208話 魔法インクを探れ③
今年もお世話になりました。
『エリッタさんに大魔法陣について聞こう♪』
改め、『エリッタさんを問い詰めて、大魔法陣に関して尋問しよう!』が続く。
「大魔法陣は今、全く使われていないのね!?」
「は、はい。左様でございます」
「見学は?」
「で、出来ません。少なくとも一年以上実施されてません」
「最後に実施されたのは?」
「に、二年前の武術大会の後ですね……たぶん。確か……う~ん」
「その時の見学した人は誰?」
「希望制で、すぐに満席になりましたね。お金持ちの人が多かったと思います。
魔法協会と懇意な方たちがメインだったと思います……」
「今、見学が実施されない理由は?」
「知らないですぅ」
「誰かに聞けばわかる!?」
「ん~魔法協会の偉い人なら! たぶん」
設楽ちゃんはエリッタさんを問い詰めていく。
なぜか椅子の上で正座しながらエリッタさんは回答する。
兎にも角にも、大魔法陣は使われていないらしい。
何かあったのだろうか? 多分あったんだろうね。
結論:大魔法陣は使われていない。見学も禁止されている。
「しかし大魔法陣か~。立っているだけで傷が治るんでしたよね」
「実際に治療で使われてるのは見たことないんですけどね~。私、関係無かったもんで」
「ふ~ん。設楽ちゃんの『治癒』より凄いのかな?」
「そんなこと無いと思いますよ~。まあ、どちらも見たことないのでわからないですけど」
設楽ちゃんは「なるほど」と言い、ナイフを手に「見る?」と言った。
真顔で。
「し、設楽ちゃん。ちょっと怖いっす」
ナイフが怪しく輝く。
「こ、怖い。お腹引き裂かれそう!!」
エリッタさんは自身が切られると思ったみたいだ。
設楽ちゃんは不思議そうな顔をし、自分の指を切ろうとした。
「だ、だめだめ!」
「私じゃなくて自分にかーい!」
そういえば、異世界初日にも、躊躇無く自分の指を切ってたな。恐ろしい子!
わちゃわちゃしていると――
「――あ」
先生が何かを思い出したようだ。
「どうしました?」
「大魔法陣……使ったことがある人がいるかもしれない」
「へ? どこに?」
「クラーク村にだよ」
「嘘? 誰だろ?」
クラーク村で王都に行ったことがある人は限られる。
クイズ大会の始まりだった。
「ん~! サブさん!」
当てにいった。本命だと思う。
魔法学校に行っていたぐらいだ。大魔法陣を使ったことがあるのかもしれん。
「違う」
「違うかー……リーダー??」
「それも違う」
「んん~? 他に王都に行ったことがありそうな人……」
設楽ちゃんがクイズに参加した。
「村長」
「ああ、確かに」
「ディーンさん。あとは……ヨドさん」
「あ~そっか。ヨドさんは王都出身だっけ」
先生はほくそ笑んでいる。違うようだ。
俺はお手上げだ。だが設楽ちゃんは正解にたどり着いた。
「…………あぁ、わかった。フッチーさん」
「お、正解だ」
「え? フッチーさん? フッチーさん……あ!?
そうだ! フッチーさん王都で武術大会出たって聞いた!」
設楽ちゃんが「確か準優勝」なんて呟く。よく覚えてるな~まったく!
