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三人揃えば異世界成長促進剤~チート無し・スキル無し・魔法薄味~  作者: 森たん
第十二章 異世界威力業務妨害

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181/251

181話 置き去りの赤井とコウノトリ

総合評価が1600超えてました。感謝でございます。


 王都へ走る。

 設楽ちゃんはアッシュに跨り爆走する。

 それを追うようにリンクスとゼツペさんが走り去る。


 俺は大きく息を溜めて長~く吐き出した。なぜにフルスロットルで走るかねぇ……。


 最近走ってないからちょっと鈍っている。

 毎朝の『着火』体操もサボり気味だったしなあ。

 リンクスとアッシュの足跡を頼りに追いかけることにした。



 翌々日夕刻。


「ぶはあ……もうダメだあ」


 宿場町まで到着した。完全に落ちこぼれな俺。

 鈍ってたとはいえ、人間辞めてるぐらいには速いはずなのに……。



「鈍っとるのお」

「め、面目ないでござる……」


 宿場町に着いたものの宿には泊まらず、町から離れた場所で野宿する。

 犬が二匹もいるからね。


 アッシュにもたれ掛かり俺はすぐに眠った。ピコを撫でている設楽ちゃんの横顔を見ながら。


――



「ほいじゃ行ってくるわい」

「お願いします」


 翌朝、ゼツペさんが王都に向かった。

 先に行って話をつけてきてくれるってさ。


 俺達二人はゼツペさんとリンクスの姿が見えなくなるまで見つめていた。

 目線の先には王都があると思うと、少しナーバスになるね。


「緊張してる?」

「へ?」


 設楽ちゃんが気を使ってくれた。なんかこそばゆい。


「ん~、まあ、ちょっとはね。でもゼツペさんいるし安心感のほうが強いよ」

「そ」


 立ち入ったら逮捕! みたいな展開は無いはず。

 食べ物はちょっと不安かな。毒でも盛られるかもしれない。

 まあ、今回はクラーク村のパンを多めに持ってきたから食料面では不安は無い。


 俺達は座る。暫しの沈黙。


 どうも……王都に近づくにつれて口数が少なくなってしまう。

 設楽ちゃんはいつも通りだけど、俺まで喋らなくなると無言の二人になっちゃう。



「お、王都いったらさ!」

「ん?」

「何しよっか?」


 我ながら漠然とした質問だ。


「――私は、真相に近づければそれでいいわ」

「そか」


 俺は天を仰いだ。そもそも俺はどうしたいんだろう。

 やりたいことを考えてみた。


 まずはラッソさんに挨拶したいな。後は風見鶏の宿を見に行きたい。

 壊れた部分は綺麗になっているだろうか? 店主さんにも謝りたいし。


 パワフルさんにも挨拶に行きたい。もしも王都でケーキが売れなくなってもパワフルさんには個人的に届けたいなあ。

 後は……シェルナイドさんにも会いたいけど、どんな顔して会えばいいかよくわからない。

 シェルナイドさんはどんな状況なんだろうか?


 あ、後は――


「エリッタさん。エリッタさん元気かな?」

「どうせ元気よ」

「ははは、確かにね。この前は会えなかったし、会いに行こうか」

「……そうね。時間があれば」


 二度と足を踏み入れなかったかもしれなかった王都。

 もしかしたらこれが最後になるかもしれない。もしくはたまにしか来なくなるかも。


 これからどう事態が転んでいくのか俺には予想できないんだよな~。

 まあ、予想しても外しそうだしね。頭使い過ぎたら知恵熱出そうだからさ。


 最後になるかならないかわからんけど、ちゃんと挨拶はしておきたいなあと思う。



 アンニュイになりそうではあるものの、お腹が空いた。

 簡易ホットサンドを作って食べているとゼツペさんが帰ってきた。


「何、美味そうなもん食っとるんじゃい」

「あ、おかえりなさい」

「ワシにもくれ」

「は~い」


 みんなでホットサンドに舌鼓。


「で、どうでした?」

「問題なさそうじゃ。食い終わったら行くぞい」

「わかりました」


 鬼が出るか蛇が出るか。何も出ないかもしれないけどね。

 とにかく王都へ向かう。

 

 第十二章 異世界威力業務妨害 完




――――


 その頃。


「先生どうしたの?」

「ん? ああ。ちょっと考え事をね」


 金子は授業の真っ最中。本日の生徒は五人だ。

 金子の授業はクラーク村の中で噂になり、「ぜひうちの子も」と人気になっている。

 とはいってもクラーク村は人口三百人にも満たないので子供も少ないのだが。


(赤井君は本当に巻き込まれ体質だなあ……。彼にとってはその方がいいのかもしれないね)


 一人クラーク村に残った金子は、赤井の事を考える。

 元気になって何よりだと思っている。


「先生今日はなんだか楽しそう」


 パインがニコニコ笑いながら話しかけた。

 パインはハンターのリーダーである、シマーの息子のアインの娘である。

 金子の異世界初めての生徒であり、非常に優秀だ。

 彼女に教えることは殆ど無くなってきている。


「ははは、そうかな? よし! 採点終わり。みんなよく出来てるよ。ちょっと休憩しよう」

「はーい!」


 授業をしていると、村の色々な情報が入ってくる。

 誰がおねしょしただとか、奇形ニンジンが採れたとか、どこぞで夫婦喧嘩があったとか。


 そして今一番ホットな話題というと――


「パインちゃんもうすぐお姉ちゃんだね!」

「えへへ、そうなの!」

「あ、コダッカラさんも赤ちゃんできたって!」

「へー!」


 クラーク村はベビーブームである。正確に言うとご懐妊ブーム。


 経済事情がよくなったクラーク村。各家庭でも経済的に余裕が出て来た。

 更に今年のお酒は非常に美味しかった。飲むと楽しくなり開放的になる。


 その結果――出来ちゃったわけである。


(そういえば、こっちの世界では妊娠から半年で出産みたいだ。

 やっぱり人体構造が少し違うんだろうなあ)


 金子はコーヒーを飲みながら、子供たちの会話を楽しむ。



「ねえ! 先生」

「ん? なんだい?」

「先生は子供つくらないの?」

「え……あ~、子供か。ん~相手がいないからなあ。ははは」


 金子は異世界人の自身が子供を作れるものなのか考えた。


(ふむ。機能的には問題なさそうだが、倫理的には微妙だよなあ……。

 まあ、そもそもお相手がいないからな。心配するだけ無意味か。ははは) 



「先生~、赤ちゃんってどうやってできるの?」

「え……あ~それはだな~」


 金子は戸惑った。

 流石に『コウノトリ』とは言えない。コウノトリなんてこの世界の人は知らないのだから。


「せ、先生もわからんな~、ははは」

「へ~、先生も知らないことあるんだね!」

「お、お母さんに聞いてみたらどうかな?」


 異世界の保健体育までは範囲外な金子だった。

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