114話 道具一つ作るのだって一苦労
ホットケーキは上手くいった。
だけど……致命的かもしれない問題点に気づいてしまった。
現代のケーキ作りで必須な『ある』ものが異世界には無い。そして作成も難しいかもしれないのだ。
ホットケーキを作った翌朝、俺はフッチーさんのところに向かった。
「おはようございます」
「ん? おお、どうした。流石にまだ出来てないぞ」
「いえ……別件で相談が」
フッチーさんに、ケーキ型以外に作って欲しい『ある』ものの説明した。
「うーむ。何に使うかわからんがそれは出来そうもないな。形が複雑すぎる」
「ですよねぇ……、ちなみにフォークとかはフッチーさんが作ってるんですか?」
「ああ、そうだな。鋳型があるからな」
最悪フォークで代用するしかないかもしれない。
「わかりました。もしかしたらまた相談させてもらうかもしれません」
「おう」
「それじゃあ、型のほうよろしくお願いします」
次はヨドばあちゃんのところに向かった。
――
「どうしたんだい。もう肉の処理は当分嫌だよ」
「あはは、燻製のし過ぎで、未だに服から燻製の匂いがするんですよね~」
家には燻製肉がたくさん残っている。美味過ぎる保存食だ。
「今日は全然、別件なんです」
「ほう、ほれお茶だよ」
「いただきます」
粗茶ならぬソテ茶をいただく。
「実は……泡立て器が欲しいんです」
「ハテ? 泡立て器?」
やっぱり知らないか。何を隠そう欲しいものは泡だて器、つまり『ホイッパ―』だ。
「卵を泡立てたいんですよね」
「ふぉっふぉっふぉ、また変なことを思いつくねえ」
卵の泡立てはお菓子作りの基本だ。ホットケーキやクッキーなんかは泡立てる必要が無い。
だけど多くのお菓子は泡立が必要になる。
「長年料理を作ってきてるけど、泡立てた事なんてないねえ」
「ですよね~……」
異世界料理界におけるヨドさんの知識は突出している。
そのヨドさんが知らないってことは卵を泡立てた人なんていないんだろう。
必要性が無いって言った方が正しいか。
フッチーさんにホイッパ―の説明をしたけど、ホイッパーの肝である泡立てる部分は複雑で作れないとのことだ。
そもそもホイッパ―って鉄製じゃなくて、ステンレスとかじゃなかったかな。
あんな細長い針金みたいな鉄を作るのがそもそも難しいし、出来たとしてもあんな柔らかく曲がらない。
誰か知らないけどホイッパ―を発明した人を尊敬したよ。
「ふぉっふぉ、何を作りたいんじゃ?」
「お菓子なんですけど」
「ふむ、菓子か。菓子は専門外じゃの」
「へ~」
こりゃ~誰にも頼れなさそうだ。泡立ては自力で考えるしかないみたい。
「すまんの~力になれんくて」
「いやいや、無理言ってるのは僕ですし」
気を使わせてしまったな。
「そういえば、昨日もお菓子作ったんですよ。家でみんなに振舞ったら好評でした」
「ほ~、坊がお菓子を作れるなんて意外だねぇ」
「唯一の特技みたいなもんですよ、はは。今度おばあちゃんにも持ってきますね」
「ほほ、楽しみにしとるわい」
次に何か作ったら持ってこよう。フッチーさんとヨドさんには確定だな。
「あ! あとドライフルーツが作りたいんですよね」
「ど、どらいふるぅーちゅ?」
「え~っと、乾燥した果物って言うんですかね。保存出来るような果物です」
言っててよくわからなくなってきた。
「ふむ」
ヨドさんは家の奥から壺を持ってきた。
「こんなやつかえ?」
「ん~……おお!」
紛うことなくドライフルーツが入っていた。オレンジかな?
