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三人揃えば異世界成長促進剤~チート無し・スキル無し・魔法薄味~  作者: 森たん
第十二章 異世界威力業務妨害

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172話 張りぼてのライオン


 設楽ちゃんのターン。ドロー! ……してる場合じゃない。


「何度も言ってるじゃない」

「い、いや、犯人が自白しているからな」


 小さく舌打ちする設楽ちゃん。あたふたする俺。


「他には自白していないんでしょ? 個人の犯行だけは自供するの? それを信じるの?」

「む、い、いや、しっかり聞き出した結果だ! と聞いている」


 設楽ちゃんは寝不足なのか、とってもイライラしている。

 こんな時は鎮まるまで待っていればいいんだけど、ライネルさんは引かない姿勢だ。

 あ~おこらせたくないのに、火のついた油に水をぶっかけるようなもんだな~。


「あのねえ、犯人はクローゼットに隠れていたのよ?

 犯行の理由は『金目当てで忍び込んで、見つかったので殺害しようとした』だったわね。

 おかしいじゃない。金目当てなら盗んでさっさと帰るでしょう。

 お金は部屋の中にあったんだし。それも赤井さんの事だから隠したりしてないはずだわ。

 だったらさっさとお金だけ奪って逃げますよね?

 それとも忍び込んですぐ、赤井さんが部屋に帰ってきたの?

 あなた、犯人見たんですよね? そんな無能な人に見えましたか??」


「え、あ……いや」


「あと、泥棒があんな刃物を持っているの? 護身用にしたって大きすぎでしょ。

 確実に殺害用の刃物よあれは。見たらわかるでしょ? それともあんな大きな刃物が王都では流行ってるのかしら?

 それに、赤井さんが言ってましたよね? お金で見逃すように交渉したら拒否されたって。

 だとすれば、個人的な恨みの犯行か、誰かに依頼されたと考えるのが普通ですよね?

 なのに、犯人の言うことを鵜呑みにするんですか?」


「むむ、し、しかしだな」


「それとも何か犯人を庇う必要があるんですか? 意図的に依頼主を庇っているようにも見えますよ?

 となれば、ハンターギルドが何かしら関与してると疑われても仕方ないと思いませんか?」


「し、失敬な! ハンターギルドがそんなこと……」


「こっちは命かかってる!」


 設楽ちゃんの大声が木霊する。俺もそう思ってたけどさ。

 ライネルさんも目を見開いてる。


 これ以上は、関係が険悪になりかねないな。もうなってるけどさ。

 軌道修正しよう。


「え~っと、ライネルさん。こちらとしては再度命を狙われる可能性があるわけです。

 それはご理解いただけましたかね?」

「あ、ああ」


 設楽ちゃんの一喝で雄々しきライオンは、子猫みたいになってしまった。

 ああ、この人……強く見せてるだけな人なんだな~。


「是非、黒幕を突き止めるように動いてください。じゃないと僕たちは王都で眠れないですよ」

「わかった。しっかり伝えておくよ」


 ライネルさんはしっかり伝えてくれると思う。だけど黒幕を突き止めることは出来ないだろうな。

 あの男が自白するとは思えないし、拷問とかも出来なさそうだし。

 実は王都の拷問技術が進んでいて、影野郎も泣いて許しを請うぐらいな可能性もあるけどさ。


「あと……アッシュ、犬に関してなんですけど……」

「ああ、非常に申し訳ないんだが王都でかなり大規模な破壊行為をしたとなると殺処分となる」

「でも、そのおかげで俺は助かったんですよ? 仕方のないことでは?」

「いや、偶然助かったわけだが、王都で暴れるような動物はちゃんと処理せねばならない」


 偶然ね……、偶然主人のピンチに駆けつけるわけないだろうに。

 まあ、犬の評価は低そうだし仕方がないかもしれないな。


 もしも事前情報無しでこの話になっていたら、ぶちぎれていただろう。

 だが事前に対策済みである。


「実は……犬が山に帰ってしまってます。処分するにしてもすぐには……」

「む……どうにか呼び出せないのか?」

「いや~……ここからかなり遠いですからね~。ず~っと北ですよ」

「う~~む……」


 ライネルさんは困ってしまった。いないものは仕方ないよね。

 アッシュを王都から脱出させてたのは、ここまで予測んでいたのだろうか? 設楽ちゃん流石である。


「確か師匠が……犬の生息地はここより北西のドゥモールガル山脈とかサンガ連峰辺りだと聞いたな……」

「へ? 師匠?」

「ああ、ゼツペ師匠だ」

「あ、ゼツペさんのお弟子さんなんですか?!」

「ははは、この辺のギルド関係者は大体がそうだよ」

「そっか……!」


 忘れてたけど、預かり屋のラッソさんも、宿屋の店主もそうだった。

 ゼツペさん……今頃何してるんだろうな~。


「仕方がない……犬に関しては任せるよ」

「わかりました」


 ライネルさんは咳払いした。


「まあ……王都に連れてさえ来なければ、犬がどうなったかはハンターギルドの関知することではないからね」


 つまり、殺処分なんてしなくても大丈夫ってことだ。

 設楽ちゃんの計画通りだし、ライネルさんも暗黙で了解してくれたってことだろう。


「さて……すまないが何点か聞きたいことがある」

「どうぞ」

「一つ目は、犯人の心当たりは無いかな?」

「心当たりですか?」

「ああ、黒幕に関してもそうなんだが、アカイ君の知る人物ではなかったかな?」


 あんな化物みたいな人物は初対面である。

 小柄だが、獰猛で、潜伏能力が異常に高い。

 あんな人物、会ったことがあればすぐに気づくさ。


(……あ)


 小柄で、『探知』魔法を使わなければ気づけないぐらいの潜伏能力。

 以前……会ったことがある。正確にいうと尾行されたことがある。


 一本の線が繋がった。


 俺は言おうかと思った。だが……『探知』魔法の説明をせずに伝えるのは難しい。


(どうする……)


「赤井さん、頭が痛いんですね? 少し熱っぽいですよ」


 設楽ちゃんが、ライネルさんと俺の間の空間を遮るように体を挟み、おでこに手を当てた。


「あ、ああ」


 そして至近距離で目と目が合う。

 寝不足だけど綺麗な顔だ。そして目が語る。「何も言うな」と。


「む! すまない。病み上がりだと忘れていた。そろそろ切り上げることにしよう」

「すいません」


 いいタイミングかもしれない。聞きたい情報は大方聞けた。


「若い奴に送らせようか?」

「い、いえ大丈夫です。設楽ちゃんがいますし」

「わかった……。すまないが最後に一つだけいいかな?」

「なんでしょう?」


 ライネルさんは申し訳なさそうに一瞥してから口を開いた。


「赤井君はどうして襲われたと思う?」

「それは……わからないですね」

「そうか」


 半分嘘であり、半分本音だ。


「――ライネルさん」

「おお、すまない。悪いが体調が大丈夫なら明日以降でまた来てくれ」

「わかりました」



 俺たちは部屋から出て、そのまま派出所から出ることにした。

 「おつかれっした!」と一階にいた兄ちゃんの呼びかけを無視するような形になっちゃったな。



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