第12話・貫く光
(はァ〜……。隊長、ちょっと押されてんじゃん。あいつ体がデカいだけじゃなくて反応も早ぇな……)
審判役を務めている軍人、レン・イールは、驚嘆の表情で二人の戦いを見守っている。
(どーいう鍛え方すりゃああんな体になるんだ? こんなヤツが田舎にいたのかよ……ウチの一般兵より遥かに強いぜ)
ほぼ同じ意見を、ラクラも持ち始めていた。『紋』の力は抑えてあるとはいえ、少なくとも体術に限っては本気を出している。ラクラの体術は剣を持った兵士数十人でも適わないレベルだ。それがほとんど通用しない。
(ケドよ……。あの野郎、なんでパンチや蹴りを使わねぇんだ? さっきから隊長の腕を掴もうとしてばかりいやがる……。女は傷つけない主義とかか?)
テンセイのスピードは十分ラクラについていけている。蹴りを使えば(直撃はしないだろうが)衝撃を与えて体勢を崩すことが出来たであろう場面も多々あった。だが、テンセイはそれをしない。
「フェミニストを気取っているおつもりですか? 私が女性とはいえ、真剣に闘っている相手に対して手を抜くことは無礼ですよ!」
ラクラが至近距離から左手の銃を投げつける。今のテンセイなら軽々とそれを腕で弾くことが出来るだろう。あるいは、先ほどのようにわざと額で受けるかもしれない。だが、どっちにしても一瞬視界が閉ざされる。その隙に右手で打撃を与える作戦だ。
が、それも読まれていた。テンセイはなんと、歯で銃を止めたのだ。銃身の部分をしっかりと噛んで受け止めている。そして続く打撃も防いだ。投げのモーションが小さいだけに速度も威力も低く、それゆえに出来た芸当だろう。
「手ェ抜いてるのはアンタだろ?」
銃を口から放し、手に取る。結果的に相手の武器を奪うことに成功している。
「殴り合い、とっ組み合い……。そういうケンカや格闘技の真似事はガキの頃からよくやってたし、好きだった。成長していくにつれて誰も相手にしてくれなくなったんだが、小さいうちはみんな勝ったり負けたりだった」
(ん? なに急に語り出してんだ?)
レンはいぶかしげるが、ラクラは黙って聞いている。
「オレも、何度も負けて悔しい思いをした。時には勝敗に納得がいかなくて怒ったりもした。けどよ……。一番ムカつくのは、相手に手ェ抜いて勝負されることだ」
「……」
「成り行きのケンカならともかく、正面きって勝負するときは全力でやるのが礼儀だ。アンタもさっきそう言ったくせして手を抜いてる」
「あ、あなたも手加減しているでしょう!? 本気で殴りにかかってるとは思えませんよ!?」
「そっちが先に手抜きしたから、お返し」
「なッ……」
冷静なラクラの表情が乱れる。逆にテンセイの方が余裕ありそうに奪った銃をいじっている。
(おいおい、ムチャクチャな理論だな……)
レンも驚きを通り越して呆れている。
とはいえ、流れは確実にテンセイにある。このままではラクラに勝ち目がないことは確かだ。
「……失礼いたしました。テンセイさん」
(お、隊長が折れた)
「私、いささか高慢になっていたようですね……。正直言って、あなたを見下していましたわ」
「そうかい……ん?」
銃をいじっていたテンセイが奇妙なことに気付いた。火器にはあまり詳しくないが、銃は弾丸を込めなければ意味が無いということぐらい知っている。
だが、今手にしている銃には弾倉がなかった。本来なら弾倉が存在しているべき場所に、四角い箱状の物体がついているだけだ。
「何だこりゃ……」
「テンセイさん。あなたの実力に敬意を表し、私の『本気』を見せてさしあげましょう」
ラクラがゆっくりと銃口をテンセイに向ける。その銃にも弾倉はない。テンセイにはまだラクラの能力がわかっていないが、少なくとも飛んでくるのが普通の弾丸ではないということは直感で理解した。
(――マズイッ!)
とっさに左へ跳ぶ。が、遅かった。
銃口から発せられたのは弾丸ではない。光だ。半透明の銃が受けた太陽光を一点に凝縮し、熱と質量を伴いながら発射されたのだ。
光の弾丸はテンセイのわき腹をかすめ、数メートル後ろの塀に直撃した。都合の悪いことに、弾丸がかすめたのは、先日海賊の操る蛇に咬まれたのと同じ場所だった。強靭な回復力によって直りかけていた傷が開き、血が滴り流れる。
(傷跡が焼き焦げてやがる。しかも、何だァ? 弾丸の当たった鉄の塀に穴が空いてやがる。まともに喰らったら人体などあっさりと貫通しちまうぜ)
テンセイは奪った銃をラクラに向ける。が、なぜかトリガーが動かない。
「この銃は私にしか使えませんよ。それと、我が軍には優秀な医療チームが存在しますので負傷を気にする必要はありません」
今度は2発続けてトリガーを引く。両足を狙った弾道だ。発射と同時にテンセイはジャンプし、かわそうとするが、光の速さにはついていけない。右の太ももと左すねを撃たれた。
「あヅッ……!」
(おいおい隊長、防具もつけてない相手にバシバシ撃ちまくらないでくださいよ……。ってかコイツが防具つけてない方がおかしいのか。まぁ、隊長の銃は至近距離だと鉄板も撃ち抜けるけどな)
レンの考えなどよそに、ラクラは距離を取りながら撃ち続ける。テンセイは必死にかわすものの、少しずつ肉体を削り取られていく。
「本気を出せと言ったのはお互い様でしょう。あなたの本気はまだですか?」
銃を片方奪えていたことが唯一の救いだ。この銃撃を二丁同時に行われたら全く勝負にならなかった。
テンセイはかろうじて耐えている。そして、考えていた。
(あの銃は……光を吸収して発射するのか。晴れた真っ昼間じゃあ弾切れナシで打ち放題ってわけだな)
銃器類の短所は、弾丸を込めなおす際に隙が出来ることである。だが、弾切れのないラクラの銃はその欠点を克服している。
(たぶん自動で光を吸収してんだろーな。特別な動作もなしですぐに次の弾が補充されやがる。……ん? 吸収……?)
ラクラとテンセイの距離は5メートル。傷を負っているとはいえ、次の一撃をしのげば一瞬で間合いを詰められる距離だ。しかし、距離が近ければ敵の命中精度もあがる。
「とどめですッ!」
最後の一発が放たれる。狙いはテンセイの胸部だ。至近距離。かわせない。
(決まったな……)
テンセイの上着、胸ポケットの辺りを光が貫いた。