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三人揃えば異世界成長促進剤~チート無し・スキル無し・魔法薄味~  作者: 森たん
第十二章 異世界威力業務妨害

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168/251

168話 終わりと始まり


 どういった経緯でこんな状況になったのかわからない。


 影野郎は床にうつ伏せになり抑え込まれていた。

 どこから出したのかわからないが、小さなナイフを持ち抵抗しているが、両手を封じられている。


 そもそも体格差が違い過ぎる。

 影野郎は圧倒的な殺傷力を有しているが、体は小さい。

 組み合って力を発揮できるタイプではないのは素人の俺でもわかる。


 そんな影野郎がうつ伏せで抑え込まれているのだ。マウントポジションよりも厳しい状態。


 ふと、ワニ狩りの事を思い出す。

 土手を滑り落ちてしまったおっさんを助けるために、アッシュがワニに飛びかかった時だ。

 上から押さえつけられたワニは、多少の抵抗はあったもののすぐに完封された。

 そして頭を殴打されて、ワニは絶命した。 


(や、やばい……!)


 俺は上手く体に力が入らないが、必死に起き上がろうとする。

 一度弛緩しきった体は、なかなか言うことをきいてくれなかった。


 どうにか右手一本で上体を支え、姿勢を保つ。

 そして叫んだ。


「アッシュ!! 殺すな!!」


 どうしてそう叫んだかわからない。ただ、このまま放置すれば確実にアッシュは影野郎を殺すだろう。

 頭蓋粉砕、噛み千切る、胸部を押しつぶす。アッシュの力なら簡単にできてしまう。


「ワン?」

「俺は……大丈夫だから」


 アッシュを安心させないといけない。俺は笑顔を作る。


「そのまま……押さえつけておいてくれるか?」

「ワン!」


 これで一旦落ち着けそうだ。そうすると別の音が聞こえてくる。

 部屋のドアがガチャガチャ鳴っていた。騒ぎに気付いた誰かが入ろうとしているんだろう。


 俺が開けに行けばいいんだけど、立ち上がるのが億劫だ。

 申し訳ないけど、待つことにした。


 そしてドアが開く。店主だ。あと宿泊者と見られる人が一人と、その後ろに設楽ちゃんがいた。

 はは、こんな深夜に起きれたんだね。


「あ、アカイさん!?」

「赤井さん!?」

「は、はは」

「こ、これはどういうことです??」


 なんて説明すればいいんだろう。なんか無性に怠い。


「えっと、そこの人が殺しに来ました」


 アッシュの下敷きになっている影野郎を指差した。


「こ、殺し!?」


 普段は落ち着いている宿屋の店主が慌てている。

 そりゃそうか。王都で殺人未遂事件なんて殆ど無いだろうし。


「気を付けてください。武器を隠し持っているかもしれません」


 店主と宿泊者であろう男性が協力して、影野郎を拘束してくれた。

 後で聞いた話だけど、宿泊者の男性は風神道の師範クラスの強さだそうだ。

 いやあ頼りになるね。


 拘束している現場を縫って設楽ちゃんが駆け寄ってくる。


「あ、赤井さん?」

「んー、良く起きれたね」

「――あんな爆音がすれば流石に起きる」

「爆音??」


 設楽ちゃんが外を指差す。

 俺は振り返る。


「お、おお……」


 窓側が……大破しとる。なるほど、アッシュは壁と窓をぶち破って突入してくれたのか。

 ふふふ、やり過ぎだろ。弁償費いくらになることやら。


 あ~、なんかぼーっとするな。安心したからかな。


「――! 赤井さん!? 手!」

「へ?」


 設楽ちゃんが、悲壮感漂う声を出し俺の左手を指差した。


「ああ……刀で切られちゃった」


 設楽ちゃんは顔を歪めている。

 俺を動かさないように、回り込んで『治癒』魔法をかけてくれた。


「はは、なんか『治癒』されるの久しぶりだな~」


 設楽ちゃんは少しだけ『治癒』した後に枕を持ってきて、寝かせてくれた。

 上体起こしてるのもつらかったのでありがたい。


「怪我はここと……そっちの肩ですか?」

「うん。あ~、左脇腹も痛いかも」


