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三人揃えば異世界成長促進剤~チート無し・スキル無し・魔法薄味~  作者: 森たん
第九章 王都商戦・反復

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148話 鮮やかで醜悪な招待状

9章終了です!


 金子の日常。


「ふ~む、本当に冬がこないんだな~」


 異世界に舞い降りてそろそろ三百日。

 今が一番寒い時期だが、それでも十℃を下回ることは無い。


 少しだけ肌寒いが秋空の下、金子は授業をしに向かう。

 授業は基本的に生徒の家で行っている。自分の家では設楽が奇声をあげたりするので教育上良くないからだ。


 金子は授業を非常に楽しんでいる。

 先生という仕事を楽しんでいるし、教えるという仕事に誇りを持っている。

 また、生徒たちは尊敬できる子供たちだと思っている。


 異世界の子供たちには仕事がある。

 家事を手伝うのなんて当たり前だし、農家では農家の、ハンターの家ではハンターの仕事がある。

 「お手伝い」ではなく、子供たちに与えられた仕事なのだ。


 子供たちは与えられた仕事をしっかりこなしつつ、勉強をしている。

 はっきり言って日本の子供たちとは雲泥の差だ。

 もちろんキレる生徒なんていない。


 生徒がちゃんとしているのに、先生がだらけるわけにはいかない。

 金子は自制心が強くなった。


 ハンターたちと行動しているとお酒を飲む機会も多い。

 それでも節度を持って飲む。

 仮に明日が休みだとしても羽目を外しすぎたりしない。

 なにせ誰かの家の子供が自分の教え子であったりするからだ。


(飲んでも飲まれるな。飲んでも飲まれるな!)


――


 初めは算数ばかり教えていたが、金子はバランスよく色々教えたいと思っていた。

 異世界では日本語が使われているので、国語も少し教えた。


 逆に生徒たちからも学ぶことにした。

 金子は学力は上でも、異世界に関しては一年目だし、農業に関しては完全に素人であり教わることはたくさんある。


 一方的に教えるより、お互いに教えあうほうが勉強効率が良い。

 昔、読んだことがある記事を思い出しながら金子は、ハンターの仕事を覚え、農業を覚え、そして先生として村に欠かせない存在になっていく。


――


 ちなみに現在、狩りに関しては精力的に行われてはいない。

 金子がという意味ではなく、秋頃はハンターチームがあまり活動的ではないからだ。


 金子たちが異世界に来た頃は春であり、狩りシーズンであった。

 ハンターたちの思考は非常にシンプルで、動物が多いときに必要分だけ狩る。


 特に今年はゼツぺが来た際に大量に狩ってしまった。それに赤井が何かと鳥を持って帰ってくる。

 はっきり言って食料として狩りは必要なくなってしまった。

 結果例年以上に狩りは控えめになり、金子も同様に控えめになっていた。


 そんな『狩りも出来る先生』として一年は過ぎていく。

 そして【あの日】の知らせは突然やってくる。


――――


 赤井が王都から帰ってくる日、金子はリビングでコーヒーを片手に授業内容を考えていた。

 遠足なんていいなと考えつつ、危険性の対策を考えていた。


 そんな時、一匹のトカゲが現れた。

 妙な動きと、落ち葉のような色合いだがプラスティック製の作り物のような無機質な容貌。

 金子の『探知』網に引っかかったので、トカゲに視線を向ける。


(気味が悪いトカゲだ……)


