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高級メロン姫

作者: 猫山つつじ

 むかし、あるところに、お金持ちのおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日ふたりは、川床料理に行きました。

 食事を楽しんでいると、川上から、網目模様のついた大きなマクワウリが流れてきました。

 おじいさんは言いました。

「これは、西洋のマクワウリ、メロンというものに違いない。きっと高く売れるぞ」

 おばあさんは返しました。

「あら、そんな珍しいものなら、私たちで食べましょうよ」

 ふたりはメロンを家に持って帰りました。


「これはきっと高級品だぞ。一切れずつ食べて、残りはすぐに市場で売ろう」

「どんな味か楽しみですね。では、さっそく切ってみましょう」

 おばあさんが包丁を当てようとしたそのとき、

「おぎゃあ!」

 大きな声とともにメロンが割れて、元気な女の赤ちゃんが飛び出しました。

「この子はきっと、子のないわしらに神様が遣わして下さったに違いない」

 ふたりは、赤ちゃんにメロン姫と名付けて大切に育てました。


 メロン姫はすくすくと成長して、やがてやんちゃでたくましい女の子になりました。

 ある日、メロン姫は言いました。

「わたし、怪獣島に怪獣退治に行ってきます」

 おじいさんとおばあさんはびっくりしました。

「なんてことを言うんだい」

「わたし、わくわくするような冒険がしたいの」

 大人たちはいつも怪獣退治の話をしていました。怪獣島の怪獣を退治して、財宝を手に入れようというのです。でも怖がって、本当に行こうとする人は誰もいません。

「私は神様の子だから、きっと大丈夫よ。怪獣なんか、絶対にやっつけてやるわ」

 メロン姫の決心が固いので、おじいさんとおばあさんは、メロン姫を怪獣退治に送り出すことにました。

「一番高い刀を買ってきたから、持って行きなさい。それから、特別に作らせた魔物封じの金剛石の首飾り、これもずいぶん高かったんだが、掛けて行きなさい」

「お前の好きなマロン…なんて言ったかね。栗の砂糖漬けを作ったよ。わざわざ取り寄せた丹波栗で作ったんだよ。持ってお行き」

 メロン姫は、意気高く村を出発しました。


 メロン姫が歩いていくと、灰色の絹のような毛並みの猫に出会いました。

「わたし、北の国から来た猫。とっても高いのよ。ところで、それなあに?」

 メロン姫の腰に着けた袋を見て、猫はたずねました。

 メロン姫は答えました。

「わたしはメロン姫。これは、マロングラッセよ」

「なにそれ、おいしいの?」

「すごくおいしいわよ。わたし、今から怪獣退治に行くの。家来になるなら分けてあげるわよ」

「家来にはならないけど、もらってあげる。ひまだから、いっしょに行ってあげるわよ」

 メロン姫と猫はいっしょに歩きはじめました。


 しばらくすると、茶色い体に白い手の、尻尾のない猿に出会いました

「わたし、南の国から来た猿。とっても高いのよ。ところで、それなあに?」

 メロン姫の腰に着けた袋を見て、猿はたずねました。

 メロン姫は答えました。

「わたしはメロン姫。これは、マロングラッセよ」

「あ、それ知ってる。おいしいのよね」

「ええ、すごくおいしいわ。わたし、今から怪獣退治に行くの。家来になるなら分けてあげるわよ」

「家来にはならないけど、もらってあげる。ひまだから、いっしょに行ってあげるわよ」

 メロン姫と猫と猿はいっしょに歩きだしました。


 またしばらくすると、高い木の上から、尾羽のものすごく長い鶏が声を掛けて来ました。

「僕、土佐の尾長鶏。とっても高いんだよ。ところで、それはなに?」

 メロン姫の腰に着けた袋を見て、尾長鶏はたずねました。

 メロン姫は答えました。

「わたしはメロン姫。これは、マロングラッセよ」

「そうなんだ。君の手作りかい?」

「いいえ、おばあさんが作ってくれたの。すごくおいしいわよ。わたし、今から怪獣退治に行くから、家来になるなら分けてあげるわよ」