 暗いのでよく見えないんだろう。俺も設楽ちゃんの顔が良く見えない。

 なんか泣いてるように見えるのは気のせいだろうか。

 ただ、『治癒』は本当に気持ちよくて意識が飛びそうになる。


 寝ちゃいたいんだけど『治癒』魔法は寝てると効果が下がるらしい。

 寝たいぐらい気持ちいいのに寝れない、新しい拷問を味わう。


 そんな中、影野郎は両手両足を縛られ、身動きできない状態になった。

 アッシュもお役御免だ。俺に近づいてくる。


「アウ」

「おお~、アッシュ~」


 心配そうな顔して横に座った。

 比較的軽傷の右手も、肘を上げるのがつらい。

 汲み取ってくれたのか、俺の左手を舐めてくれた。


「いや~助かったよ。よく来てくれたなあ~」

「ワン!」


 何故ピンチとわかったのだろう。匂いだろうか?

 夜風に当たるために窓を開けたのが良かったのかもしれないな。


 二度と会えないと思っていた、アッシュと設楽ちゃんに囲まれて幸せだ。


 そんな中、影野郎は店主たちに連れていかれる。


「――あの。その人どうするの?」


 心配そうに尋ねる設楽ちゃん。


「ああ、一階の部屋に監禁しておきます。朝になったらハンターギルドの人達に連行してもらいます」

「そう」

「お任せください。――ほら立って」


 影野郎は店主に立たされた。もう一人の男性は、かなり警戒して見張っている。


「……一言だけいいか」


 影野郎は顔を覆っていた布を剥がされ、素顔を晒している。

 若い。俺と同じぐらいだと思う。


 店主たちは俺を見る。


「どうぞ」


 影野郎は観念したのだろう。先程までは凶暴さを宿していた双眸は見る影もなかった。


「お前……本当になんなんだ」


 影野郎の言葉には、怒り、後悔、疑念――。たくさんの感情が入り混じっている。


「……一般人だよ」

「――そうか。……そうだな」


 影野郎はそのまま連れていかれた。


「ふ~」

「あ、赤井さん!? まだ寝ないで?」

「うん~」

「ワン! ワン!」


 睡眠欲求に抗っていたが限界が来た。影野郎がいなくなったので安心したのかもね。


 俺は深い眠りについた。



――――



 夢の中、ミックの苦い顔を見た気がする。

 なんか偉そうに羽根なんかつけてたな。



 意識が戻ってくる。

 体に大きな異常は感じない。目を閉じたまま負傷した場所に意識を持っていく。

 重症だった左前腕部、問題なさそうだ。

 右肩……も大丈夫。

 左の腹……ちょっと痛いな。骨が折れたのかもしれない。


「ん~~~、まあ大丈夫か」

「お、起きたのか?」


 右側におっさんがいた。おっさん?


「あ、ああ!」

「おう」


 あの時、店主と一緒に部屋に突入してくれたおっさんだ。


「気分はどうだい?」

「あ、大丈夫かと思います!」


 左前腕部の傷に目をやると、傷跡は残っているものの完全に塞がっている。

 『治癒』魔法のおかげだろう。


「そっか、良かったな」

「ありがとうございます……え~っと」


 どういう状況なんだろう? ここは多分病院のベッドだと思う。

 個室だ。

 で、隣にいるのがおっさん。設楽ちゃんは??


「おっと、状況がよくわからないのはわかる。だけどまず伝言を伝えるぜ」

「伝言?」

「ああ、連れのお嬢ちゃんからだ」

「そうそう! 設楽ちゃんどこにいったんですか?」


 おっさんは、自分の口に人差し指を当てて静かにするようにジェスチャーした。


「お嬢ちゃんからこう言われている。『目が覚めても意識が朦朧とするって言え』だってよ」

「は?」

「もう元気なんだろうけどよ、頭が痛い~って言って寝とけってよ。もうすぐお嬢ちゃんも帰ってくるし」

「わかり……ました」

「うっし」


 よくわからないけど、元気になってはいけないらしい。

 そもそも設楽ちゃんはどこに??


「一応看護婦に連絡してくるが、来ても意識が朦朧とするって言うんだぞ」

「――わかりました」


 無事生きていることを喜びつつ、現状が理解できず困惑する。

 事態がどう転がっているのか、俺は全くわかっていなかった。

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