「これですこれ! どうやって作るんですか?」
「こんなもん簡単じゃ、天日干しすりゃできる。この辺は特に乾燥してるからね乾燥果物作りにはもってこいなんだよ」
「へ~!」
「まあ手間がかかるけどね、水分が多い果物は特に時間がかかるよ」
「そっか。今度やってみようかな」
ドライフルーツのラム酒漬けとか最高に美味しいからな。
お土産に少しドライフルーツを貰っちゃった。
テンション上がったけど、どうにかホイッパ―の件をどうにかしないと。
家に帰りながら色々考える。何か代用品にできないか。
菜箸やフォークでは厳しい。そもそも泡立てってホイッパー使っても手間だし。
電動ミキサーは偉大な発明だ。
泡立ては空気を含ませないといけないからな。闇雲にガシャガシャかき混ぜてもダメ。
「回すようにやらないとダメだよ」って母親に言われたっけ。
確認したけど既存の台所用品では無理だな。
(自分で作る……か)
アッシュたちを連れて森まで行き、材料になりそうなものを探す。アッシュとピコは散歩だと思ったのか楽しそうだ。
俺は一人真剣にホイッパーの代用となるものを探す。歩いてるといいアイディアが浮かぶことも多いし。
藁みたいな茎の硬い植物を重ね合わせるか、木を細長く切って重ね合わせてみることを思いついた。
イメージは茶筅だな。抹茶をかき回す奴だ。あれは竹で出来てるんだっけな。見たことは無いけどさ。
もしくは小さい藁箒ってとこか。
とりあえず材料になりそうなのを集めて家に持ち帰った。
――――
悪戦苦闘しながらホイッパーもどきを作る。DIYってやつだな。
先生が不思議そうに見ていたな。
木を細長く切ることは頓挫した。俺のナイフテクニックでは難しかった。
なので茎プランを採用することにした。茎を均等な長さに切って束にして、結び合わせて完成。
「ふ~む……これでいいんだろうか」
長さは三十センチぐらいで持ちやすい。悪くないと思う。
試しにボウルに入れた水をかき回してみる。
綺麗にかき混ぜれる。
(こりゃなかなかいいんじゃないかな)
泡立てはしっかりできそう。だけど問題点としては水を吸ってしまうことだ。茎だからね。
使い捨てなら使えそうだけど、毎回作るのは大変だ。
もったいないけど卵を一つ使って泡立ててみた。
やっぱりだめだった。茎ホイッパーは卵黄と相性が悪い。
茎が卵黄を吸って入っていってしまい、これでは洗って再利用できない。なにより不衛生だ。
振出しに戻った。
――
翌日、再度山に入る。
何かないか探す、まさに藁をも掴む思いだ。藁っぽい茎はだめだったけどさ。
半日探したけどダメだった。
やはり木からホイッパーを作るしかないか……。
一応無い頭で別のプランも考えた。
名付けてシェイカー作戦。
まあ、名前の通りお酒のシェイカーみたいに、密閉容器に卵を入れてシェイクするって考えだ。
密閉容器なんてないから無理なんだけどさ。
――――
家に帰り、みんなで晩御飯。
浮かない俺を気にして先生が声をかけてくれた。
「赤井君は何をしてるんだい?」
「あ~、ホイッパーをつくってるんですよ」
「ホイッパー……泡だて器の事か」
「ええ、これがなかなか難しくて」
フッチーさんとヨドおばあちゃんに相談したことと、茎ホイッパーの失敗談を共有した。
「なるほどな~。確かにホイッパーって再現するの難しいな」
「そうなんですよね~、簡単そうに見えて難しいんですよ」
「ホイッパーって何?」
二人して考えてると設楽ちゃんが尋ねてきた。
「ホイッパー知らないの? ほらこういうさ、ステンレス製の気球みたいな形のやつ」
身振り手振りで伝える。
「ああ、見たことある。あれって混ぜる機械でしょ?」
流石料理知識は皆無なんだな。
「混ぜるというか、泡立たせるのが目的なんだよ。こう……卵とかに空気を含ませるんだ」
「ふ~ん、コロイド化ってこと?」
「そうそう、そういうことだよ」
先生が同調した。よくわからんけどそういうことだ。
「じゃあ、多分出来るわ」
「へ?」
「泡立て器作るわ」




