251話 来客者その3①
来訪者その3
クラーク村一団は往路で我が家を宿屋として利用してもらい、復路でも利用してくれた。
ありがたいことにお土産として、ヤギのバターやチーズを沢山持ってきてくれた。
ドルゼ村のペッガ村長からは「私たちも寄らせてもらうよ」とのことだ。
その前金では無いが、食材をくれるのだからありがたい。
今のところクラーク村とドルゼ村を繋ぐだけの中継地点だが、それだけでも十分価値があるんじゃないだろうか。
さて……クラーク村御一行のおもてなしが終わったので、時間が出来た。
時間が出来たからケーキを焼くのだ。
「ふおお~」
オーブンが素晴らしすぎる。
よく聞く話だが、オーブンってのはクセがある。
手前側が火が通りやすいとか、奥側でも右のほうが火力が強いとか。
オーブンのクセをしっかり把握していないと焼き場は任せられませんよ。ねえ奥さん。
とまあ、どこかで聞いたような蘊蓄を披露したが、
このオーブン温度の安定感が半端ないのだ。
温度も上がりやすいし、温度キープもしやすい。
クラーク村のオーブンも良かったが、ワンランク洗練された感じだ。
ケーキを焼いていると、どこからともなく設楽ちゃんとエリッタさんがやってくる。
出来立てが食べたいのだ。その気持ちはよくわかる。
出来立ては二割増しで美味しいからね。
**
さて宿場町に出発だ。宿場町といっても王都側の宿場町である。
勿論シェルナイドさんのところに行くのだ。だが今日は……手ぶらだ!
ケーキは持って行かないのだ。あえてね!
アッシュもピコも連れて行っていない。完全な一人旅。
犬の集落が近くなったので、先に立ち寄ってピーナッツを少しばかり頂く。
クラーク村でもヨドさんがピーナッツを栽培してくれているが、
設楽ちゃんに渡して調べてもらった結果、やはり犬の集落のピーナッツに比べると魔力を集める力は劣るらしい。
それでも、王都製の魔法インクよりは上等らしい。
それはそれで朗報だ。最悪犬の集落に頼らなくても魔法インクは作れるってことだからね。
食料自給率ならぬ、魔法自給率が上がっている。
王都依存も犬の集落依存もしないようにしたいしね。
**
宿場町には早朝到着した。
待ち合わせ場所に行くと……やっぱりいた。相変わらず時間厳守だ。
「おはようございます!」
「おや! おはようございますアカイ様」
「相変わらずお早いですね」
「いえいえ。年甲斐もなく少々わくわくしております」
「ははは、大したおもてなしは出来ないですけど……」
そうなのだ。今回はシェルナイドさんをお迎えに来たのだ。
「せっかく宿場町が出来たなら伺います」と提案してもらったのである。
一日かけて湖の町まで行き、翌日早朝に出発し、我が家に着いたのは夕方だった。
やっぱり湖の町から我が家までは結構遠いな。
シェルナイドさんの御者としての腕前はハイレベルだ。
そりゃあ年がら年中馬車に乗ってるんだからね。
それでも一日かかってしまうのは道が殆ど整備されていないので仕方が無いのかもね。
湖の町とクラーク村とドルゼ村、どこでも一日で到着できる場所ってのは難しいものである。
**
到着する前に犬笛を吹いて、アッシュを退散させる。
馬が怖がっちゃうからだからなんだけど、う~む……ちょっと可哀そうである。
「お疲れ様でした」
「先導ありがとうございました。アカイ様はお疲れでは?」
「いえ全然」
「いやはや……馬より早く走れるなんて」
「あはははは」
走ることに特化した異世界人ですからね!
とりあえず家にご案内しよう。
**
「ただいま~」
「これはまた……立派な家ですね」
「ははは、知り合いに建築の天才がいますんで」
土間を抜け、応接間に入ると――
「ハア……」
思わず溜息。
テーブルの上が食べ終わったまま放置された皿が置いてあった。
あの子達……ちゃんとお客様が来るって言ってたのに!
