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三人揃えば異世界成長促進剤~チート無し・スキル無し・魔法薄味~  作者: 森たん
第十三章 王都の闇

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189話 語る影

 設楽ちゃんは口を窄める。そして話し始めた。


「……ナーダルさん。赤井さんについて知ってることを話してもらっても?」


 脈絡無ーい! でも気にはなるかも。


「……勿論だ。俺の知っている情報なら全て話そう。

 そうだな……ウィンダーブルの北部のクラークとか言う村に住むアカイ……さん。

 丁度一年ぐらい前に初めて王都にやって来たと思う。その時はリーホ商店の宿に泊まった。

 身なりは普通なのにストライクバードを連れている。そういやストライクバード狩りの名人だったか?

 そして、そういえば魔法インクを買っていたな。これが一年前の情報だ。

 タルジの野郎に調べてこいと言われたので調べた情報だな」


 一年前、初めてクラーク村のみんなで王都にやって来た時にもう調べられていたのか。


「まあ……俺はアカイさんに興味が無かった。タルジにクラーク村のやつらを調べろと言われたから調べただけだ。報告した内容もそれぐらいだな。

 ちなみに次に調べさせてもらったのがタルジとクラーク村長が喧嘩した時だな。憤慨したタルジが調べてこいと言うから仕方なくな。

 俺はやめておけと言ったんだがな……。クラーク村の二人……シマーとサブだったか?

 あいつらの警戒能力は高い。王都でのんびり生きてる奴らとは根本的に違う。

 それに加えて……アカイさんの警戒能力が異常に上がっていた。別人かと思うぐらいにな。

 クラーク村ってのは俺の村と同じで、特殊訓練している村かと思ったな」


 ナーダルさんは少しだけ笑ったように見える。


 なるほど『探知』魔法ですね。『探知』魔法使用前と使用後では別人のように見えても仕方ない。


「それでもあまりアカイさんには興味が無くてな。俺はやらなくていい仕事は極力しないからだ。

 案の定シマーにサブ、そしてアカイさんまで加わってしまったから、不用意に近づけない。

 結局大した情報は何も掴めなかった。無駄な仕事だったよ」

「シマーのやつはヘラヘラしてるが能力は高いからのう」

「ああ……。恐らくサバイバル能力が異様に高い。半分獣だ」

「はっはっは! そうじゃな。あいつが山に籠れば、恐らく誰も捕まえれんじゃろう。百人で行っても全員返り討ちじゃろうな」


 そういや、リーダーとゼツペさんは知り合いだったな。


 しっかしリーダーの評価滅茶苦茶高いな。

 ランボーもびっくりだ。そういえばランボーとリーダー少し似ているかも。ニヤニヤしているランボー。

 ニヤニヤしたらランボーじゃないか。


「まあそのぐらいしか知らなかった。だがニーデルが死んだ。それにアカイさんが関わっていることがわかった。

 だからアカイさんの事を最近調べ始めた。調べてみると中々面白い情報は手に入った。

 犬を連れていることは知っていたが、更にゼツペさんの弟子、定期的に王都に来ている。

 後は……金持ち。何かを王都に持ち込んでるとか。食い物じゃなかったかな。自分自身で調べたわけじゃないからな。これぐらいだ」


 十分調べられてますね。まあ予想範囲内なので問題ない気もするけど。


「ナーダルさん」

「なんだ? まだ聞かれればなんでも答える」

「……あなたはここで聞いた話を口外しますか?」

「誓ってしない。ニーデルの真実を知ることが目的だ。おま……あなた達の迷惑になることはしない」


 設楽ちゃんは俺の目を見た。

 信用してもいい? 話しちゃってもいい? といったところだろうか。

 俺的には設楽ちゃんがOKなら全てオッケーだ。


 てことで爽やかスマイルとグッドサインで応えた。

 あれ? 渋い顔だ。そこは笑顔で返してもいいんだぞ~、設楽やーい。


「それじゃあ魔法ショップのエリッタに関してお話しします」

「ああ」

「ナーダルさん。念押しですけど今からする話は口外しないでください」

「誓おう」

「それでは……ナーダルさんはケーキというのをご存知ですか?」

「ケイキ? 知らんな」


 あれ? 意外だな。知っててもおかしくないと思ったんだけど。


「そうですか。甘いパンのようなお菓子なんですが、かなり高額で取引されていると思います」

「甘い……パン? ああ、宝石パンか」

「ふぇ?」


 ダサいネーミングが飛び出して、思わず声が出ちゃったよ。


「このぐらいの大きさで、中に色々入っているパンだろ?」

「そうです。宝石パンって言うんですね」

「切らないと中に何が入っているかわからない、黒くて長い箱のようパンと聞いている」


 入って無い事もあるけどね。そっか……パウンドって言葉もケーキって言葉も馴染みないもんね。

 でも宝石パンか……なんか微妙なネーミングだなあ。


「まあ、実物は見たことが無いがな。だがその話が出るってことはつまり……」

「はい。作っているのは赤井さんです」

「『運んでいる』ではないのか?」

「作って運んでいます」

「そうか……。噂にはなっているがやはりそうなのか」


 やっぱ噂にはなってたのか。


「ちなみにどんな噂か聞いても?」

「宝石パンを持ち込んでいるのは、犬使いではないかと噂になっている。

 だが肝心の証拠が全く無いし、犬使いってだけで恐れられている。

 ふわふわした男に見えて実は凶悪な男では無いかとも言われていたな」


 ゼツペさんが笑う。

 凶悪なわけあるかーいってところだろうか。まあ噂なんてそんなもんだ。


「そうですか。ちなみにここからが大事な話です。

 その宝石パンに関してはバレてもいいかなとは思ってましたし」

「ほう」

「六十日ぐらい前に、魔法ショップ店員のエリッタに宝石パンを渡しました」


 ナーダルさんの雰囲気が変わった。目つきが鋭くなる。


「そして三十日ぐらい前に再度会いに行くと会えませんでした。更に今日行くとやっぱり会えません」

「クサいな」

「調べればすぐにわかると思いますが、恐らくエリッタは今、魔法ショップで働いてません」


 ナーダルさんは嗤う。


「そうか……。そういうことか」

「ですので――」

「わかった。すぐに見つけよう」


 ナーダルさんは立ち上がる。


「ちなみに風貌は?」

「赤い髪で、私と同じぐらいの身長」


 設楽ちゃんは俺を見る。他に何かないかってところだろう。

 ん~……。おしゃべりで明るい……。他にはなんかあるかなあ……。


「ああ。おっぱいが大きいです」

「っぶ!」


 この子はなんてことを言うんだ。確かに……、なかなかたわわではある。

 特に設楽ちゃんと並ぶと……ねえ。


「――そうか。わかった。とりあえず一日くれ。明日の夜には戻ってくる」

「わかりました」

「それじゃあ、行ってもいいか?」

「ええ」

「では――」


 ナーダルさんは静かに部屋から出ていった。


 音もたてず閉められたドアを見て、ゼツペさんが呟いた。


「――あいつ、またコッソリ出ていくんじゃろうな」

「あ、そうですね」


 ナーダルさんは誰にも気づかれず夜の闇に消えていくんだろう。

 いやはや王都って怖いところだわ……。


 なんか手汗でぐっしょり湿っているし……。


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