 金子はトカゲを見てそう思った。トカゲらしい動きなのだが何かおかしい。

 体長は三十センチぐらいある。異世界のトカゲとしてはありえるサイズだが、まるで操られているかのような動き。


 そしてトカゲは家のリビングの真ん中で止まった。そして脈動する。


「な、なんだ!!?」


 気味悪くドクドク脈打つトカゲ。金子は立ち上がり距離をとった。

 トカゲは血を吐き出した。正確には血と思われる液体。

 色は鮮やかなエメラルドグリーンだが、鮮やかな色がより不気味さを演出する。


 血を吐き出しながらトカゲは歩く。


「……さ、【3】?」


 トカゲはゆっくり、血を吐きながら歩き続ける。

 リビングの真ん中をキャンパスに、エメラルドグリーンの血で文字が描かれる。

 ゆっくりと正確にトカゲは行進する。


 十分以上経過し、やっと文字と思われる全貌が明らかになった。


【3カゴ アナ ネロ ミック】


「し、設楽さん!!」


 金子は急いで設楽を起こすのだった。



――――



「――で、これがトカゲのメッセージというわけですね」


 いやいや~王都から帰ってきたら、我が家のリビングにエメラルドグリーンのダイイングメッセージがあった。

 はっきり言って趣味が悪すぎる。美しい木造のフローリングが台無しだよ。


「いやはや、驚いたよ。トカゲが現れたとおもったら、震えだして血を吐き出すんだから」


 これ……血なの? 鮮やかすぎて動物の血液とは思えない。

 なんて目立つ色なんだ。


「ふ~む、3カゴ、アナ、ネロ、ミック。なんだろこれ、名前かな?」


 設楽ちゃんが久しぶりに侮蔑の目で俺を見ている。


「ええっと……」

「ミック覚えてますよね?」

「も、もちろんだよ!」


 ふむ……そっか、こんな趣味悪いメッセージはミックからか。


「てことは……、サンカゴ、アナ、ネロ。アナとネロを三籠持ってこいってことかな?」


 設楽ちゃんはがっかりしている。まあ確かに何言ってるかわかんねえけどさ。


「赤井君……。三籠じゃなくて、三日後じゃないかな」

「ん? おお! なるほど」

「ハァ~、三日後に、穴で、寝ろってことでしょ」

「なーるほど! すげえ。ん? 穴ってどこだ?」


 設楽ちゃんは呆れを通り越し嘲笑している。

 お、王都から走って帰ってきたから脳に酸素が回ってないだけなんだからね!


「たぶん、西の森。私たちが初めてこの世界に来た時の洞窟だろう」

「なるほど、そっか、これ招待状なんだ」


 やっと理解できた。そうだ一年経ったんだ。


「一年に一回報告会をしようって言っていたからね」

「お~、久々にミックに会えるんですね!」


 会いたいかと言われれば微妙だけど、久しぶりに薄っぺらいトークを聞きたい気もする。

 薄気味悪い招待状を見つつ、ミックへの報告会を楽しみにすることにした。


――――


 三日後の夕方、三人揃って西の森へ向かう。

 アッシュは心配そうにしてたけど、「家を護ってくれ」と指令を与えておいた。

 一応我が家には五百万円近い金が置いてあるから。


「しかし……ミック的には今の結果は満足なんでしょうか?」

「ん?」

「ほら……ノルマは無いけど、出来たらガンバレ的な雰囲気だったじゃないですか?」


 なんだっけ、目覚ましい成果だっけ? ミックが言うと嘘くさい言葉だった記憶がある。


「ん~どうなんだろうな? その辺もミックに直接聞いてみようよ」

「そうですね」


 実は結構自信はある。頑張ってきたし、お金は結構稼いだ。

 お金が全てじゃないけど、バロメーターとしてはわかりやすいよね。


 ミックがどんなスタンスで来るか楽しみだぜ。


「設楽ちゃんはどう思う?」

「――何が?」


 機嫌が悪そうな設楽ちゃん。


「いや、ミックの評価というか」

「……わかんない」


 ご機嫌斜めである。最近元気無いからな。

 ミックと会って気分転換になればいいんだけどなあ。


――


 三十分ぐらい歩き、西の森にある洞窟に着いた。先生が中を覗いている。


「よし、問題なさそうだ」


 『発光』を使い、中に入ることにする。


「さて……寝ますか。寝れます??」

「んー、まだ眠くないな」

「同じく」

「ははは、ですよね~」


 時刻は十八時ぐらいだろう。流石に寝る時間ではない。


「まあ、明かりを消して横になろうか」

「そうですね」


 真っ暗の洞窟で三人は川の字で横たわった。

 目を瞑ってみる。今年一年の出来事を色々思い出すなあ。



 『着火』魔法がなかなか使えなくて焦ったなあ。その後はクラーク村長と話して、どうにか家を借りてさ……。

 ホールラビットにも難儀したなあ。狩りって大変なんだって知ったよ。

 王都に行くまでは色々狩りしたなあ。


 あれ、ちょっと眠くなってきた。


「なんか暗いと眠くなりますねえ」


 返事はない。おかしいな。


「もう寝ちゃったんですか?」


 返事はない。無音だ。寝息も聞こえない。


「し、設楽ちゃん?」


 右手に寝てるはずの設楽ちゃんに手を伸ばす。むむ、なんか柔らかい感触が。


「お、おおっと、ごめんごめん! わざとじゃないんだ!」


 反応は無い。


「あれ……意識が」


 体と意識が切り離されていく、ちょっと懐かしい感覚。

 薄まった空気の中に身を委ねて俺は目を閉じた。


 そして意識を失った。



 第九章 完

読んでいただきありがとうございます!

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