105話 ★今後の方針★
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「どうしたい……か」
正直、明確なビジョンってやつは無いな。
未だに『異世界の成長』ってのがピンときていない。
「ん~、この世界を成長させたい。ですかね」
「それは『神様』がそう言ったからか?」
う~ん、ミックの依頼がスタートではある。だけどミックのために頑張ろうとは思わない。
そんな義理も無いしな。
「それはキッカケですね。神様のために頑張る気なんて全くないですよ。
やっぱり……、役に立ちたいからじゃないですかね」
「役に……か」
なぜ役に立ちたいのか聞かれると正直困っちまう。
理由付けはやろうと思えばできるけど、なんか野暮な気がする。
例えば『サッカーしたい!』、『カレー食べたい!』って言って、なぜですかって聞かれたら困る。
サッカーがしたい理由は、サッカーがしたいからだ。カレーが食べたいのはカレーが食べたいから。
球が蹴りたいからでもないし、香辛料を堪能したいからでも無い。
「そうかそうか、はっはっは」
笑って終わった。ちょっとほっとしたぜ。
「でだ」
「なんでしょう」
「具体的にどうするんじゃ?」
「それは~、そのぉ~」
「なんじゃ、なんもないんか」
た、助けて設楽ちゃん! チラチラ見つめてみた。
「ハア」
「はは、なんかあるんでしょ。よ! 設楽先生!」
非常にうっとおしそうだ。そんな顔も嫌いじゃない。
「――クラーク村に関して言うなら」
「ふむ」
「特に何もないわ」
「ズコ!」
溜めといて何も無しかよ。
「な、何もないの」
「別にプランが無いわけじゃない。出来ることはあると思う。でも……」
「必要無いんじゃな」
「そうですね」
どうゆうことでしょうか。よくわからないです。
「赤井さん、この村に何か問題点ってありますか?」
「ん~そうだなあ」
たいして無いかも。財政面も解決したっぽいし。
「無いかも」
「ですよね。物資も今回の王都でほぼ調達できたみたいですし」
「ドルゼ村と交易出来るようになれば負担も減りそうだしなあ」
クラーク村いい感じだ。
「じゃあ不幸な人はいますか?」
「不幸……? いや~いないんじゃないかな。暗い顔の人なんて……村長ぐらいじゃん」
「ぶふふ」
ゼツペさんにウケたみたいだ。
「そうなんです。なのでこの村でやることは特にありません」
「で、でもさ! 例えばほら! 冷蔵庫が普及したらより良くなると思わない?」
「便利にはなるでしょうね。まあそれぐらいしかやることが無いってことね」
俺の案はバッサリ切り捨てられた。
「ふむ……お嬢ちゃん何か別に策があるんじゃな」
「そうなの? 教えて設楽ちゃん!」
ちゃんづけで呼ぶことにイラっとされたみたいだ。
「……それは」
「うん」
「まだ具体的には決まってない」
「じゃが案はあるんじゃろ?」
「う、それは……まあ」
なんかモジモジしてるな。今日はゼツペさんが一緒だから強気に聞けるぜ。
「ほらほら、はやく言っちゃいなよ」
「宿場町……」
「ん? 王都の手前にあった?」
「違う」
他に宿場町なんてあったっけ。設楽ちゃんは観念するように話した。
「クラーク村とドルゼ村の間に宿場町を作りたい」
「へ?」
「ほう」
町を作る…?