「したらちゃーん!? エリッタさーん!?」
ドテドテと音を立てて二人が出てきた。
「んあ? 帰ったの?」
「あ、アカイさん。ご飯ですか?」
「ご飯はまだだよ。てか三日後に帰ってくるっていったでしょ」
「あ~そういえばいませんでしたねえ」
完全に空気扱いである。
いや、料理を作る便利な空気扱い。
「おや、お二人様お久しぶりです」
締まりのない空気の中、シェルナイドさんはピシっとしている。
「あ~」
「あ~~!」
「シタラ様にエリッタ様。お元気でしたか?」
にこやかなシェルナイドさんに対し、
設楽ちゃんは「元気」と答え、エリッタさんは駆け寄ってきて――
「あー! えっと~その~!」
エリッタさんは近寄ってきて、何かを思い出そうとしている。
シェルナイドさんとエリッタさんは一度しか会ったことが無い。
大魔法病院から救出した後、宿場町の宿で少しだけ会っただけである。
確実に名前は忘れているはずである。
「……シェルナイドさんだ!」
「はい、シェルナイドでございます」
ズコー!!
「な、なんで名前ちゃんと覚えているんだよ!」
俺の名前はいつまでたっても覚えなかったくせに!
「え? 何言ってるんですかアカイさん。
お名前を覚えるのは最低限の礼儀ですよ~。うぷぷ」
このポッチャリ…………ごく稀に滅茶苦茶ムカつくぜ!
**
とりあえずシェルナイドさんを二階の部屋に案内し、食事の準備を始めた。
いつの間にかシェルナイドさんと設楽エリッタコンビは仲良く談笑していた。
う~むコミュ力高し。
「ご飯できたよ~」
「うへ~い!」
「いや~ありがとうございます」
時間も無かったので、簡単なメニューだ。
机に料理を並べていると――
「アカイさ~~ん! 見てください!」
「おお~?」
エリッタさんは淡いオレンジの上着を着ていた。
「シェルナイドさんにいただいちゃいました~。うふふ~」
「へえ~! 似合ってるね」
お世辞じゃなく可愛い。エリッタさんの少し赤味がかった髪にオレンジ色がピッタリだ。
「うふふ~、こういうの欲しかったんですう~」
「そうなんだ。言ってくれれば良かったのに」
エリッタさんは口を曲げ、馬鹿にするような……というか完全に馬鹿にしている顔だ。
「こういうのは言わないでも気づかないとだめですよ~。ねえ設楽ちゃん」
「ソウダソウダー」
「女の子がオシャレしたいのは常識デスヨ~」
ぐむむ……。完全アウェー。
「シタラ様にも用意したんですが……」
「私はいい。汚すから。エリッタあげる」
「いやったー!」
エリッタさんはオシャレな服を二着ゲットしてご満悦である。
「まあ、とりあえず食べましょうか」
「いやはや、お食事をご用意いただけるとは……ありがとうございます」
「時間も無かったので簡単な物しか作ってませんけどね」
とはいえ美味しいはずだ。
いつも通り上等な食材を使っているので、手を加えなくたって美味しいんだもんね。
シェルナイドさんも満足いただいたようだ。
しかし誤算があった。
「アカイさん~おかわり」
「オカワリ」
設楽ちゃんとエリッタさんがおかわりを要求してきたのだ。
三日ぶりだからか、食欲が凄まじい。
「よく食うなあ……どうしようかな。肉でも焼こうか?」
「私、ホットケーキがいいですぅ」
「あたしも」
「あ~そなのね。ん~材料あるし作ってこようか」
「いやったー」
俺は立ち上がり、パンケーキを作ることにした。
「はて? ホットケーキ?」
「ああ、シェルナイドさんは食べた事無いですよね」
「ええ、聞いたことがございませんね。いつものケーキでは無いのですか?」
「ん~、ケーキの簡単バージョンです。シェルナイドさんも食べますか」
「いや~その~、ご迷惑でなければ是非」
「ははは、二人分を三人分にしても変わらないですよ。ちょっと待っててくださいね~」
お夜食にパンケーキを作ることにしよう。
連載再開……! したいところですが結構忙しくて時間が取れてません。
出来る限りですが、頑張りますのでご容赦ください。
といいつつ、短編を書いちゃったりして……てへ。