「ええ! あの部屋造ってくれたデッカイ人ですよね!」
「そうそう、世紀末覇者みたいな!」
エリッタさんは「世紀末覇者??」なんて呟いた。そりゃ知らないよね。
「確か怪我したって聞いたから、大魔法陣使ったかもしれないね」
「なるほど!」
大魔方陣 from フッチー
「よくわからねえけど、あの魔法陣の事を話せばいいんだな」
「はい」
俺と設楽ちゃんはフッチーさんの家を訪れた。
先生は用事があるし、エリッタさんは「お留守番します!」とのこと。
昨晩の尋問で嫌気がさしたのだろう。
さて、質問されたフッチーさんは少し困った顔をした。
「ぶっちゃけ……そこまで覚えてねえなあ。
確かに運び込まれて、横たわった記憶はある」
「覚えていること、出来るだけ教えてもらえませんか?」
フッチーさんは短髪の後頭部を触りながら語り始めた。
「ん~そうだな。
決勝戦でぶっ倒れて、そのまま運ばれたんだ。額も切れちまってたし」
額には確かに傷があった。
「そうだな……。ちょっと思い出してきたぞ。
満身創痍で横たわったときは、意識も朦朧としてた。
だけど、いい気分だったな。全身がこう……包まれてるような。真綿のベッドのようなそんな感じだった。
傷の手当てをしてもらってるうちに、思ったよりすぐに元気になった。
あ~……確かにこれがブライト様の威光かもしれねえって思ったもんだ」
本当に効果があったんだな。
ぶっちゃけ体験者の声を聴いたことが無いので、眉唾なんじゃないかと思っていた。
「負けた後の記憶だったから、思い出さねえようにしてたけどさ。
悪くねえ場所だったな。殺風景な部屋だったが、こう……ふかふかしててよ」
「ふかふか?」
何がふかふかだったのだろうか? 枕? ベッド? 抱き枕?
設楽ちゃんも同じ疑問を持ったようだ。
「ねえ」
「ん?」
「何がふかふかしてたの?」
「何って……芝生だよ」
「芝生……ですって?」
設楽ちゃんは目を見開き、俺を見る。
はいはい、話せってことですね。
「あの~、大魔法陣って芝生映えてたんですか?
昨日エリッタさんに聞いたんですけど、大魔法陣って周りが石で囲まれてて――」
「ああ、そうだった気がするな……ん~あんまり鮮明に覚えていねえな」
「そうですか……でも設楽ちゃんの手に書いてある魔法陣に似た魔法陣が描かれていたんですよね?」
設楽ちゃんは手のひらをフッチーさんに向けた。
「ああ。もっとすげーデカいけどな」
「そんでもって……固い土だって聞いたんですけど」
「ん? よく手入れされた芝生だったぞ」
食い違う。おかしいな。
「ん~っと。フッチーさんの話って何年前ですか?」
「ん? 二十……そうだな二十年になるな」
「二十年で芝生が…………なくなったのかな? どう思う設楽ちゃ――」
設楽ちゃんは蛇のように鋭い眼光をしている。
「芝生の色は?」
「へ?」
「芝生の色!!」
なんかヤバイ雰囲気の設楽ちゃん。
フッチーさんも動揺している。
「し、芝生の色は何色でしたか?」
「ん、色? ああ、緑だったと思うぞ。普通に」
「部屋に窓は?」
「ありました? 窓?」
「無かった……うん、無かった。ドアがあっただけだった…………ハズだ」
設楽ちゃんは考える。そして――
「戻りましょ。エリッタに確認」
「は、は~い」
思い立ち、立ち上がり、すぐに帰ろうとする。
「あ、ありがとうございました!」
「お、おう」
「今度は武術大会の話でも聞かせてください」
「あ、ああ。いつでもいいぞ」
結論:二十年前の大魔法陣には芝生が生えていた。
――――
その後、設楽ちゃんは再度エリッタさんを問い詰め、
「し、芝生なんて知らにゃいですう!!」と吐かせた。
だが、「でも十年前は花が飾られていたかも」なんて言うので再度逆鱗に触れてしまったのだ。
おバカちゃんである。
念押しで十年前に大魔法陣を見たことがあるサブさんに話を聞く。
結論としては、二十年前は芝生が生えていて、十年前には芝生は無くなっていたが周囲に花があり、花壇のようになっていたとのことだ。
だが、最近は土だけ。もしかしたら、公開日だけ花を添えていたのかもしれない。
――――
サブさんの家からの帰り道。
「どう? 設楽ちゃん?」
「何が?」
「いや~何かわかった?」
「わからない……だけど……」
設楽ちゃんは左手の魔法陣を起動する。
時間とともに弱まっていく『治癒』の魔法陣。
「多分……大魔法陣は弱まっている」
短編をアップするので宜しければそちらもどうぞ。