「なんで? それってすごい大がかりだよね」
「う、うん」
暫し沈黙。壮大過ぎて何を聞けばいいかわからなかった。
「なるほどのう、いつから考えていたんじゃ」
「王都から帰ってくる道中……です」
ゼツペさんは顎に手をあて考えている。
俺は何も考えずポカンとしている。
「町の目的はなんじゃ?」
「交易の中継地点」
「クラーク村とドルゼ村のか?」
「クラーク、ドルゼ、ウィンダーブル」
「なるほどなるほど、場所はどうするんじゃ?」
「待って」
設楽ちゃんは、部屋に戻りノートを持ってきた。
「こんな感じです」
ノートには可愛い地図が描かれていた。ところどころ絵が描いてある。
「これ、ピコじゃね?」
「う、うん」
山間部と思われる位置にピコの絵が描いてあった。
「絵、上手いんだね~」
「う、うるさい」
照れてるぜ。可愛いぜ。
「なるほど、位置関係を表した地図か」
「はい、クラーク村から、ウィンダーブルは三日かかりました。
ドルゼ村には二日かかると聞いてます」
「場所的にはこの辺じゃの、ワシなら一日で来れるが、馬車なら二日は妥当な線じゃな」
クラーク村の東北東側にドルゼ村はあるみたいだ。
「もし宿場町をつくるんならこの辺りです」
結構微妙な位置を指した。
「なぜじゃ」
「一つ目は川が近いことです」
そういえば王都に行くとき川を渡ったな。
ドルゼ村から帰ってくるときも川を渡ったし、あの川の事だろう。
「もう一つは、クラーク、ドルゼ、ウィンダーブルに一日で着ける可能性がある場所がここだからです」
たしかに三つの場所の中心点に位置している。だけど疑問がわいた。
「でもさ、ウィンダーブルまで三日かかったじゃん」
「あれは道が悪いからよ。……舗装さえできれば」
「舗装となると、かなり大変だね」
「……うん」
舗装に関しては懸念点だったみたいだ。ちょっとしょんぼりしてる。
「じゃがこれは面白い案じゃ。難しいが夢物語でもないのう」
「そうですよね!」
設楽ちゃんは明るくなった。コロコロ表情が変わるな。
正直、俺には町をつくるなんて壮大過ぎてイメージが出来ない。
難しい顔になっていたんだろう。
「アカイよ」
「は、はい」
「お前はもっと理解してやらねばならんぞ。お嬢ちゃんの案はなかなかよく考えられとる」
「う……すいません」
諭されちゃった。自分の想定外だとどうしても否定的になっちゃうな。
友達がミュージシャンになるとか言い出して止めたことを思い出したよ。
「お嬢ちゃん」
「ふぁい?」
ゼツペさんの低い声に驚いたようだ。
「お嬢ちゃんも、もっと赤井に頼ったほうがええぞ。この話も初めてしたんじゃろ」
「あ……はあ」
「秘め事は誰にでもペラペラ話しちゃいかんが、アカイには話しても良かったんじゃないか?
その『イセカイ』とやらから来た仲間なんじゃしの」
設楽ちゃんも諭されて、小っちゃくなっちゃった。爺さんの威厳すごい。
「まあ、お前たちはもっと仲良くなってもいいんじゃないのかのう。男女なんだしの! はっはっは!」
「な、なに言ってんですか」
「照れるな照れるな、はっはっは」
そんな仲じゃないですから!
ちらっと見た設楽ちゃんの表情は、魔法ランプに照らされていたがよくわからなかった。
――――
「まあ、町づくり目標にしてみてもええんじゃないかのう」
「そうですね」
目標があるっていいな。まだ道筋が全く見えてないけど。
「でも具体的に何すればいいんだろうね、設楽ちゃん」
「簡単よ」
設楽ちゃんはいつものクールさを取り戻したようだ。
「金よ」
「金ですか」
「金よ」
守銭奴みたいな発言に少し驚いた。
「なんにせよ軍資金は必要だわ」
「そうじゃな、綺麗ごとでは町なんぞ作れん」
「運営していくには、資金が必要だし」
なんか、町づくりというか、会社経営みたいだな。
夕張市が破綻したニュースも見たし、町の運営ってのは案外経営と似ているのかもな。
「そっか、じゃあ当面は資金作りだね」
「そうね」
「はっはっは、楽しみじゃのう」
なんかやることも決まっていい感じだ!
こんな大事な話の時に寝ている先生にはがっかりだけどさ! せっかく見直してたのに!
「それじゃあ、ワシはそろそろ帰るかのう」
「あ、そうですか。泊っていってもいいんですよ」
「リンクスの顔も見ておきたいからの、なによりこの家、客人が寝れるようには見えんが……」
た、確かに。
「ははは、すいません」
「して明日の朝はどうすればいいんじゃ?」
「また我が家まで来てもらえますか?」
「わかった」
「リンクスも連れてきてくださいね」
明日はもてなし第二弾だ。今回はリンクスもしっかりもてなすよ。




