第10話・入隊試験
「オレたちの村を襲ったヤツら……誰か『アイツを探せ』とか言ってやがった。多分何か……いや、誰かを探しに来たんだろう」
「心当たりは?」
ノームが尋ねる。
「ない。……強いて言うなら……」
と、テンセイはコサメに視線を送る。が、当のコサメは道路を走る物体に夢中だった。
「なにあれ! てつがはしってる!」
「あれは自動車だ。そういや村には一台もなかったな」
「なぁオッサン、ちょっと小腹が空かねぇか?」
東大陸の主要国家ウシャス――王都の名も同じくウシャス。王制をとってはいるが独裁的なものではなく、国民の生活レベルはそこそこ高く安定している。無論、広い領土の全てがそうではないが。
「そう言われれば腹が減ってきたような気もするが……金がねぇしな」
「メシぐらいなら奢ってやるよ。……あ、いや盗んだブツを売った金でだけどさ。バクスからの餞別ってことで……ね?」
「……別にいーよ、もう」
王都は広い。船が上陸した西海岸から大陸の中央にそびえる山のふもとまでの数百キロメートルに渡ってが「都」として整備され、高度な文明を築いている。
「ところで嬢ちゃん……コサメも『紋付き』なんだって?」
「うん。そーだよ」
コサメは髪をかきあげ、ノームに『紋』を見せる。
「どんな能力なんだ?」
「わかんない」
「へ? 『紋』の能力は本能的に理解できるんだろ? オレもそうだったぞ」
「コサメはまだ一度も能力が発現してないんだ。まァ、まだ6歳だからこれからわかるのかもしれねぇけどよ」
「ふ〜ん……」
軍本部は、港から車で半日ほど走ったところにある。テンセイたちが船を下りたのは夕方であり、また、車を借りる余裕もないため、途中で安い宿で一泊することにした。
「野宿でもよかったんだけどな」
「都の中には野がないぜ、オッサン」
「みやこじゅくだ!」
「普通に宿で十分だな」
バカなことを言っている。
借りた宿はベッドが二つあるだけの質素な部屋だったが、贅沢は言っていられない。
「オッサン。軍に入るんだったら、それなりに予備知識が必要だろ? オレが知ってる限りでよければ教えてやるよ」
「ああ頼む。オレァめったに大陸に来ないからよく知らねぇんだ」
体が大きくベッドに入りきらないテンセイが床に寝転がり、コサメが片方のベッドを独占し、もう片方のベッドの上にノームがあぐらをかく。
「軍は国家機関の一部だ。軍の一番上に政府から派遣された役人がいて、その下に幹部が三人いる。この幹部は兵士から出世してきた人間がなれる。そこがオレの最終目標だな」
「ほう、幹部狙いか」
「幹部の人数は三人で固定されていて、一人が本部に残り、もう二人が支部を見回っている。そして……ここからが重要だぜ。軍に入るためには、三人の幹部の内、誰か一人からの推薦が必要なんだ。オレたちが向かうのは本部だから、そこの幹部に推薦してもらうことになる」
「推薦ってのはどうすりゃもらえるんだ?」
「ズバリ、単純だぜ。その幹部の目の前で実力と誠意を見せればいいのさ。申し込めばすぐにテストをしてくれる。腕のある者は身分を問わず採用するって主義らしい。その代り合格点はかなり高いけどな」
「なるほどな……そのテストに受かればいいわけか。で、そのテストってのは当然……」
「軍隊だからな。戦闘能力の試験ってことだろ。『紋付き』は例外だけどな」
大砲や銃などの兵器が発達していれば、個々の能力差は無意味――そう考える者も多い。だが、兵器を用いるのは敵軍(敵がいると仮定した場合だが)も同じ。兵器同士の戦いでは一般人までも巻き込んでしまう。そうなると、可能な限り大規模な戦いを避け、戦闘能力の高い精鋭部隊による戦闘を行ったほうが互いにとって益である。兵器で壊滅させた都市を乗っ取ってもどうしようもないからだ。
「今本部に残ってる幹部は、ラクラ・トゥエムっていう女幹部だ」
「ほう」
「22、3歳ぐらいだったっけな。前に見たことあるけどけっこうな美人で、スタイルもよかったな、うん」
「そこはどうでもいい」
「部下になる男にとっては大事だろ」
ノームが目を細めて笑うが、テンセイは相手にしなかった。コサメにいたってはすでに寝入っていた。
そして翌日。一行は徒歩で本部へたどり着いた。
主要国家の軍本部ともなると、その施設はかなりの広域を占めている。外からの視界と侵入を阻む高い塀が、地平線の果てまで続いて見える。
「入隊試験を受けたい。幹部に取り次いでくれ」
門兵にそう伝えると、中庭の訓練所に通された。あまりにアッサリとした対応に少々拍子抜けする。
「こんな簡単に幹部に会えるのかよ」
「軍に入隊したがるヤツは多いからな。テストも事務的になってんじゃねーの?」
訓練所もまた広く、本部の建物と塀に囲まれていること以外はなんの障害物もない開けた場所である。
「まもなく、軍三幹部にして我が隊の隊長・ラクラ様がお見になる。入隊試験はラクラ様の指示に従え」
「わかった……わかりました」
ノームが言う通り、事務的にことが進んでいく。
「おっ、来たぜ来たぜ〜、美人幹部さま」
ノームの軽口と同時に、本部と中庭を繋ぐ扉がゆっくりと開かれた。