「家来にはならないけど、もらってあげる。ひまだから、いっしょに行ってあげるよ」

 メロン姫と猫と猿と尾長鶏はいっしょに歩きだしました。


 メロン姫は猫と猿と尾長鶏を引き連れて、怪獣島に乗り込みました。

 尾長鶏が砂浜に進み出て、メロン姫と猫と猿が岩陰に隠れました。

「こけこっこー!やーい、弱虫怪獣!いくじなしの、ばか者め。くやしかったらかかってこーい!」

 尾長鶏は大声で叫びました。

 すると森の奥からどしどしと足音を立てて、大きなトカゲのような怪獣が現れました。

「悪口を言ったのは、あんたね」

 怪獣は尾長鶏を追いかけましたが、砂に足を取られて、捕まえることができません。

 尾長鶏は怪獣のまわりを走り回って、尾羽で怪獣をぐるぐる巻きにしました。猫と猿は岩陰から走り出ると、飛びかかってばりばりと引っ掻きました。

「痛い、痛い、やめて!」

 そこにメロン姫が進み出て、怪獣に刀を突き付けました。

 あまりの恐ろしさに、怪獣の尻尾はひとりでにちぎれてしまいました。


「どう?降参する?」

 メロン姫は怪獣に言いました。

 怪獣はぶるぶるふるえて言いました。

「降参する。命だけは助けて」

「これに懲りて、人間に悪さはしないことね」

 メロン姫は怪獣に言いました。

「え…?」

 怪獣はきょとんとして言いました。

「人間に悪さ?何もしていないけど…」

「え…?」

 今度はメロン姫がきょとんとする番でした。そういえば、怪獣が人間に悪さをしたとは、誰も言っていませんでした。

「でも、財宝を隠してるんでしょ」

「財宝なら、私が留守にしている間に海賊が上陸して、私の住みかとは知らずに洞窟に隠したのよ。私が戻ってきたら怖がって、二度と取りに来ないの」


 どうやら、何も悪くない怪獣を、退治しようとしていたようなのです。

 メロン姫は、自分のしたことが恥ずかしくなりました。

 メロン姫と猫と猿と尾長鶏は、怪獣に謝りました。

「本当にごめんなさい。大事な尻尾も、ちぎれてしまって…」

「大丈夫よ。これは、また生えてくるんだから。それに、財宝は私のじゃないから、好きなだけ持って帰ったら?」

 責めることもなく言ってくれる怪獣に、メロン姫はますます恥ずかしくなりました。

「財宝なんて、とんでもない。そんなのを持って帰ったら、いずれ欲深で向こう見ずな人間が、もっとあるだろうと思ってやって来るわ」

「じゃあ、これだけは持って帰ってね」

 怪獣はメロン姫にちぎれた尻尾を持たせました。

「私を倒した証拠よ。これがあれば、大きな顔をして帰れるでしょう?」

「わかったわ。これは、ごめんなさいとありがとうの気持ちよ」

 メロン姫は、金剛石の首飾りを怪獣に贈りました。


 メロン姫は怪獣の尻尾をお土産に、元気に家に帰ってきました。

「おお、メロン姫!」

 おじいさんとおばあさんはメロン姫の無事を喜びました。

 メロン姫は言いました。

「怪獣は、近づくものはすべて呪ってやると言い残して、死んでしまったの。死体はいちおう、魔物封じの首飾りと一緒に埋めてきたけれど」

「え?首飾り、とても高かったのに…。でもまあ、お前が無事でほんとに良かったよ」

 そのあと、おじいさんとおばあさんは、残念そうに言いました。

「財宝は、なかったんだね…」


 メロン姫はその夜から何日も、頭が痛いお腹が痛いと言ってうなされ続けました。医者が診ても、さっぱり原因がわかりません。

 陰陽師を呼んで聞いたところ、怪獣の呪いだとのことでした。尻尾にまでも、呪いの力が宿っているというのです。

 おじいさんとおばあさんは、怪獣の尻尾を土に埋めて、陰陽師にたくさんのお金を払って特別に強い結界をつくってもらいました。するとようやくメロン姫は元気になりました。

 財宝もなく、呪いの怪獣が埋められているという怪獣島に、その後だれも行こうとはしませんでした。


 緑に包まれた誰も近づかないその島で、怪獣は今も平和に暮らしているのかもしれません。

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