178話 愛の結晶(紙媒体)
先生とのデートが終わり、アッシュと合流し我が家に帰る。
今後の方針が決まったわけじゃないんだけど、気楽にやろうと思う。
何かしたいこと……は思いつかないんだけどさ、あんまり考えると堂々巡りになる。
俺の少ない脳みそじゃ、オーバーヒートを起こしちゃうんだろうね。残念だ。
家に着いた俺はとりあえず――
「晩飯を作るぜー!」
肉と野菜とベリーを炒めた異世界風肉野菜炒めを作った。
ヨドばあちゃんが作ってくれた、パンに合う料理を真似て作る。
料理ってのはストレス発散になるんだよな~。
手を加えなくても十分美味い素材なんだから、出来た料理も美味い。ヨドばあちゃんの料理には劣るが美味く出来た。
「へいお待ち~」
机で待っている、設楽ちゃんと先生に料理と持っていく。
「お、美味そうだな!」
「ははは、ありがとうございます~」
「――イタダキマス」
設楽ちゃんは無表情ながら美味しそうに食べる。鼻がひくひくして可愛い。
俺、主夫になろうかなあ。設楽ちゃんの健康を支える主夫!
「……何よ」
「え?」
「ニタニタしてキモイ」
設楽ちゃんの食べる姿を見てて、ニタニタしていたみたいだ。
「あ、あれ? ニタニタなんてしてたかな?」
「――元気になったのね」
「え~っとそうだね。元気元気」
設楽ちゃんも心配してくれていたのだろうか? 悪いことしたな。
落ち込んだりもしたけれど、俺は元気ですよ。
「ははは、今日は男同士で語り合ったからな」
「そうですね」
設楽ちゃんは妙に意気投合する俺達を見て訝しんだ。
「ふ~ん……狩りでも行ったの?」
「狩り……もしたけど、今日はそうだな~~デートかな」
「……ハ??」
設楽ちゃんの顔が面白いぐらい歪んだ。
「はっはっは! そうだな! 今日はデートだったな」
「ですね~」
設楽ちゃんは器とパンを持って立ち上がった。
「――ゴチソウサマデス」
設楽ちゃんは部屋に帰ってしまった。
「っぶ」
「ははは」
熱々な俺達のせいで居場所を失った設楽ちゃん。
久しぶりに……なんというか彩のある一日を過ごした。
――――
翌朝。
いつもより寝れたな。
さてさて何をしよう。何かイベントでも発生してくれないかな~。
そんな都合良くいかないか。いかないよね?
とりあえずやれることをやろう。
何をしたらいいか考えててもドツボにハマってしまう。だったら思いつく事をやっていこうと思う。
まずはドルゼ村に行って、材料でも仕入れてこようかな。
いつもは王都の帰りに立ち寄るんだけど、今回はそれどころじゃなかったし。
そういえばコーヒーも必要だな~。
王都に行かずにコーヒーって得られるのだろうか? あ、湖の町ならなんとかなるかも。
そうだな、湖の町でも行こうかな!
じっくり湖の町を周ったことってないし。
気分転換に丁度良さそう。
――
てなわけで……温泉に行く。
湖の町に行けば、二、三日は帰ってこれないだろうし。
行く前に英気を養おうって算段だ。
「てことでしゅっぱ~つ」
「ワン!!」
「ピエエ!」
三匹は温泉へ進む。
――
のんびりと温泉まで歩いて行く。
アッシュは走り回ってるけどさ。
あんまり遠くに行くなよ~と思いつつも、どれだけ遠くに行ったってすぐ戻ってくるだろうし。
変なものを捕まえてこないかちょっと心配でもあり、それはそれで楽しみでもある。
ピコと戯れつつ歩く。ピコも思いっきり羽ばたかせてあげたいな。
俺が塞ぎこんでる間、あんまり遊ばせてやれなかったし。
途中、アッシュの遠吠えが聞こえた。
(なんだ?)
ちょっと珍しい。「戻るぞ~」ってところかな? ま……いっか。
程なくしてアッシュが戻ってくる。全力疾走で。
(え??)
アッシュが俺の目の前を通過した。
「な、なんだなんだ!?」
悪ふざけか? と思い走り去ったアッシュを目で追う。
その時――悪寒が走った。
(や……ヤバイ!!)
後ろから何かが突進してくる足音が聞こえる。
そして俺の『警戒』スキル範囲内に入った瞬間にわかった。かなりの巨体だ。
俺は咄嗟にしゃがんだ。また死ぬかも恐怖。
「バウウウゥーーー!」
俺の上空を何かが飛んだ。敵襲か!? 影野郎か!?
目線を上にし当りを見回した。アッシュが走ってくる。
「ワン! ワン!」
「バフ! バフ!」
「え……ええ!?」
アッシュがじゃれ合っている。俺を中心にもう一匹と。
「お、おまえ! リンクスじゃねえか!?」
「バフ~」
ちょっと抜けた顔の犬、リンクスがアッシュとじゃれている。
犬二匹が久しぶりに出会ったんだから、テンション上がってじゃれ合うのはわかる。
だけど――
「お、俺を中心にじゃれるんじゃ! ぶは!」
リンクスの毛が俺に纏わりつく。そして――
「へぶし!!」
跳ね飛ばされた。巨体の犬二匹の中心にいて無事で済むわけがない。
草原に転がる俺。
「いでででで……」
「相変わらずじゃのう」
「――あ」
懐かしい声が聞こえた。
声の聞こえる方へ身体を急回転させた。
「ぜ、ぜ……」
「はっはっは、久しぶりじゃの。アカイ」
「ゼツペさん!!」
一年ぶりに再会するゼツペさんに俺は歓喜した。
変わらぬ姿に懐かしささえ覚えた。
そして……、湖の町に行くのは延期だなと悟った。
――――
その頃。
「うぇへへ」
自室で一人、設楽は笑っていた。お絵描きタイムだ。
新しいネタ、赤井と金子のカップリングが成立したからだ。
(傷心の赤井さんを癒す先生……、虐める先生のほうがいいか! イイネイイネ!)
設楽は、赤井と金子のカップリングはこれまでも考えてきた。
だが中々しっくりきていなかった。
二人ともどちらかというと受け側だからだ。オフェンス力はそれほど高くない。
だが、赤井の「デート」発言で設楽の脳内に衝撃が走った。
彼女がテーブルから立ち去る時、「ゴチソウサマ」と呟いたのは、料理に言ったわけでは無い。
むしろ「イタダキマス」と同義なのだ。
(やっぱり赤井受けね。先生も受けなんだけど……最近攻めもイケるし……)
「えひひえひひ」
新しいノートにめくるめく絡み合いが描写されていく。
過去のノートは以前、王都から脱出する際に泣く泣く破棄している。
過去のノートにはたくさんのメモが記載されていたが、技術的な内容は殆ど設楽の脳内に記憶されている。
だが、異世界における先進的な画集を破棄することは設楽にとって我が子を捨てるような思いだった。
唯一、自身の最高傑作である「赤井×サブ」の一枚だけは服の中に忍ばせて持って帰ってきたのだけれど。
「イイ! イイ! これはイイモノ! うぇへへ」
新しいおもちゃを手に入れて、設楽はご満悦である。




