防ぎやすいのでは……」
「ん〜……。何つーか、ココを狙ってくるよーな気がしたんだよな。直感で」
「は……? 直感って、ンなもんで防いだのかよ」
と、その時である。
「テンセイ! だいじょうぶ!?」
殺伐した訓練所にそぐわない、幼い声が響いた。続いて男の声。
「おいコサメ! 勝手に出て行くな!」
ノームとコサメだ。詰め所に待機していた二人が、中庭に飛び出して来たのだ。
「今、うたれなかった? わッ! 血が出てる」
「勝手に出たらマズいってば」
二人は建物の窓からテンセイの勝負を見守っており、心配になったコサメが飛び出してしまったのだ。
「あしとかおなかとかから血が出てるよ!」
「ハハ。こんなんツバつけて肉食って寝ればすぐ治る」
「いや、普通は治らねぇから、それだけじゃ」
レンが割って入る。
「隊長、こいつひとまず医療班に渡して来ま……隊長?」
見ると、ラクラの表情が固まっている。その視線はコサメに注がれていた。
「隊長? この子がどーかしたんスか?」
レンの声など耳に入らぬかのようにコサメの顔を見つめている。視線に気付いたコサメがラクラの方を向き、しばし二人の目が合う。
「なに?」
「だから、オレたちが勝手に中庭に来たから怒ってんだよ。機嫌損ねて落とされたらシャレにならないから早く戻ろうぜ」
ノームがコサメの手を引き、詰め所に連れて帰ろうとする。
すると、ラクラの固い口元がほころんだ。心なしか目元まで緩んでいるようにも見える。
「かッ……」
「か?」
「かわいい……」
ハッキリとわかるほど目じりが下がり、頬に赤みがさしている。完全に『惚れた』顔だ。つい先ほど銃を持って闘っていた人物と同一だとは思えない。
「あ……あの、コサメさん、とおっしゃるんですか? テンセイさんの、その……」
「家族です。血はつながってないけど」
「え? それではこの子の両親は」
「いないの」
コサメが答える。すると、今度は目に涙が浮かび始めた。
「まぁ、ご両親が……それは悪いことをお聞きしましたわ……。それでは今はテンセイさんとご一緒に暮らしてますの?」
「うん。あ、あとノームも」
「ついでみたいに言わないでくれや」
ノームがつっこみを入れるが、誰も聞いていない。テンセイとレンも含めた男三人は完全に蚊帳の外である。ラクラはコサメに夢中だ。
「ああ、こんないたいげで可愛い子が、ガサツな男二人とともに旅だなんて……。さぞつらかったでしょう」
「たのしかったけど」
「でも、これからは大丈夫です! 私がここでゆったりとした生活を保障しますわッ!」
「あのー、隊長……」
レンがラクラの肩を叩き、なんとか話題を戻そうとする。
「もう一人の試験が残ってるんスけど」
「あら、そうでしたね。確か『紋付き』でしたか」
「そーッス」
やっと出番がきたか、とノームははりきる。ところが……。
「『紋付き』だったら合格でいいです。そんなことより早くコサメさんのお部屋を確保しなければ」
「いいのかよ!」
「ちょッ隊長ー! あまりにもテキトーでしょ!」
当然、その声は届かない。
「テンセイさんを救護室へお連れして。私も後で参りますわ」
そう言い残してラクラは去っていった。後に残された一同はポカンと立ち尽くし、やがて気が抜けたようにノロノロと動き出した。
「あー、じゃあテンセイ君はとりあえず救護室へ。そこの二人も」
「おう。ってか、本当にノームの試験しなくていいのか?」
「いや、本当は『紋』があってもちゃんと試験しなきゃならねぇんだけど」
「オレの試験……」
実力を示せなくて落ち込むべきなのか、楽に合格できて喜ぶべきなのかもわからず、ノームは呆けている。
「なんか、あの人おもしろい」
コサメ一人が、ノン気にはしゃいでいた。